(5)第三段階
※次回更新は、1/9の21時です。
Bランクの回復薬の騒動はしばらく収まる気配が無かった。
何故ならそのランクの回復薬を作れるのが、他にいないからだ。
逆にどうやって作っているんだと問い合わせが来たくらいである。
その質問には、ハジメは答えていない。
そもそも調合に関しては、レシピを秘匿するのが当然だからだ。
というのも、全く同じ職業で調合スキルを持っていたとして、全く同じ手順・レシピで回復薬を作っても出来るランクが作成者によってバラバラなのだ。
しかもランクが上がるほどその傾向が強くなることが分かっている。
メインを調合スキル持ちにしている者達の間ではその話は有名な話なので、問い合わせも当然来ていない。
来ているのは、サブスキルとして調合を付けている者達が問い合わせしてきているのだ。
勿論そう言った者達には、先ほどの話と合わせて丁重にお断りさせてもらっている。
それでもいいから教えろと言って来る者達もいるのだが、そう言った手合いは無視することにしていた。
何としてもBランクの回復薬を手に入れようとパティの露店に、戦闘職たちが毎日のように殺到していたのだが、それも長くは続かなかった。
購入者が減ったわけではなく、店舗が完成したのだ。
パティの店舗は一階が食堂になっていて、二階がパティが露店で扱っていた商品を扱う店舗になっている。
一階の食堂は、知り合いの料理人に貸し出して営業しているのだ。
既に数軒の店舗が店を開けているが、こうした複合型の店もパティが初めてと言うわけではない。
ただし食堂というのは、この店が初めてだった。
単に今まで店舗を構えた者が、食堂ではなく武器や防具といった他の物を扱う店だったというだけなので、別に珍しいものではない。
同じような複合型の店舗は、いずれ出てくるだろうとパティは考えていた。
「それでも一番最初にやったと言うんは、有利やけどな」
「まあそうだろうが・・・・・・味が悪かったりしたら意味がないぞ?」
「そんなんうちが雇うわけがないやん」
「それもそうか」
一階に入っている食堂の料理人は、元々パティと繋がりがあった料理人だ。
パティの店に入るという事で一度ハジメもご相伴にあずかったことがあるが、特に問題はなかった。
問題はなかったと言うのは、どうしてもイリスの食事と比べてしまうと味が落ちる気がするのだ。
もっともハジメは、自分の舌を味音痴ではないとは思っているが、味覚に鋭いとも思っていないのだが。
「やっぱりイリスの作った野菜、卸してくれへん?」
以前も断ったのだが、やはり未練があるのか、パティがそんなことを言って来た。
イリスの料理が、すばらしい食材を元に作られていることを知っているためだろう。
「まあ、無理でしょうね。いくら小さい食堂とはいえ、毎日卸す分となったら結構な量必要でしょう?」
パティの言葉に答えたのは、開店を祝うために来ていたバネッサだった。
「それはなあ」
「多分畑自体は広げようと思えば広げられるだろうけど、それをするとハジメの手伝いが出来なくなるから、やらないわよ」
バネッサがそう断言した。
傍でそれを聞いていたイリスは、特に何も言わなかったが、その表情が答えを言っているようなものだった。
「そうかあ。残念やなあ」
そのイリスの表情を見て、ガクリと肩を落とすパティだった。
「それで? 開店祝いの為だけに来てくれたんか?」
暗にそんなわけないだろうという表情をしつつパティがそう言って来た。
「間違ってはいないが・・・・・・催促されているのか?」
「いややなあ。ハジメ以外にはこんなこと言わへん。催促じゃなくて、確信や」
パティにしてみれば、ハジメの事だからそろそろ新しい製品を持ってきてもおかしくはないと考えての発言だった。
「何だろうな。その通りなんだが・・・・・・まあいいか」
何かを言おうとしたハジメだったが、何も思いつかずに結局そのまま素直に新しい商品を出した。
