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4-5 魔道具屋とデッドリーオルカ召喚

 ワイバーンからの跳躍は見事だった。高速で飛び回り破壊魔法を回避しながらも船尾近くに接近し、跳躍する。手にはドワーフ製のミスリルランスが握られている。全体重どころか跳躍を利用した遠心力まで加わった一突きは舵をとっていたと思われる魔人族を一突きにし、舵ごと破壊した。まるで人間弾頭である。着地後に槍を一払いして周囲の魔人族までも切り伏せる。細見であるがかなりの膂力を持つ彼の槍は刃の部分が大きめに作られた特製品で形状は薙刀に近い。

「雑魚は引っ込んでるッス!」

瞬時にフェンリルを召喚し飛び乗ると魔人族をなぎ倒しながら船首付近まで突き進む。さきほど乗り捨てたワイバーンが反対側から魔人族を攻撃しており、挟撃される形の魔人族は混乱中だ。さらにフェンリルが2体召喚され魔人族を追い立てていく。すでに何人かは海に突き落とされてしまっていた。槍に破壊魔法にフェンリル騎乗による体当たりまで駆使し、周囲の魔人族を縦横無尽に倒していく。船を制圧するまでに10分とかからなかった。


「・・・呂布か・・・?」

やばい、ヘテロがこんなに強いなんて知らなかった。いつも宅急便感覚で使っていたけど認識を改めないといけないかもしれない。ユーナが惚れるのも分かる気がする。「ちょっと行ってくるッス。体が鈍るといけないッスから。」なんてコンビニ感覚で出てったけど、1人で制圧って・・・。

「さすがにヘテロ=オーケストラだな。「フェンリルの冷騎士」の二つ名は伊達じゃねえってことか。」

カイトが納得した顔をしている。その二つ名ってそんなにすごかったの?冷凍食品的な何かかと思ってたよ。

「でも1人で船を制圧するなんて規格外だよ。テツ兄みたい。」

たしかに規格外だ。自分で育てておいてなんだけど、衝撃的すぎる。

「あれは・・・やばいな。」

「なんで?ホープが驚いてるんよ?」

だって、ホントに知らなかったんだもん。あんなに怖え奴なら頭ぐりぐりとかするんじゃなかった。

「その気になればホープの方がどう考えても強いでしょうが。」

「いやね、そうでもないんだよ。魔法ってのは使いようだから、相性があって。ああいう呂布型は俺には相性が悪いと思う。無理やりでもこっちまで届く突破力というか。」

「リョフって何?」

「地上最強の規格外に贈られる称号だ。昔実在した人物の名前から来ている。」

「へー、知らなかった。」

知っててたまるか。テツヤなら知ってるだろうけどね。

「俺は軍隊相手の戦いなら負ける気がしないんだけど、ああいう個の武勇というか規格外には歯がたたん。」

「でも、テツ兄にも勝ってるし、ジンを瞬殺したって聞いてるよ?」

「テツヤはバカで単純だから。ジンはよく覚えてない。」

これは事実だ。

「ふーん、謙遜しちゃってるけど、二人とも立派な規格外で運がいいとかのレベルで勝てる相手じゃないからね。まあ、そういう事にしといてあげようか。」


 お昼ご飯の海鮮丼を食べながら現状戦力の把握ができていない事に気付く。うちのレイクサイド騎士団はどのくらい強いんだろうか?すでにヴァレンタイン最強だとは思っているが、次のエレメント魔人国の侵攻の規模にもよるし、正確な把握が求められている。成長した奴らがどのくらい成長したかなんて分かってない。しかしわさび醤油は最高だ。テツヤにもこのワサビもどきを届けてやろう。

 そして、この船はこの1週間で2隻のエレメント船を沈めた。この頻度はあなどれない。2隻の船と言えば建造に1か月どころじゃない期間がかかるはずなんだが、それでもエレメント魔人国からやってくる船があとを絶たないのは単純に国力の違いだろうか?

