第二十八話
「そういえば金はあるのか? 金欠とか言ってたけど」
この町で一番高い宿に向かいつつ残念に確認をとっておく。まあ焼き払ったとか言っていたし一晩くらいの宿代くらいはあるだろう。
「え、えぇっと……その、だね。水とか服とか食べ物とか、人が生きるには色々と必要さ! そのためなら例え全財産だったとしても投げ打つべきだろう!」
手をぐっと握りつつ訴えてくる残念。つまり無一文なのか、そんなに魔道機ってのは金を使うのだろうか。
「つまり?」
「……お金を貸せとは言わないので、同じ部屋にでも泊めてもらえませんか?」
ベットじゃなくてもいい! とか言っている残念。別に金くらい貸しても、いっそ宿代くらい払ってもいいんだがなぁ。確かに逆の立場なら遠慮するか。
「じゃあ一部屋でいいか。……その方が遠慮しなくて済むだろ。(残念が)」
「遠慮しなっ! ……確かに命……たわけ……」
どこに反応する要素があったのだろうか、びくっとした後にもじもじしだす残念。そんなに遠慮しなくていいのが嬉しいのか、逆に遠慮しだしたのか判断に苦しむ。
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一人部屋を頼んでさっさと部屋に行く。百五十ゴールド出しただけあって王都で泊まった宿よりも良い部屋な気がする。主にベットが若干大きい。お金を気にせずに生活できるっていいもんだ。
「それで残ね……ええっと……そう言えば名前知らなかったな。俺は平安 昇、高校二年だ。あんたは?」
「今なんて言いかけたのか気になるけど、ボクは葵、葵 シエルだ。大学二年。」
予想通り俺より年上だったか。まあ今更変に敬語とか使うのもな。
「シエル? 外国人……じゃなくてハーフかな?」
「その通り。母がフランス人でね、生まれた時に母に似ていたから名前はそちらの方になったんだよ。」
聞いてもない名前の由来を言った後ヨイショとか言いながらフードを脱ぐ残念。建物に入っても脱がなかったが、室内に入ったらマスクごと脱ぐんだってえらい美人がそこにいた。
まず目を引くのは金髪だろう。日本人の黒い髪とは違うし、そのへんの安っぽい染めた金髪とも違う、形容するなら輝くようなとか付きそうなきれいな髪だ。尻尾みたいなのが後ろにある感じの髪型だが可愛い。
次に眼の色が青い、いや、ここは碧いとでもいうのだろうか、これまた透き通った綺麗な色だ。きっと詩的な奴は吸い込まれるようなーとか表現するだろう。
最後に全体。西洋風味をつけた日本人にも見える可愛い系の顔立ちは、美人か否かを問われれば十人中九人が美人だと答えるだろうと思う。
結論を言うと、ものすごく可愛い。金髪碧眼ってどこの設定だよ! 一瞬見とれてしまった。が、残念だが残念は残念なのだ。最早残念がゲシュタルト崩壊を起こしそうだが、何とか外面を保つためにも自己催眠のレベルで残念を唱え続ける。負けちゃダメだ、残念なんかに負けたりしない!
何と戦っているかわからないが、とにかく負けてはダメなんだ! ここで負けたら俺が残念な奴になってしまいかねない!
「へえ、そーなんだ。」
よしおれちょうくーる。出来るだけ平然と会話を続けられた気がする。行ける、これなら勝てる。
「思ったよりも興味なさそうだね。……そんなに顔を見つめないでくれないかな? ちょっと照れくさいよ。」
少し赤くなってそんなことを言う残念もとい葵さん。さん付けでいいのかはわからんが、俺を殺しに来ているのは明白だろう。今までちょっと雑に扱いすぎたかもしれん。というかそんなに見つめていただろうか?
ダメだ、全力で、文字通り全力でなるべく自然になるように努めるんだ! こんな精神攻撃に負ける訳にはいかない!
「そんなに見てたか? 普通に話す相手の目を見てただけなんだけど。」
「そうかい? こんな見た目だから、ちょっと気にしすぎたかな。」
ふふっと笑う葵さん。ダメだ、これは駄目だ。年齢=アレな俺には難易度が高過ぎる。もっと勝ち目のある戦いでもいいじゃないかぁ!残念には勝てなかったよ。
ぼっちが残念とはいえ可愛い娘に勝てるわけないじゃないですかやだー




