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第二章最終話・上 ~皇帝陛下の相談役~

 まだ、答えは見えない。


 道を選ばねばならなくなって三日が過ぎた。

 真っ先に師匠に斬撃を見せてもらい、リディに手合せしてもらい、私用だとほとんどパーティホームにいないカルドラルさんに暇を見て稽古をつけてもらった。

 だが、見ても何かが違う、手合わせてもお互いに何がダメなのか分からない、稽古をしても答えを示してはくれない。


「じっと見てるけど、面白い?」

「ん~……今はおもしろいなぁ~」


 空は青いのに朝日だけが雲にさえぎられている空の下、湯呑みでお茶をすすりながらニコニコしているメアリーと共に縁側に並んで座り、何をするでもなく庭を見ていた。


「良い趣味してるな」

「……えへへぇ~、そうでもないよぉ~」


 沈黙。


 そろそろ皿洗いを終えた師匠が来て鍛錬が始まる頃かと思った時のことだった。


「あの、おはようげぜえま……コホン。おはようございます!」

「やっほー、おねーさんだよー」


 メアリーのいるのとは反対の左側から廊下を通って現れたのは、師匠へのハニートラップのために受付嬢から課長代理まで一日で超出世したポーラと、最近顔を出す回数がめっきり減った自称おねーさんのアイラさんだった。


「あ、おはよぉ~」

「おはよう……あれ、ポーラ仕事は?」


 うちでゴロゴロしてるのを仕事と言い張るアイラさんはともかく、ポーラは仕事中のはず。

 実際、ポーラの服装は、タイトスカートを着用したスーツっぽいギルドの制服である。とても私用とは思えないし、少なくともここしばらくはギルドに目を付けられるようなことをした覚えもない。


