(3)共同作成
運営からの依頼は、アイテムの作成依頼だった。
依頼を受けると同時に、というか、運営が去った後に<神の作業帳>を確認すると、新しいアイテムが登録されていた。
予想通りというべきか、No.100のアイテムで、名前は<神のオーブ>だ。
名前からしていかにもという感じだが、具体的にどういうアイテムかは分からない。
アイテムの説明文を見ても大した情報は書かれていなかった。
<神の力が詰まったオーブ。何に使われるかは不明。>と書かれているだけで、品質も同じように<不明>と書かれている。
勿論それだけだとほとんど意味がないのだが、情報としては他にもあった。
例えば、<神のオーブ>を作る材料となるのが、<神秘のオーブ>と<賢者の石>の二つだというのもその一つである。
その二つのアイテムを作るのには、今まで作成して来たアイテムを作る技術のほとんどを駆使して作らなくてはならない。
当たり前といえば当たり前なのだが、そこから分かるのは<神のオーブ>は今までの技術の集大成となるアイテムだという事だ。
前提となっている二つのアイテムもまだ作ったことはないので、<神のオーブ>を作れるのはまだ先になる。
ハジメは<神秘のオーブ>と<賢者の石>の作成を目指して、日々のアイテム作成に励んでいた。
紅月華園から発表された運営介入の情報は、ひとまず半信半疑という状況で落ち着いていた。
一般に出回っている情報では、ハジメが情報の元になっているとは知らされていないため、確認するずべがない。
さらに、紅月華園以外からは同じ情報も出てこないので、デマだと判断する者も多いのである。
ハジメたちとしては、半分のプレイヤーが情報を信じているというのは、当初の予想よりも多かった。
もし掲示板での出没や、鉱山地区での介入が無ければ、ここまで数は増えなかっただろうと分析している。
ただし、他にも同じような依頼を受ける者が出てこなければ、今後は情報が嘘だと思うプレイヤーの方が多くなるだろう。
もっとも、他のプレイヤーの所に運営が直接依頼してくるかどうかは、あくまでも運営次第なので、ハジメたちとしてはどうしようも出来ない。
こればかりは、運営に出てきてもらうよう願うしかないのであった。
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<神のオーブ>の作成を目指して日常を過ごしていたハジメの元に、パティから連絡が来た。
連絡といってもシステム上のメールからではない。
多くの生産職を抱えている<無限創造>というギルドが、最近販売しはじめた<越境通信>という魔道具がある。
この<越境通信>は、いわば携帯電話のような機能があるのだが、最大の特徴は交流の街と各プレイヤーの拠点を繋いで会話出来ることだ。
わざわざシステムを開いてメールを確認する必要もないので、急速にプレイヤーたちの間で広まりつつある。
便利な道具なのに広がっているのが限定的なのは、少しばかり費用がかさむためである。
ギルド<無限創造>もその点は認めていて、次の目標は割安になるようにすることと公言していた。
そんな<越境通信>を使ってのパティから連絡は、すぐにギルド拠点に来てくれないかというものだった。
詳しい要件を話したわけではなく、単に来てほしいとだけ言って来たので、ハジメは内心で首を傾げながら拠点へと向かった。
転移陣があるので、移動自体は一瞬で終わる。
ギルド拠点の転移陣がある部屋は、勝手に利用されないようにするために、建物の上の階にある。
イリスと共に転移陣がある部屋から出たハジメは、そのまままっすぐパティが指定して来た部屋へと向かった。
ハジメが部屋に入るなり、パティが椅子から立ち上がって出迎えてくれた。
「や、突然すまんなあ。どうしても早く来てほしかったんやわ」
「いや、丁度作業の合間だったからいいんだが・・・・・・要件を持って来たのは、お前か?」
ハジメはそう言って、部屋の中にいた別の人物に視線を向けた。
そこにいたのは<無限創造>のギルドマスターであるヤーコブだった。
「ああ、作業中にすまんな。どうしても頼みたいことがあってな」
「頼みたい事、か」
<無限創造>がどういう用件で自分を訪ねて来たのか分からず、ハジメは首を傾げた。
「まあまあ、立ち話もなんやから、取りあえず座ろうや」
パティがそう言って、ハジメを自分の隣に座るように指し示した。
ハジメはパティに示された椅子に座るなり、視線をヤーコブの隣に向けた。
「それで? 俺に要件というのは、そっちの奴に関係するんだろう?」
ヤーコブの隣には、別のプレイヤーが座っていた。
「話が早くて助かる。その通りだ。こいつ・・・・・・ルボルが、お前さんとあるアイテムの興味を示していてな」
ルボルは<無限創造>に所属する建築士だ。
そのルボルが興味を示したというアイテムは、<携帯拠点>である。
ヤーコブが言うには、<携帯拠点>の中にあるのはテントなのだが、それをそのまま普通の建築物に置き換えられないかとルボルは考えたそうだ。
