美形年下武人殿下は想う1
セツラの事は知っていた。
イグサ老がいつも自慢してたから。
父上の所にたまに顔を出す強い壮年の武人。
憧れだった。
『坊主、セツラはな、いつもじいちゃんの事大事にしてくれるんだぞ♪』
イグサ老が自慢気に通信機の画面を見せた。
今なら、平々凡々で済ませる容貌だ。
でも、あの当時からのほほんととぼけててどこか現実ばなれしてるのに明るい表情の女の子に憧れた。
周囲はもう、媚びをうる連中ばかりだった。
もう刷り込みだったと思う。
父上と母上は冷えきっていたから。
私が父上にこれほどにていなければ母上の不貞を疑われていただろう。
それほど、冷えきっていた。
父上は母上に興味がなかった。
『ま、お前がオレより強くなったらな、セツラを任せてもいいぞ。』
イグサ老がニコニコとオアウスの蜜いりケーキを食べながら言った。
オアウスの蜜樹は有名だ。
独特の風味にファンも多いし
最高級品は王宮のお茶会に使われるほどだ。
それで、まだ少年だった私はイグサ老の言葉を引き出した。
希少なものでもなかったのだが…。
駆け引きは必要な事を学んだ。
まあ、もともと、私に任せてくれるつもりだったんだろうが…。
父上には当時母上がいたし、兄上は王太子だからな。
お二人に異論はあるだろうが…。
セツラには高い地位など無理だ。
『イグサおじさん!セツラちゃんは僕にくれるんじゃないの?』
兄上がいたいけなふりして言った。
『カラ坊は可愛い女の子はべらせてるじゃねぇか?』
イグサ老は笑った。
『ええ?セツラちゃんだけだよ、本気なのは~、あれは営業だよ。』
兄上が笑った。
『そうか?カラ坊も大変だな。』
イグサ老が笑った。
アイルパーン竜騎国の王太子がいたいけなわけないのだ。
この間、イグサ老の家でセツラに会ってきたそうだ。
私が武術訓練をしてる間に。
王太子のくせに…。
『イグサ老?セツラ嬢は私にくれるんですよね。』
父上が希少なオレイア産のウニを運ばせながら言った。
やはり、負けるな。
まあ、イグサ老は国が傾くほどのものは
欲しがらない。
希少といっても庶民が頑張れば
食べられるものを欲するようだ。
いつか本当に希少なものを取り寄せようとしたら怒られたと父上がいってた。
『おい、奥方がいるだろう?大事にしやがれ、セツラはまだ、少女だぞ…ま、オレの目が黒いうちは好きにさせないがな。』
イグサ老は言った。
ウニとケーキじゃ合わねぇなといいながらウニもつまんだ。
『ぜひ、チエアイス武王国にいってもらいたい発言です。』
父上がため息を付いた。
あの頃からチエアイス武王国は
新国王即位にともないうるさいことをいってきている。
私を婿入りさせろがあったな。
『……オレが目が黒いうちはなにもさせん、ばあさんと約束したからな。』
イグサ老が言った。
『ええ、あなたを確保した、カオラさんに感謝です。』
父上が言った。
『ま、カササダ竜騎兵団はオズ坊が何とかするだろうよ。』
イグサ老が笑った。
あの信頼の証がセツラだ。
私が許嫁と言い切れるのもそこにある。
父上と兄上がよわい部分と言えよう。
「別に、セツラが嫌いなのではない。」
カササダ竜騎兵団の詰所に行く廊下で呟いた。
むしろ、おかしいくらい執着している。
いつもの自分なら、街に出たくらいで迎えになどいかない。
兄上が執着してる女などスルーだ。
だが、居なくなったと知った瞬間足元が崩れるかと思った。
だから、セツラ、私はお前を閉じ込めた。
出来ればもっと優しく接したい。
甘やかして私から離れられないように…。
「無理だな…あの女は自立をし過ぎてる。」
私は呟いた。
普通の貴族の女のように依存して生きてない。
それが…厄介だ…だがそれがセツラの魅力だ。
私にすべてをゆだねた時。
セツラは変わってしまうのだろうか?
それが怖くてあんなにそばにいるのに
手が出せない。
愛しい、誰にも渡したくない。
だから…逃げないでくれ。
今度、逃げたら自分が何をするかわからない。
だから…もう、諦めて生涯共に生きよう。
愛しいセツラ。