「そ、そそそそそそそそそそそそ――」

「あー、今のポーラちゃんじゃこうなっちゃうかー。話が大きすぎるからねぇ」

「ポーラちゃん、だっけぇ~? おもしろいだねぇ~」


 初対面のメアリーの前で動作不良な姿をさらしてしまっているポーラを、アイラさんが落ち着かせた。

そして、真っ赤になってうつむく課長代理ちゃんに代わって、ぐーたら騎士が説明を始める。


「まあ簡単に言うとね、とあるやんごとない身分の方が、ミゼル君と会いたいんだって。ところが、身分が違いすぎて一冒険者と大っぴらには会えない」


 なるほど。話は見えないが、要件は分かった。


「つまり、二人はこっそり会うための手引きのために動いてるんですね」

「そうそう。ポーラちゃんは、ミゼル君と会いたがってる人の名前を聞いてから緊張しっぱなしだからね。おねーさんもサポートのために来たの」

「そうですか。じゃあ、時期や要件――」

「さ、行こうか」

「……え?」


 聞き間違いだろうか? 今、何だかとんでもない言葉が聞こえた気がする。


「あの、僕はこれから、師匠やリディと鍛錬するんですよ」

「じゃあ、そっちは延期で」

「いやいやいやいや、事前のアポくらいお願いしますよ!」

「だって、今からじゃないと、季節外れの新人ポーラちゃんの、宮殿内の仕事上関係するお役所へのあいさつ回りに紛れ込んでミゼル君を入れられないもの」

「そんなこと知りませんよ!」

「じゃ、そーゆーことで」


 そのアイラさんの言葉を合図に、現れる複数の人影。

 抵抗する間もなく羽織袴をひん剥かれ、刀などの武装を解除され、気付けばギルド職員の制服姿。


「よし、準備完了! ミゼル君を、表の馬車に放り込みなさい! ――で、ポーラちゃんも行くわよ」

「は、はい!」


 そのまま正体不明の人影たちに持ち上げられて、抵抗できずに運ばれていく僕。

 独力ではどうにもならないと、頼もしい仲間に救いを求める。


「メアリー!」

「あ、イサミパパたちには言っとくよぉ~。お土産よろしくねぇ~」


 ふっ、仲間ってなんだろう……。


 結局、抵抗虚しく馬車の中である。

 進行方向に向かって僕が座り、向かいにはアイラさんとポーラが並んで座っている。


「で、アイラさん。この騒動の元凶さんの名前くらいは教えてもらえるんですか?」

「ふふん、聞いて驚け。皇帝陛下の相談役ハーミット様である」

「へぇ……偉いんですか?」


 空気が固まる。

 ポーラまで「この人は本気で言っているのだろうか?」と言いたげな表情なのを見る限り、田舎者だからと知らないのを許されない有名人なのだろうか。


「えっと、ミゼル君。本気?」

「残念ながら」

「……そう。一応説明すると、帝国建国時、初代皇帝陛下の即位から今まで数百年に渡ってその地位にある、帝国の重鎮じゅうちん。真の名を隠して偽名を使い続けていることから、建国以前の足跡そくせきを辿れない存在。表舞台には出たがらないけど、最上級種の精霊である大精霊の力と長く生きたことで得た膨大な知識は、誰もが無視できない存在感を放つ」


 なるほど。

 確か、ソウルイーターについての情報源も、『皇帝陛下の相談役殿』だってアイラさんが言ってたっけか。


「ミゼル君? 足し算引き算、基礎的な読み書き、そしてこの程度の大まかな歴史知識は、どんな田舎でも学舎の義務教育課程で習うわよね? 数字や政治的センスに比べて、歴史や社会については極端に知識がないのね」

「あはは……」


 そりゃそうだ。

 前世の知識を利用して、授業はすべて睡眠についやしながら剣を頑張っていた。

 算数と国語で点を稼げば、最後の一科目である歴史が壊滅的でも総合点が無事に卒業ラインに届くと知ったときから宿命づけられていた結果である。

 つまり、異世界なのに算数力と国語力を引き継げてしまった謎補正と、科目ごとの最低点を定めずに総合点だけで判断する教育システムが悪い。


「まあ良いわ。そろそろ到着だし、二人で行ってらっしゃい」


 そう言うアイラさんに促されて出れば、すぐそこにそびえ立つのは、巨大な石造りの荘厳な城。

 帝国の中枢たる宮殿であった。


「アイラさんは来ないんですか?」

「地味に名前も顔も売れてるおねーさんは、ついていくと目立つからね。このまま黒竜騎士団の駐屯地まで送ってもらうわ」


 そうして、ポーラと二人で少し離れたところにある門へと歩いていく。


「こ、この先はまかせてくだひゃい!」

「うん。よ、よろしく」


 大いに不安である。

 ……とりあえず、僕が頑張ろう。


 てくてく歩くのだが、宮殿近くというのに、服装からして見かける人物がどうみても平民ばかりだ。

 たまに馬車が門から出入りしているのが見えるのだが、馬車からして随分と安っぽい物ばかりである。


「そこの二人、何用か?」


 城門にたどり着くと、そこにいたのは、声を掛けてきたベテランの風格ある中年男ドワーフと猫獣人の若い娘の門番二人組。

 宮殿の周囲を囲む城壁にある門な訳だが、はっきり言ってしょぼい。

 地味な上にこじんまりしているし、並ばなくても入れるくらいに人の出入りも少ない。その上、一目見てわかるほどの上等な装備に釣り合わぬほどに門番にやる気が感じられない。


「帝国冒険者ギルド帝都本部財務部債権債務管理課課長代理ポーラ・ロワイソン! Bランクパーティ……あ……」


 元気よく名乗りを上げようとしたポーラだが、非公式の会合をする俺の所属を正直に言ったらマズイことに気付いたようだ。もしかしたら言われていたのを『思い出した』だけかもしれないが。

 しどろもどろで見るからに怪しいポーラを放って、中年ドワーフは右手に槍を持ったままで左手に持った書類に目を落とす。


「あの……、えっと……」

「ポーラ・ロワイソン及び随員『ミルド・エルドール』! 両名の登城を許可する!」

「え、あ、はい!」

「あ、はい」


 槍の石突を石畳に打ちつけて直立不動で言う中年ドワーフ、そして慌てて続く、猫獣人の若い娘の門番二人組。

 しれっと偽名で登城予定者に入れられた上、本人確認もない。これで良いのかと思いながらも、ポーラが言葉に詰まったのをフォローできない程度に知識のない僕は、そのまま足を進める。