その手に乗せられているのは、二つの水晶だった。
「転移水晶って。何や、ハジメにしては珍しく普通の・・・・・・わけないか」
「失礼だな。既存の商品に食い込むには、同じような物を作っても売れないだろう?」
「そうやけど。そうなんやけど・・・・・・」
何とも言い難い表情でそう言ったパティは、二つの転移水晶を見た。
正確には二つのうち一つは、転移するための元の指標になる物で、もう一つが転移を行う際に使う水晶になる。
それだけなら既に転移石と言うのが市場には出回っているので、さほど珍しい物ではない。
ただし、既存の転移石は使い捨てタイプの物だった。
ハジメが出して来た転移水晶は、使い捨てになるのは変わらないが、複数回使える物になっている。
「まあ、ええか。これもある程度在庫はあるんやろ?」
パティもこういうやり取りに慣れて来たのか、すぐに立ち直って続きの交渉を始めた。
「ああ、持ってきてるぞ。すぐに必要か?」
「どうやろうなあ。転移石もあるからすぐに売れるいうわけではないと思うけど、店も出来てスペースも余裕があるからいくつか並べておくわ」
パティはそう言って、どこに置くかを考え始めた。
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「失礼する」
ハジメとパティが話し込んでいると、店にいかつい男が入って来た。
パティの店は女性メインをターゲットにしているが、男性客がが全く来ないと言うわけではない。
何よりハジメの高ランクの回復薬を求めてくる客もいるのだ。
入ってきた男は何の種族かはハジメには分からなかったが、その耳から何かの獣人族であることは分かった。
その男もハジメとパティを見比べていた。
その様子を見て、パティはにやにやと笑った。
そのパティの表情を見て、何かを思い出したのか、唐突にハジメに向かって聞いてきた。
「・・・・・・ああ、もしかしてお主がハジメか?」
「そうだが・・・・・・そう言うあなたは?」
「ああ、これは失礼した。俺は、虎獣人のアルノーという」
「ああ、そうか。あなたがアルノーか」
アルノーの名前を聞いて、ハジメも相手が誰か認識した。
アルノーはトップクラスの戦闘組として知られている。
彼を有名にしているのは、獣人族の特徴を生かした戦闘力もそうだが、人望があることでも知られている。
戦闘職で一番にギルドを作るのは彼だと掲示板で囁かれていた。
ハジメとアルノーがお互いに挨拶したのを見計らって、パティがアルノーに話しかけた。
「で、突然どうしたんや? 回復薬ならさっき買っていったから今日はもう売れないで?」
「ああ、いや。そうではない。相談したいことがあったんだが、先ほどは忙しそうだったから遠慮したんだ」
「そういう事なら俺は席をはずそうか?」
何やらパティに相談事がありそうなので、ハジメがそう申し出たが、アルノーが首を振った。
「いや、むしろお主がいた方がいい」
「どういう事だ?」
「相談事と言うのが、攻略に関してでな。ちょうどいいアイテムが無いかどうかの相談なのだ」
アルノーにしてみれば、目当ての物が無いにしてもハジメのような生産職に作れるかどうかも確認できればと思っていたのだ。
と言うより、既に何人かの商人に確認をしたがそう都合のいい物はなかった。
「なんや。攻略に行き詰ったんか?」
「ああ。正直言ってお手上げ状態だな。まあ、時間をかけてレベルを上げて、サポートキャラが増えれば何とかなるかも知れんが」
そんなことをするには時間がかかりすぎる、とアルノーは続けた。
アルノーの言葉に、ハジメは首を傾げた。
「人数が足りないのなら、エリアに他のプレイヤーを入れたらどうなんだ?」
既にハジメが鉱山に採掘組を入れているように、戦闘組も当然のように協力して他のプレイヤーを入れている。
「それができるのなら、な」