「もしそれが可能なら、今の狭いテントではなく、大きな屋敷でも携帯できるようになる。・・・・・・というのがこいつの話なんだが、出来るのか?」
そんなことを言って来たヤーコブも半信半疑といった表情になっている。
一応ルボルから説明は受けているのだが、本当に出来るのかどうかは信じ切れていないというった所だろう。
だが、ヤーコブの話を聞いたハジメは、あっさりと頷いた。
「なるほどな。・・・・・・まあ、出来るだろうな」
「出来るのか!?」
「ほんまか?!」
驚くヤーコブとパティに、ハジメはあっさりと頷いた。
「ああ。<携帯拠点>の中がテントになっているのは、単純に俺が建築系のスキルを持っていないからだ」
最初は一番簡単に出来そうだった為にテントで作っていたのだが、色々とやっていくうちに普通の建築物でも可能だというのは気づいていた。
だが、誰もスキルを持っていないのでどうすることもできなかった。
<携帯拠点>を豪華にするためだけに、わざわざ建築スキルを新たに覚える気も起きなかったというのも理由の一つだ。
あっさりとしたハジメの言葉に、他の者たちは致し方ないという顔になっている。
ハジメが個人で色々なスキルを持っていることは、自分から公開したりはしていないが、既に知られている。
今まで作って来た物があるだけに、推測するのは簡単なのだ。
「出来ればちゃんとした建物で作ってみたいという考えはあったが、色々と良いのか?」
わざわざルボルを連れてきているという事は、彼と一緒に共同開発したいという事はわかる。
ただし、それぞれ違うギルドに所属している者同士で、一つのアイテムを作ることになるんで、色々とややこしい問題が発生する。
ハジメがちらりとパティへと視線を向けると、パティは軽く頷いた。
「その辺りのことをさっきまで話しとってな。大体問題なさそうやからハジメがかまわへんのやったら進めてかまわへんで」
「ああ。計画を進めていく上で、色々と細かい問題も出てくるだろうが、その辺りは都度調整していけばいいだろう」
「せやな。取りあえず今は、ハジメもおることやし、具体的な分配について話すくらいや」
そもそもアイテムを作れるハジメがいないと、当然ながらそれぞれの負担がどの程度になるかも分からない。
ハジメを呼んだのは、共同開発する意思があるかを確認するためでもあり、その辺りの細かい取り決めをするためでもある。
結局、この後は小一時間ほど使って細かい分配についての話を始めた。
話し合いが終えたあとに拠点に戻ったハジメは、<宝石加工>の上位スキルである<上級宝石加工>を取得した。
中に入る物がテントであればそこまで品質の良い加工品でなくとも十分なのだが、今後の研究次第で物が大きくなっていく可能性がある。
そのためには、どうしても上級のスキルがあったほうが良い。
さらに、ついでにということで他の二つのスキルも上級スキルを取得しておく。
一つは<上級装飾作成>で、もう一つは<上級錬金術>だ。
<上級宝石加工>と<上級装飾作成>に関しては、今更という気もしなくはないが、運営からの依頼で高ランクのスキルを使用する可能性もあるのだ。
というより、使用することを前提に考えておいた方が良いだろうと判断した。
<錬金術>は丁度<master!>になったので、それに相乗りした形である。
これらの作業で空きスキルがだいぶ減ったが、まだまだ余裕はある。
新たにスキルを手に入れたハジメは、早速作業を開始するのであった。
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ハジメが作った<携帯拠点>は言うまでもなくテントがメインになっている。
そのテントを通常の建築物に置き換えて作業をすることになるのだが、一つ大きな問題があった。
それは、何処で作業を行うか、である。
一番最初は簡易的な建物で実験を行う事になっているが、それでもある程度の広さは必要になる。
さらに普通に建物を建てることになるので、一日でパッと建てるというわけにはいかない。
さらにさらに、実験的な要素もあるため、普通の建物と同じように基礎からきちんと作る予定になっている。
そのため、どうしても時間と場所に制約が出来てしまう。
だが、その問題については、あっさりと決着がついた。
共同開発を行うルボルが、ハジメのエリアで構わないといったためだ。
そもそも建築士にとっては、建物を建てる場所で寝泊まりすることはごく普通に行われている。
勿論、材料そのものを用意するのは自分の拠点でも出来るのだが、建物を建てるにはどうしてもその現場に行かなければならない。
わざわざ自分の拠点から行き来するよりも、現場にいた方が楽だと考える者が多いのである。
その結果として、ルボルがハジメの第一エリアで寝泊まりすることになるのは、当然の流れといえるのであった。
「おー。良い立地っすねえ」