「エレメント帝国はめっちゃ人多いからね。その気になったら1週間で5隻くらいの船は作っちゃうだろうね。」

まじかよ・・・それじゃあ兵隊が補充されるのもかなり早いぞ。また侵攻してくるんじゃないか?

「うーん、ヴァレンタインへの侵攻は正直五分五分だよね。冷静に考えるとヴァレンタインに侵攻しても成功する確率が低いし損害もバカにならないのは分かったと思うけど、面子の事を考えると攻めないわけにはいかないし、魔王のさじ加減ってやつ?」

たしかに、シンの言うとおりである。つまり警戒は解けないという事だろう。

「すでにニルヴァーナやジン、マデウまでやられちゃってるからね。どういう風に動くかは僕らも警戒してるよ。ヴァレンタインを諦めたら北東か、うちに攻めるしかないからね。」

こりゃあ、どうするかね。国力考えると停戦も危険な気がしてきたぞ。シュミレーションゲーマーとして危機感をビンビンに感じる。相手はバカAIではないのだから。


 一旦船はヒノモトの町に戻った。また再出撃する際には声をかけてくれるそうだ。

「さて、召喚獣の情報がなんとかして手に入らないかな?」

「そんじゃラミィさんあたりに聞いてみるッスよ。」

ヘテロはラミィさんに情報がないかどうか聞きにいった。

「さて、俺はどうしようかな・・・。」

急に暇になってしまったぞ。町でも見て回るかな。だけど純人が1人で歩いてても大丈夫なもんだろうか?

「まあ、なんとかなるだろう。」

 ヒノモトの町はもちろん港町である。テツヤの事だから和風の建物でも作ってるかと思ったが、全くそんな気配はない。名前だけだ。港近くの商店街をぶらぶらする。純人でもそれなりの装備をしているために特に気にしてくる魔人はいなさそうだ。

「おお、魔道具屋なんてもんがあるぞ。」

ヴァレンタインではあまり見ない類の店だ。やはり魔道具の開発はヒノモトに比べて遅れているんだろう。とりあえず、見てみる事にする。

「いらっしゃい、なんだ純人か。金はあるのか?」

「まあ、金はあるよ。」

「ならいい。うちは別に金さえ払ってもらえれば純人でも構わねえ。」

「うん、ありがとう。」

店の中を見て回る。おもしろい魔道具があれば買って行こう。

「・・・これは!?」

「お、それは新作だな。簡単な魔法を込める事のできる魔道具だ。」

これはあれだ。古代遺跡にあった召喚魔法を籠めていた魔道具のレプリカだろう。すでに原理を解明して商品にまでしていたのか。ヒノモト国あなどれん。

「これをくれ。他におすすめはあるか?」

「まだ、買えるのか?じゃあ、これなんかどうだ?松明の代わりに光を出してくれる魔道具で、しかも熱くない。」

懐中電灯があるとは思わなかった。電池の代わりに魔石を使うと思えばなじみのある物である。

「よし、買った。」

支払いを済ませて店を出る。そろそろ夕飯の時間か。館に戻ることにしよう。


テツヤの館にもどるとヘテロが待っていた。

「ハルキ様、あったッスよ!海の召喚獣の資料。」

「本当か!」

「シャチ型の召喚獣ッスね。ただ乗ることができるかどうかは分からないッスけど。」

「それでも十分だ。契約条件は分かったのか?」

「分かってるッスよ!明日から素材集めするッスか?」

「もちろんだ!」


 シャチの召喚獣はデッドリーオルカといった。素材は比較的簡単に集まったので俺もヘテロも契約することができた。なんとか工夫して背中に乗れるようにしてみよう。召喚条件に水の中に入れる場所というのがあったのが新鮮だった。たしかに陸で召喚されたらピチピチしてるだけで屈辱だろうしね。

「やったッスよ。こいつ俺の戦闘スタイルと相性良さそうだし、付いてきて良かったッス。」

そうだろう、そうだろう。たまには逃亡も良いものだろう?


 しかし、素材集めで目立ってしまったのか次の日にウォルターに嗅ぎつけられて派遣された第1部隊が俺を捕縛したのだった。


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