だが、そんなハジメの言葉に、アルノーは苦虫を噛み潰したような表情になった。
「どういう事だ?」
当然のように首を傾げたハジメに、アルノーは今の状況を話し始めた。
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当然のように戦闘組は、何人かのプレイヤーとサポートキャラが集まって一つのエリアを攻略しようとした。
最初に目指したのは、今のところどうしても攻略できていない第一エリアの第三段階だ。
第三段階は、第二段階と同じモンスターが出てくるとは言え、その強さは段違いになっている。
さらに言えば、第三段階にはフィールドボスがいて、そのボスを倒すとエリアクリアになるのではないかと噂されていた。
当然トッププレイヤーと言われるアルノーも、攻略をするために人数を集めて、第三段階へと向かった。
だが、その目論見は見事に外された。
第三段階と思しき場所に行くと、そのエリアのプレイヤーとサポートキャラ以外が進めなくなったのだ。
正確には、進もうとしても元の場所に戻ったり、全然違い場所に出たりと言った状態になったらしい。
いわゆるよくある迷いの森のような状態になったとのことだった。
既にその話は、戦闘職の間では広まりつつあるらしい。
ハジメのような生産組は、まだそこまでの情報が来ていなかった。
別に戦闘職が隠していたわけではなく、単にタイミングの問題だ。
「・・・・・・なるほどな」
「いややわあ。うちらみたいな生産職はどうすればいいんや?」
「いや、まだ生産職の第三段階は確認できていないのではないか? だとすれば、様子が違っている可能性はある」
「そうだとええけどなあ」
パティの相槌にその場にいた全員がため息を吐いた。
生産職が第三段階の場所に行けるかどうかは、戦闘職にとっても無関係ではないのだ。
「まあ、それはともかくとして、欲しいアイテムというのは?」
逸れかけた話をハジメが元に戻した。
第三段階の問題はいずれ解決しなければならないだろうが、今すぐ必要というわけでもないのだ。
「ああ、そうだったな。欲しいのは二つのアイテムだ。一つは継続して魔力補充が出来るアイテム。もう一つは、安心して休める場所を確保できるアイテムだ」
そのアルノーの言葉に、ハジメは渋面を作った。
「なるほどな。他の奴らが出来ないと言うのも道理だ」
「お主程の腕でもやはりそうなのか」
「・・・・・・一度、俺の噂がどう出回っているのか調査する必要があるのか?」
アルノーの感想に頬を引き攣らせたハジメだったが、すぐに気を取り直して話を始めた。
「まず一つ目に関しては、俺も心当たりはない」
「一つ目?」
微妙な言い回しに、アルノーが首を傾げた。
「ああ。二つ目だったら心当たりはある」
ハジメの言葉に思わず前のめりになったアルノーだったが、それをハジメが右手を前に差し出して止めた。
「まあ、待て。あるにはあるんだが、すぐに作るのは無理だ」
「・・・・・・なぜだ?」
「簡単な話だ。レベルが足りない」
アルノーが求めているアイテムは、結界石と言う名で<神の作業帳>に載っている。
当然便利なアイテムだというのは一目でわかったので、すぐに作ろうとしたのだ。
だが、何が悪いのか作成が成功する気配がなかった。
<神の作業帳>の載るのは、ハジメが作れるようになってからと考えていたのだが、それは間違いだったのだ。
作成するための材料は足りているので、後考えられるとすればレベルが足りないとしか思えない。
今のところ、ハジメはそう結論付けていた。
結界石を作るために、光魔法と闇魔法が条件に入っていたために急遽空きスキルを利用して覚えたのだが、流石にLV1だと駄目らしい。
何とかしてこの二つの魔法のレベルを上げようと画策している最中だったのだ。
「その二つの魔法のレベルが上がればなんとかなるのか?」
ハジメの話を聞いて目を光らせたアルノーに、ハジメは肩を竦めた。