ハジメの本拠点から第一エリアに出てすぐのボルボの第一声がそれであった。
「そうなのか? 俺にはよくわからんが」
「何を言ってるんすか。ちゃんとした平地になっているだけで十分っす」
ルボルがそんなことを言うのには当然訳がある。
そもそも建築士をメインにしたプレイヤーは、通常のクエをこなして稼いでいくわけだが、レベルが上がるにつれて無茶な要求が増えて行くようになっている。
例えば、どこどこの崖に一軒建物を建てろ、とかである。
そうしたクエをこなして来たルボルからすれば、目の前に広がる平坦な地形は素晴らしい地形に見えるのだ。
「そうか。ここで問題ないのであれば、早速始めようか」
「そうっすね。基礎から作ればいいっすか?」
「いや。最初は場所だけ選んでくれ。まずはこっちの作業からしないと駄目だからな」
<携帯拠点>は、先にテントを立ててから作っているのではなく、テントを収納できる場所の空間に処理を施してからテントを立てている。
そのため、いきなり基礎の処理を始めてしまうと、まともな建物にならなくなる可能性がある。
「なるほど。わかったっす。皆、取りあえずさっき言った通りの大きさでよさげな場所を選ぶよ!」
ルボルのその言葉に、彼のサポートキャラたちが一斉に動き出した。
彼らは全員が建物の建築に適したスキルを持っている。
例えば<測量>などもその一つだろう。
ほどなくして彼らは場所の選定を終えた。
その場所は、本拠点のすぐ傍ではなく歩いて十分程度のところだった。
その間ハジメとルボルは、細かい手順などを確認していた。
<携帯拠点>を作るのには、幅や奥行きは当然として、高さも重要になってくる。
もし最初に決めた高さを越えて建物を作ってしまうと、その部分が収納されなくなってしまう。
「なるほど。そうだったんすね。・・・・・・という事は、今すぐに始めるより、設計図を作ってからの方が良いっすね」
「そうか。その方が良いのであれば、こっちの処理も待つことにしよう」
「了解っす。今回は簡単なので、さほど待たせないかと思うっす」
ハジメの最初の作業としては、大体の大きささえ分かっていればいい。
建物の立て方に関しては、素人の自分が口を出すつもりがないハジメは、すぐに頷くのであった。
結局この日は場所の選定だけを行う事になり、本格的な作業は翌日から始まった。
ちなみに、本格的な建物で出来た<携帯拠点>は、男女混在のパーティにとって必要不可欠なアイテムになっていくことになるのだが、今の二人はそんなことは露知らず作業を進めていくのであった。
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<携帯拠点>の作成を順調に進めていたある日。
外で作業をしていたはずのルボルが、突然ドアの外でハジメを呼んできた。
「ハジメさん、ハジメさん、大変っす! すぐに来てっす!」
その時は偶々イリスが農作業をひと段落して部屋に戻ってきていたので、二人で顔を見合わせて首を傾げる。
「なんなんだろうな?」
「分かりませんが・・・・・・取りあえず行った方がよさそうですね」
言葉から察するに、ルボルはかなり慌てているように聞こえる。
作業を中断させたハジメは、ルボルの元へ向かった。
「どうしたんだ?」
「ど・・・・・・」
「ど?」
「ドラゴンが!」
ルボルのその一言で、ハジメは何が起こったのか理解した。
そしてそのまますぐにルボルと共に外へ出た。
そして、そのハジメの予想通り、建築作業場所から目で見えるくらいの離れた場所に一体のドラゴンが鎮座していたのである。
そのドラゴンとは、勿論ヒエロニムスであった。
ヒエロニムスがこうして姿を現したのにはきちんと訳がある。
そもそもヒエロニムスは、今まで世界中を見回っていた。
そのため近くにある町などの情報もきちんと持ち合わせていたので、その報告のために姿を見せたのだ。
「そのためにわざわざ来てくれたのか? すまないな」
「何。久しぶりに巣に戻って来たのだ。ついででもある」
確かにヒエロニムスにとっては、自身が寝床としている場所とハジメの拠点は大したことが無い距離だろう。
そう納得したハジメは、早速ヒエロニムスから町の情報を聞き出すのであった。
ヒエロニムスの話では、結界で覆われていた広大な地域は、現在では「聖域」として扱われていて近づく者がいない場所になってる。
そのため聖域の周辺には、町はほとんどなく一番近い町でも徒歩で三日ほどかかる場所にしかないらしい。
聖域を取り囲んでいる国家はいくつかあるが、聖域に関してはお互いに不干渉を貫いている。
そんな状況なので、バネッサたちが森の周辺を調査しても町どころか人っ子一人見つからないはずである。
そうした話をヒエロニムスから聞いたハジメは、周辺にある町と国家の名前だけを確認してヒエロニムスと別れた。
ちなみに、建築中の<携帯拠点>の所まで戻ったハジメが、ルボルのパーティのメンバーに尊敬のまなざしで見られたのは余談である。
