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第四十六話

朦朧とし、暇を持て余した時、人間は常識から解き放たれる!


とりあえず七度台までは下がりました。嘘は言っていない!

本気で戦うといっても、なにも接近して殴る必要は無い。まずは石を投げて手足にダメージを与えて、動けなくなってもらおう。


前回と同じようにコインが落ちた瞬間にスタートなので、その少し前から加速しておく。とつか少年は弓を構えつつ地面に槍や剣、刀にその他多数の武器を刺して準備しており、腰には刀が二本差さっていた。あれって装備画面はどうなってるんだろうか? 持っただけでいいならあれって必要ないんじゃ……


考えている内に地面にコインが触れる。先手必勝! 手と足に向かって石を投げる。単純に考えれば光よりも速い速度のはずだから、避けられるはずも無い。勝った!


そう思っていると、石がとつか少年に当たる手前、大体五十センチも離れていない辺りで軌道を変え、逸れて当たらない。どういうことなの?


とつか少年が矢を放っている間にも更に石を投げたものの、ことごとく逸れて当たらなかった。わけがわからんが、どうやら投石ではダメージを与えられないらしい。


ならば、魔法を使わせてもらおう。火の玉、水の玉、岩石、電撃、その他色々な攻撃をしたが、どうやらここからとつか少年を狙った飛び道具は逸らされるようだ。だが魔法の使い方はそれだけじゃない。直接対象にダメージを与える事だって出来る事は、ドラゴンで実証済みだ。


そう思ってとりあえずは弓を捨て違う武器を取ろうとしているその手を……燃やそうとしたが、炎は出なかった。電撃でしびれさせようとも、いっそ空間魔法ですっぱりしようとしても、とつか少年に変化は見られない。


一体どういうことだろうと頭を悩ませていると、ふととつか少年が地面に刺している武器の一つ、薙刀みたいな、グレイブっていうんだったかな? それの刃が何箇所も欠けたり、焦げたりひび割れているのが目に入った。まさかと思いつつもとつか少年に攻撃をすると、また石が逸れたタイミングでひびが入っていた。


間違いない。どうやっているのかは知らないが、とつか少年はこちらの攻撃を武器を使って防いでいるみたいだ。


肩代わりしているのか、そういう効果の何かを使っているのか、無効化できるのは遠距離攻撃だけなのか、それとも何でもできるのか。まったくわからないけど、少なくともこのまま遠くからちまちまやっていても埒が明かないんじゃないだろうか。


そう思って、既に相当な時間無駄に過ごしたことに気が付く。というかとつか少年が異様に素早いのだろうか、既に両手が刀に添えられていた。


おそらく避けられるだろうとはいえあのうんようのたちなる技を使われるのは嫌なのだが、手が刀の柄に伸びている以上いつでも使えるんじゃないか?


まあ仕方がないので、いつでも反応できるように警戒しつつとつか少年に近づいていく。すると、さっきまで空中で静止しているような状態だった矢がこちらに近づいているような錯覚を覚える。まあこのまま近づいたら危ないよな。そう思って横側から近づくようにぐるっとまわっていく。


……あれ? なんであの矢はこちらを向いているのだろうか? それにさっきよりも近いような……


どうやら錯覚ではなかったようだ。しかも悪いのは、じりじりと速度が上がっているように見える事だ。ホーミングに加えて追いつくまでだんだんと上がる速度とか、一体どういうことなのか。


ただまあ矢には遠距離攻撃に対する機能はなかったらしく、意外とあっさり燃えてなくなった。放置していたら危なかったとは思うけど、コレ自体にはそこまでの危険性は無かったな。


今度こそ安心して近づいていく。もちろん刀のリーチに入る前に近くから石を投げておく事も忘れない。結局逸れたけど。


一歩。直後に視界の隅から勢い良く刀が迫ってくる。とっさに下がるが、魔眼が無かったら見えなかっただろうと思うほどの速度だった。この前のうんようのたちよりも速いんじゃないだろうか? そう思って歩こうとすると、上手く足が動かなかった。


確かに攻撃は避けたはずだが、一体どういうことだろうか。全く痛みが無いまま、腰の辺りが上半身と下半身でずれていた。慌ててぴったりになるように戻して、回復魔法を全力で使っておく。


色々と調べてみた結果、どうやら切断される空間のようなものがぐるっと一周とつか少年の周りの腰の高さを囲んでいるようだ。空中で真っ二つになっている草や石を見ながらどうしようか考える。


結局どうしたらいいのかわからないので、範囲外からそっと剣をとつか少年の首筋に添えておく。


「手応え! 獲った!」

「違うな、獲られたんだ」


どこかで聞いたような台詞を言うが、別にバラバラにしたわけではないから安心してほしい。とつか少年はこちらと首に添えられている剣を見た後、心底悔しそうに言った。


「……参り、ました。でも確かにこの手応えは……」

「そういうのいいから。俺の勝ち、もう二度と戦いを挑まない、OK?」

「……はい、残念ですが手を抜いているかなんて全くわかりませんね。どうやら今の僕ではどうやっても勝てないみたいですから」


諦めるというにはもし勝てるようになったらまた来るみたいな台詞に嫌なものしか感じないが、どうやらこれで大丈夫だな。


ドヤ顔で胸を張っているシエルと唖然とした表情のミナさんがまた色々と話しているみたいだが、放っておこう。とつか少年が何をしたかも気にはなるが、聞いたらまた面倒な事になっても困るから放っておこう。


これで自由に心置きなく観光が出来るな!

ふらふらしているが大丈夫か?


大丈夫だ、問題しかない!

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