「正直、分からん。多分最低LVというのがあるのだろうとは考えているんだが」
「・・・・・・そうか。他の者にその作り方を教えると言うのはダメなのか?」
ハジメの話から、今すぐ当てには出来ないと考えたのだろう。
戦闘職らしい提案をしてきた。
それを聞いたハジメはため息を吐いた。
「では聞くが、今すぐ俺をあなたと同じ剣術のレベルにするのは可能か? 全く同じ太刀筋で」
「・・・・・・む。・・・・・・いや、無理だな。すまなかった」
ハジメの例えで、自分が言った言葉がどれほど無茶なことか分かったのだろう。
一度首を振って、すぐに頭を下げて来た。
「いや。わかってくれればそれでいい。戦闘職には、これを言っても分からない者がいるからな」
どれだけ口で説明しても詭弁だと言って、強引に教えろと言ってくる者もいる。
それから比べれば、はるかにましな対応だ。
「結局、待つしかないという事か」
「ああ、済まないがそういう事だ。案外、先に相談したところもレベルの問題の可能性はあるぞ?」
「なるほどな。いや、わかった。大人しく待つとしよう。その間、他に方法がないか探ってみる」
「そうだな。そうした方がいい」
アルノーの言葉に、ハジメも頷いた。
その後は、モンスターやマップの攻略方法などの話をしてアルノーは去って行った。
残されたハジメもすぐに拠点に戻ろうとしたのだが、何故かパティに止められた。
「さっき言ってたアイテムの事、もっと詳しく教えてや」
そう言ったパティの眼に<GP>と見えたのは、決してハジメの気のせいではなかっただろう。
※空きスキルが増えてきていますが、その話は次話で行います。
スキルは、今話に出て来たハジメの光魔法と闇魔法だけが今回新しく追加した分です。
名前:ハジメ
種族:ヒューマン(人間)
職業:作成師LV28(2up)
体力 :2151(+106)
魔力 :3354(+173)
力 :89(+13)
素早さ:110(+19)
器用 :230(+32)
知力 :135(+22)
精神力:169(+27)
運 :9
スキル:調合LV11、魔力付与LV10、鑑定LV8、俊敏LV6、短剣術LV5、風魔法LV5、収納LV8(1up)、宝石加工LV7、装飾作成LV5(1up)、光魔法LV1(New!)、闇魔法LV1(New!)、空き×1
職業スキル:短縮作成
名前:ルフ
種族:フェンリル
職業:狼LV24(2up)
体力 :4690(+309)
魔力 :1441(+139)
力 :286(+25)
素早さ:181(+13)
器用 :83(+5)
知力 :102(+8)
精神力:100(+9)
運 :10
スキル:噛みつきLV9、威圧LV8、俊敏LV9、気配察知LV8、収納LV7、火魔法LV6、魔力操作LV8(1up)、報酬LV7(1up)、空き×3
職業スキル:遠吠え
固有スキル:鋭敏な鼻
名前:イリス
種族:牛獣人
職業:農夫(一人前)LV21(2up)
体力 :3343(+240)
魔力 :1845(+80)
力 :159(+10)
素早さ:51(+5)
器用 :146(+10)
知力 :82(+5)
精神力:99(+7)
運 :10
スキル:栽培LV11(1up)、料理LV6、棍棒術LV5、怪力LV8、採取LV10(1up)、成長促進LV8、水魔法LV7(1up)、採掘LV5(1up)、地魔法LV6(2up)、空き×3(1up)
職業スキル:種子作成
固有スキル:緑の手
名前:バネッサ
種族:アマゾネス
職業:戦士LV19(2up)
体力 :2529(+268)
魔力 :1265(+122)
力 :104(+11)
素早さ:68(+7)
器用 :46(+5)
知力 :61(+8)
精神力:46(+4)
運 :10
スキル:剣術LV9(1up)、槍術LV4、弓術LV6(1up)、体術LV8(1up)、空き×5(1up)