「ま、ここは裏門だから、次からはもっとフランクに来ても良いぞ」


 そのまま豪快に笑っている、すれ違いざまの中年ドワーフの言葉で、大体分かった。

 それなりに身分がある人たちは正門を使って、ここは物品の納入業者などの平民がが使う専用の場所なのだろう。

 だから地味だし、張り切って頑張る場所でもない。

 ただし、この手抜き状態が問題でないとは言っていない、ってことだ。


 きっと、正門用の名乗り文句を必死で予習してきたのであろう少女は、うつむき加減のまま、黙って城に向かって門内を進んでいる。


「えっと……まあ、こういうこともあるって」

「あぅ……」


 気を遣って逆に止めを刺した気もしながら少し歩くと、城本体の建物が見える。

 そして、そこには二つの人影が見えた。


「あ、こっちですよー!」


 そう言って大きく手を振る、僕と同じくらいか少し年下に見えるロングスカートで清楚な雰囲気のメイド服の人族の少女。そして、無言で軽く会釈えしゃくする、もう一人と比べて二回りは小さい小人族の中年女性。


「では、課長代理殿はこちらへ。ミルド殿につきましては、面会の終了時間が未定のため宮殿の方で帰りの手配はするとのこと。こちらは気になさらなくても結構です」

「うぅ……ミゼ……ドルさん、ご迷惑をお掛けしましただ……」


 それだけ言って、ギルドの二人は立ち去る。

 残るは、セミロングな金髪金眼のメイドさんと僕の二人だ。


「本日『ミゼル』さまのお世話を担当致します、エミリアです」

「あ、どうぞお願いします」

「では、さっそくこちらに。本日、ハーミットさまは午前中のご予定がないためこのまますぐに面会となりますが、よろしいですか?」

「はい、特に問題はないです」


 若いを超えて幼いとすら言える年齢なのに、所作しょさがかなり洗練されている。

 廊下を先導されるままについていくが、動きの一つ一つが見惚みとれるほどに美しい。

 流石、皇帝の居城ともなれば、幼くとも働く人間は一流ぞろいの様だ。


 そして、いくつもの廊下や階段を通りながら誰にも会わないことに疑問を抱いたころ、エミリアちゃんの足が、とある扉の前で止まる。


「こちらがハーミット様の執務室です。準備はよろしいでしょうか?」


 その質問に肯定を返すと、エミリアちゃんが扉を四度叩く。


「何だ?」

「ハーミットさま、ミゼル・アストールさまをお連れしました」

「そうか、入ってもらえ」


 扉の向こうとのやり取りを経て、エミリアちゃんがドアノブに手を掛け、そのまま手前に引いて開ける。


「どうぞ、お入りください」


 扉をくぐるときに掛けられた言葉に軽く会釈し、そのまま部屋に入ると、エミリアちゃんもそれに続く。


「よく来たな。まあ、そこに座れ――あと、エミリア。茶を二人分じゃ。」


 そう言うのは、エミリアちゃんに負けず劣らずの年齢の見た目の少女。

 空色の瞳に黒のロングヘア、マントを羽織り三角帽子のその姿は、『魔女』とでも評しようか。

 そのまま出て行ったエミリアちゃんに続いて言葉に従おうとして、絶句する。


 室内は、随分とごちゃごちゃした場所だった。

 どこを見ても本、本、本、本……。

 本棚が爆発寸前なのはもちろん、床に山積みされていたり、無造作に放り出されていたり、『整理整頓』という言葉とは程遠い惨状だった。

 そんな中、何とか本を踏みつけないように頑張って進み、その一角だけ不自然に本がない、応接用と思われるソファにローテーブルを挟んで向かい合って座る。


「あー、こりゃ確かに魔法は使えんな。それに、ソウルイーターを斬り捨てた斬撃とやらも、そういうことか」


 そして、面会はそんな衝撃的な言葉から始まった。





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