名前:ハジメ
種族:ヒューマン(人間)
職業:特級作成師LV32(7up)
体力 :6488(+423)
魔力 :10615(+710)
力 :1031(+70)
素早さ:992(+79)
器用 :2105(+171)
知力 :1240(+103)
精神力:1540(+125)
運 :20
スキル:上級調合LV17(1up)、上級魔力付与LV17(1up)、魔付調合LV16(1up)、宝石加工LV20(master!)、上級宝石加工LV4(new!→3up)、装飾作成LV20(master!)、上級装飾作成LV2(new!→1up)、
錬金術LV20(1up→master!)、上級錬金術(New!)、鑑定LV20(master!)、収納LV20(master!)、俊敏LV16(1up)、魔力操作LV20(master!)、気配察知LV8(3up)、短剣術LV12(1up)、
槍術LV5、風魔法LV19、地魔法LV19、水魔法LV19(1up)、火魔法LV19(1up)、光魔法LV19(1up)、闇魔法LV19(1up)、空き×5(1up)
職業スキル:短縮作成
名前:ルフ
種族:フェンリル
職業:魔狼LV53(8up)
体力 :12923(+1052)
魔力 :5677(+564)
力 :1646(+168)
素早さ:954(+101)
器用 :485(+50)
知力 :534(+60)
精神力:570(+59)
運 :10
スキル:牙撃LV20(master!)、激爪LV20(master!)、威圧LV20(master!)、体当たりLV20(1up→master!)、俊敏LV20(master!)、気配察知LV20(master!)、収納LV20(master!)、報酬LV20(1up→master!)、
魔力操作LV20(master!)、遠距離走法LV17(1up)、隠密LV17(1up)、発見LV13(2up)、火魔法LV20(1up→master!)、水魔法LV20(1up→master!)、風魔法LV19、土魔法LV19、空き×8(1up)
職業スキル:遠吠え
固有スキル:鋭敏な鼻
名前:イリス
種族:牛獣人
職業:農婦(達人)LV39(7up)
体力 :10844(+921)
魔力 :6213(+568)
力 :1046(+105)
素早さ:522(+61)
器用 :954(+99)
知力 :670(+82)
精神力:896(+106)
運 :10
スキル:上級栽培LV19(1up)、採取LV20(master!)、大収集LV8(2up)、成長促進LV20(master!)、料理LV20(master!)、収穫LV20(master!)、採掘LV9、交渉LV15(1up)、棍棒術LV14(1up)、
怪力LV20(master!)、収納LV20(master!)、鑑定LV13(1up)、体術LV11(1up)、魔力操作LV19(1up)、水魔法LV20(master!)、地魔法LV20(master!)、空き×7(1up)
職業スキル:種子作成、農地管理
固有スキル:緑の手
名前:バネッサ
種族:アマゾネス
職業:戦姫LV15(10up)
体力 :10025(+1413)
魔力 :6725(+908)
力 :1229(+169)
素早さ:989(+156)
器用 :752(+105)
知力 :927(+145)
精神力:733(+118)
運 :10
スキル:上級剣術LV9(1up)、上級槍術LV5(2up)、上級弓術LV6(1up)、体術LV20(master!)、火魔法LV20(1up→master!)、風魔法LV19(1up)、水魔法LV17(1up)、地魔法LV17(1up)、
魔力操作LV20(master!)、収納LV20(1up→master!)、解体LV19(1up)、鷹の眼LV18、俊敏LV18(1up)、踊りLV8(3up)、鑑定LV12(2up)、採掘LV11(1up)、空き×7(2up)
職業スキル:戦舞
名前:エイヤ
種族:ダークエルフ
職業:大魔導士LV12(10up)
体力 :4442(+808)
魔力 :10771(+1513)
力 :577(+84)
素早さ:682(+107)
器用 :986(+149)
知力 :1154(+172)
精神力:850(+130)
運 :10
スキル:火魔法LV20(master!)、風魔法LV20(master!)、土魔法LV20(master!)、水魔法LV20(master!)、精霊術LV20(master!)、火炎魔法LV9(2up)、烈風魔法LV9(2up)、
弓術LV18(1up)、鷹の目LV20(1up→master!)、魔力操作LV20(master!)、料理LV19(1up)、精霊魔具作成LV15(1up)、交渉LV9(2up)、空き×7(2up)




