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4-4 船の上で

 俺はホープ=ブックヤード。ただの冒険者兼レイクサイド領主だ。そしてここは海の上。船の名前はライクバルト号である。

「ホープの事はラミィとかジルしか知らないから、ここの乗組員にも知らせてないよ。」

こいつはシン=ヒノモト。テツヤの弟でこの船の船長をしている。

「うむ、ありがたい。世話になるな。」

「テツ兄がいつもお世話になってるんだ。船に乗せるくらいなんて事ないよ。」

「はっはっは、まあ世話してるといえばお世話してるけどな。」

「テツ兄は意外と純粋な所あるから、融通はきかないけど皆大好きなんだ。」

「ふむ、たしかに魔王としての統率力はすごいものがあるなあ。」

「カリスマスキル持ってるくらいだしね。テツ兄のためなら死ねる男がたくさんいるよ。」

「人間の女にはもてないのにな。」

「はは、なんで人間の女性が好きなんだろうね?さっさとラミィと結婚すればいいのに。」

「まあ、好みはそれぞれだろう。」


 俺は学習をする事にした。今までの逃亡はウォルターの諜報部隊に嗅ぎつけられる事が多く、結局は連れ戻されたりしている。ならば、奴らの来ないところに行けばよいのではないか?そこで目をつけたのがヒノモト国であり、このライクバルト号だった。エレメント帝国の船と交戦することもあるという危険な船であるが、刺激を求めてきているのだから好都合である。

「ハルキ様、まじでまずいッスよ!」

今回の犠牲者はヘテロだ。よりによって第5部隊隊長を拉致してきているのだから領地に残った連中はその穴を埋めるのに必死だろう。

「ええい、俺はホープ=ブックヤードだ!」

「もうその偽名は有名すぎて偽名の意味をなしてないッス。」

「うるさい。これでいいんだ。」

「もう、またフィリップ様に怒られるッスよ?」

「ふふふ、ここまではウォルターの第2部隊も追ってこれまい、うふふ。」

「なんで、こんな悪知恵ばっか働くんスか。きっと皆困ってるッス。」

「ふふふ、人には譲れないものがあるのだよ。」

「なんでそれが逃亡癖なんスか・・・。」


「おう、レイクサイドのヘテロに付き添いのホープか。よろしくな。俺はカイト、この船の副船長をしている。」

「ああ、よろしく。世話になるよ。」

体格のいい魔人族が話しかけてきた。ヒノモトにとっては重要人物らしい。国の立ち上げよりさらに前からテツヤとともに戦っていると聞いた事がある。

「なあに、レイクサイドのヘテロといえば一級の戦士だ。戦力は大歓迎だ。」

「ううう、やっぱり危険なんスね。」

「そりゃ、エレメントの奴らを襲って物資を巻き上げるのが任務だからな!」

「カイトはホントに海賊業が好きだよね。」

そして、完璧に海賊だ。仲間への呼びかけが「野郎ども!」で返事が「アイアイサー!」だしね。


 ライクバルト号は魔石によるエンジンを積んだ船だ。スクリューで動いている。これは完全にテツヤの知識なのだろう。この世界で思いつけるような技術ではない。

「エンジンを持ってるのか・・・。1個欲しいな。」

「あ?エンジンが分かるのか?そんなやつテツヤしかいないと思ってたが。」

「たしかにテツ兄以外にエンジンの事を知ってるなんてさすがホープだね。」

あ、ちょっとまずかったかな?

