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5-7 宝剣ペンドラゴン

 右翼をまとめた魔王アルキメデス=オクタビアヌスは撤退を決断する。すでに壊滅されていたエレメント軍の中央と左翼は全て右翼にまとめられ、魔王を警戒したヴァレンタイン軍は一旦軍を下げざるを得なかった。レイクサイド召喚騎士による海中からの船への攻撃で、多くのエレメント軍の船は航行不能に陥っていたが、フラット海岸に伏している将兵の数も多く、右翼のみであればメノウ島への撤退は可能であったと思われる。撤退する船団を追撃するレイクサイド召喚騎士団は、魔王アルキメデス=オクタビアヌスの破壊魔法に遮られ、それ以上の攻撃は不可能であった。フラット海岸防衛戦はここに初日の幕を降ろしたのであった。



「ヨシヒロ神?たしかにヨシヒロと言ったのか?」

魔王テツヤ=ヒノモト。東の島国「ヒノモト」の魔王であり、前世の日本人齋藤哲也の記憶を持っていた。

「ああ、どう考えても日本人の名前だよな。心当たりあるか?あの古代遺跡の時もお前黙っちゃって聞けてなかったけどさ。」

「・・・実は1人、思い当たる人がいる。」

「まじか!誰だ?」

「神楽佳弘、工学部の先輩だ。」

「神楽!?それってもしかして研究のモニターして欲しいって言ってきた工学部の神楽先生?」

「ああ、ハルキもモニターしたのか。スキャン装置に頭突っ込まなかったか?」

「入れた!それからあんまり良く覚えてない。」

「俺もだ、スキャンしてから説明するって言われてたから・・・。」

工学部、神楽講師の研究モニター。ハルキとテツヤの共通点が見つかり、なおかつヨシヒロ神という名前。

「神楽先輩もこっちに来ているのかも・・・。」

「いや、待て。ヨシヒロって奴は神なんだそうだ。魔王アルキメデスにチートスキルを授けたんだろ?俺たちみたいにこっちに来てるような奴がそんな事できるのか?」

「いや、まあ、そうなんだけどよ。どうしてもそのヨシヒロ神が気になっちまって。」

「ん~、何なんだろうな?」

結局、答えが出るはずもなく、次の日を迎えた。



 フラット海岸防衛戦は二日目に入ると初日とは様相が違う戦いとなった。エレメント軍は崩壊した中央軍と左翼を吸収した右翼軍から再編成した総勢5千。対するヴァレンタイン軍は総勢7千と数の上では逆転していた。しかし、魔王アルキメデス=オクタビアヌスは本陣本営を離れず、その周囲は護衛に囲まれ、なおかつその場から無限の魔力による破壊魔法を発し続けていた。


「固定砲台かよ!厄介な!」

やっぱり、昨日仕留めそこなったからだ。しくじった!完全にノーム玉対策を取って来てやがる。

「ジギル殿、あの卑怯魔王の破壊魔法をくぐりながら周囲の5千を削れると思うか?」

「それは無理だ。見ろ、今でこそ貴公の騎士団のシルキット達がなんとか迎撃しているが、いつかは魔力が尽きるぞ。それにあんなのが降り注ぐ所に突撃できる物は少ない。」

「やっぱり、そうだよね・・・。」

昨日、取り逃がしたのがまずかった。・・・もうだめかもしれん。・・・死のう。

「ハルキ様!しっかりするッスよ!」

「ああ、ヘテロ。俺はもうだめだ。フィリップに伝えておいてくれ。イツモノヨウニって。そしたらだいたいあいつが何とかするから。」

「現実逃避はダメッス!」

「ううう・・・。」


 しかし、これは本格的にまずいぞぉ。あの5千を削らん事にはノーム召喚が魔王まで届かんし、あの5千を削るためには魔王の破壊魔法をかいくぐらんといかんし、あの破壊魔法をなんとかするには魔王にノーム召喚かまさにゃならんし・・・あれ?これ詰んでね?