「まあ、テツヤに聞いたんだよ。」

「そっか、そんな事までしゃべってるなんて意外と仲いいんだね。エンジンの事は国家機密に近いのに。」

「まあ、仲がいいかどうかは別なんだと思うけど・・・。」


 ライクバルト号は海の魔物を狩りながら哨戒任務にあたっている。

「魔物を狩ると魔石が取れる事があるからね。このエンジン動かすのに絶対必要なんだ。常に魔物を狩って移動するから訓練にもなるよ。」

そしてその海産物が旨いという利点もある。そう。醤油はきちんと持参してある。ワサビに似た辛みの強い野菜も持ってきたので、刺身は完璧だろう。米と酢もあるので寿司すらできるかもしれない。アイオライのせいで何時の間にか食に対するこだわりが強くなってしまったな。

「船長~、いましたぜ~。」

そんなときに見張りから声がかかる。

「いたか!よっしゃ野郎ども!行くよ!」

エレメント帝国の船を見つけたらしい。帆をたたんでエンジン航行に切り替える。

「防御魔法担当は船首へ急げ~!破壊魔法担当はその後ろね!あ、ホープさん。戦闘には自由に加わっていいけど、物資を奪うまでは沈めちゃだめだからね。」

「はいよ。」

ゴーレム空爆で一撃ってのはだめらしい。あくまで物資を奪うのが目的なんだって。

「行くよ!最大戦速で右から回り込んで!」

相手は帆船だ。小回りはあまり効かない。こっちはスクリューを使ってグルっと後ろを取る。

「毎度毎度おんなじなんだが、ちったあ学習しねえのか!?」

カイトは破壊魔法担当らしい。甲板の中央部に陣取っている。

「まあ、まずはお手並み拝見と行こうかな。」

「そッスね。」

相手の船の後ろをとったライクバルト号は船尾に向けて破壊魔法を放っていく。帆と舵を壊すのが目的らしい。動けなくなった船に乗り込むのが常套手段だという事だ。

「舵壊れました!」

「帆も炎上してます!」

対するライクバルト号は船首の防御魔法がきっちりと効いていて、ほとんど損傷はなさそうだ。

「よし!乗り込む準備しよう!ホープさんたちも手伝ってもらっていい?」

「ああ、構わない。というか、俺たちなら乗り込まなくてもあの船占領できる。」

「ええ!?そうなの!?乗り込むとこっちにも犠牲が出やすいんだよね。ところでどうやるの?」

「ああ、アイアンドロイドで船を埋め尽くす。やっていいか?」

「ぜひ!お願いするよ!」

俺はエレメントの船の上に10体、ヘテロが5体のアイアンドロイドを召喚した。いきなり現れたアイアンドロイドたちに驚いて統制がとれていない所に黒騎士も追加で召喚してやる。数分後、ほぼ全員を討ち取るか海に突き落とすことに成功したようだ。

「おお~、すごいね!」

「さすがはレイクサイド領の召喚士だな!召喚獣ならやられても犠牲がでないのか。俺たち魔人族は契約しにくいから召喚は使えねえやつらばっかだけどな。」

そう、召喚の最大のメリットでもある。やられる方はたまったもんじゃないといつも思ってるよ。

「よし、あらかた片付いたみたいだ。」

「じゃあ、僕らも乗り込むよ。行け!野郎ども!」

「「アイアイサー!」」

物資は無事回収され、エレメントの船はその後沈められた。


「今回はまったく犠牲がでなくて良かった。テツ兄は犠牲をものすごい嫌うんだ。」

「あいつは身内に対しての情がすげえからな。昔やられちまった仲間の名前をこの船につけるくらいだ。」

テツヤは慕われている。まあ、そうでなければ魔王になんてなれないのだろう。

「しかしな・・・。」

今回ちょっと気になることがあった。

「海の・・・海で使う召喚獣ってないのかな?」

「そんなん聞いた事ないッス。」

「でも、いるかもしれない。」

「調べてみるッスよ。」

「ああ、頼む。」

魔石エンジンは俺では再現は不可能だ。知識がない。ではどうすればいいか。それは召喚獣に引かせるという案を考えてみた。海の召喚獣がいれば、そいつに船を引かせられるし海中で戦えるかもしれない。ちょっと本気で探してみよう。特にこの魔人族の海域にはヴァレンタイン大陸にない物が多く存在する。新たな召喚獣もいるかもしれない。この前のテトの召喚獣をみて、新しいおもちゃが欲しくなった子供の心理と同じものを感じた。


 まあ、リリスはいらないけど。


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