「ゴーレム空爆も迎撃されるよなぁ。」

「おそらくな。損害が出る前にフラットの町まで後退するか?」

「後退したところで対策立てなきゃならんし・・・。」

「だが、そろそろ持たないぞ?」

「うー・・・。」

スカイウォーカー騎士団「アイアンウォール」の防御を突き抜けるとはなかなかな魔力だ。そろそろ本気でまずいね。

「仕方ないでしょう。ひとまずは戦略的撤退ですな。」

「分かった。撤退!!殿はシルフィード騎士団だ!」


ヴァレンタイン軍の後退が始まる。

「ヘテロ、遊撃隊で船を攻撃する素振りを見せてこい。実際はデッドリーオルカで海中から穴をあける程度で構わんし、できなければそれでも構わない。特に魔王の標的がそっちに向かった場合にはすべてを投げ出して撤退しろ。命大事に、だ。」

「了解ッス!行くッスよ!皆!」

遊撃隊が後退する方角とは別方向へ走っていく。例え囲まれようともワイバーンで離脱できるのはかなりの強みだ。

「フィリップ、後退の指揮は任せたぞ。」

「はい。ですがハルキ様はどちらに?」

「ちょっと空の散歩だ。頭を冷やしてくる。」

ウインドドラゴンで高度に上がる。そう簡単には魔王の破壊魔法ですら届かない距離だ。少し、考える必要がある。


 近接専門の魔王に無限の魔力が備わった。これはかなりのチートだ。ただし、なにやら勿体ない気がする。例えば、俺やロランやシルキットに無限の魔力が備わればどうなるか?それはもう目も当てられないほど酷い結果だろう。対抗できるわけが無い。だが、今回魔王アルキメデスに備わった無限魔力を魔王は使いこなせていない。魔法の種類が少なすぎる。回復魔法すら使っていない。つまりはどういうことか?

 可能性があるというレベルであるが、無限魔力を授かった時点で魔王の魔力はもう成長しないのではないか?だから威力は高くても発動まで数秒かかる初期の炎系破壊魔法を多用したり、障壁魔法も体全体を覆う効率の悪いタイプしか使うことができない。身体強化魔法なんて持っての他だ。

 そして使い方もお粗末なものだ。冷静に考えるとこの無限魔力のスキルも制限が多い。

 しかし、使い方は経験とともに上手くなっていく。今のうちに叩いておかないと手が付けられなくなるのは確実だろう。


 だいたいの状況は分かった。ならばやる事は一つである。誰にやってもらうかが問題だけど。



「こらぁぁ!!ハルキ=レイクサイド!昨日はよくもやってくれたな!」

後退する殿に攻撃を続けるエレメント軍に対して、ウインドドラゴンで近づき、アイアンドロイドを各所に召喚するという嫌がらせをしていると魔王アルキメデスがやってきた。相変わらず、同じ破壊魔法ばかり使っている。

「今日の俺様は周囲を部下に守らせてるからお前らのノーム召喚を使った嫌がらせは効かん!残念だったな!はーはっはっはっは!」

魔王アルキメデス=オクタビアヌス。意外にも悪い性格はしていないのだろう。どこか他の平和な所で出会いたかったかもしれない。まあ、そうなったらうるさくて仕方がないんだろうけども。

「これで人類も終わりだ!はーはっはっは!」

人類は終わらないよ。終わるのはお前なんだから、じゃあな。

「見ろ!この無限の魔力と俺様に従う軍を!貴様らの攻撃はもう俺様にはとどk・・・ぐふぅ。」


 そう、答えは暗殺である。無限の魔力があろうがなかろうが、不意打ちには何の役にも立たない。

「宝剣ペンドラゴン、いままで世話になった。」

魔王アルキメデス=オクタビアヌスの腹から突き出ているのはフラン=オーケストラの宝剣ペンドラゴンだ。先の戦いの折に魔王の大剣を受け止めてひびが入っていた。刺したのはもちろんフラン=オーケストラ。第2部隊が所持していた魔人族の魔力を発する角型魔道具を装着して、魔王の親衛隊に紛れ込んでいた。

「な、・・・なん・・だぁ?」

フランが腹の剣をグリっと捻る。周囲は何が起きたのか分からずに対応できていない。大量の血が噴き出る。

「がはぁ!こ、こんな、卑怯な・・・。」

「卑怯なのはお前なんだけどな。」

すぐにウインドドラゴンでフランを回収する。宝剣ペンドラゴンは魔王の腹に突き刺さったままだ。爆風で親衛隊は近づけれない。

「フラン、お疲れさま。」

「いえいえ、疲れるほど動いておりませんよ。坊ちゃま。」

「今度、新しい剣を作ってもらおうな。」

「ほっほっほ、楽しみですな。」


 魔王アルキメデス=オクタビアヌスの最期であった。


 魔王を討った時点で勝敗はついた。ヴァレンタイン軍は攻勢に転じ、ヘテロ率いる遊撃隊と挟撃した。数時間後、生き残った魔人族も全面降伏。戦争は終結した。


これで第3部が終了です。

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