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4-1 ホープ先生の特別講義

 リリスのせいで魔力不足になったテトをフェンリルに乗せて「奈落」から帰るのにはだいたい1日ですんだ。道が分かっているのとフェンリルで疾走しているので歩いてきた時とは段違いの速さだ。地上に出るとウインドドラゴンでエルライトの町まで飛ぶ。

 維持魔力すら足りなくなったためにリリスは還っていった。帰り際に舌打ちが聞こえたような気もするが、まああとはテトがよろしくやるだろうよ。

「さて、「奈落」にはあんまり旨そうな魔物いなかったし、怪鳥ロックでも狩って帰りますか。」

「ハルキは本当に素直じゃないな。セーラ様の事は口実でテトの様子が心配だっただけだろう?」

「うるさいな。そんな訳あるかよ。」


 テトたちは「奈落」にもう少し通ってみるつもりとの事だった。ウインドドラゴンの契約もしたいらしい。ウォルターにちゃんとした契約条件聞いとけばよかったかな。なんだか、今後リリスを召喚するなとかレイラやユーナに言われているけど、大丈夫なんだろうか。

「んじゃ、俺たちは帰るから。」

「はい、ハルキ様。お気をつけて。修行が終わったらレイクサイド領に戻ります。」

「おう、早めにな。」

「そしたら騎士団の入団試験を受けますので。」

「アホか。そんな効率の悪い事してる暇はない。速く帰らないとペニーが過労死するぞ?」

「・・・分かりました。」


 ウインドドラゴンがあればエルライト領からレイクサイド領までは数時間といったところだ。ビューリングと2人で最大戦速で帰る。数時間ドラゴンにしがみついているのもしんどいけどね。

 帰るとセーラさんが待っていてくれた。

「ただいま。」

「ハルキ様、おかえりなさい。テトとユーナはどうでしたか?」

「うん。元気だったよ。レイラもついていてくれてるから心配はいらなそうだ。」

「それは、美人2人に囲まれてテトは幸せ者ですね。」

「それがね、今回テトが召喚契約したのが・・・。」

はやくテトが1人前になって帰ってきてくれる事を祈っている。



 夏になり、レイクサイド領は農作業に忙しい季節を迎えた。最近は開墾も進んでしまい、それに伴う労働力も足りなくなっている。

「やはり、改革を進めすぎたか。」

召喚騎士団はほぼ毎日どこかの農場でノーム召喚をしなければならない日々が続いていた。

「ほい、2000体ほど召喚した。あとは好きにして・・・。」

領主館周囲の畑は俺のノームが農作業をしてくれている。あとは他の召喚士が各地に赴いて召喚しなければならない。皆大忙しだ。

「ハルキ様、第4部隊の魔物討伐が追い付いてないみたいです。」

「カーラとソレイユに応援に行ってもらって・・・。それでもだめならフランの訓練に組み込んでしまえってシルキットに言っといて・・・。」

テトの抜けた穴も大きいらしい。

「・・・むう。やはり労働力の確保と人材育成が必要だな。」



 レイクサイド領立レイクサイド騎士学校。数年前にハルキ=レイクサイドの提案で設立された6年制の学校である。ここの卒業生は栄えあるレイクサイド騎士団に入団することができるために、各領地からも希望者の殺到する人気の学校になっている。と言っても1期生がまだ4年生である。王都ヴァレンタインの貴族院に比較しても環境や教師の質に見劣りするところはない。特に召喚魔法に関しては貴族院のそれを大きく凌駕する資料と教員をそろえていた。

 校長に任命されているのはヒルダである。基本的には召喚騎士団の仕事もあるためにそんなに多くの時間を割く事はできなかったが、引退した騎士も含めて優秀な教師陣が完璧にサポートしていた。

「本日は特別講義があります。テーマは「ノーム召喚の有用性」です。希望者は前の出席簿に名前を書いておいてくださいね。」

全ての学年で特別講義の説明が行われる。だが、どんな学校でもそうであるが自主性をもった学生というのは少ないものだ。希望者はなかなか集まらない。いつもの事であるし、たくさんの希望者があれば用意する教室も大きいのが必要になる。ただし、この特別講義の講師はどこかで見た名前であった。


「特別講義を始める。私はホープ=ブックヤード、冒険者だ!」

「「「ハルキ=レイクサイド様!!!」」」

絶叫の聞こえる教室に、卒倒する生徒が複数人。噂をききつけた希望してなかった学生が中に入れろと騒ぎ始める。すでに教師陣は仕事を放って全員参加だ。

「え~、静粛に。では、今回のテーマはノーム召喚だ。これはできない召喚士はいないと言われているほどに基本的な召喚であり、なおかつ究極の召喚である。なぜだか分かるかね?それはノーム召喚の有用性とその魔力コストの関係性だ。我がレイクサイド領が誇る召喚士たちが今のところ把握している召喚獣たちを見て行こう。」

意外とまともな抗議をするホープ=ブックヤード。ただし、生徒の何人かは感動で意識を失っている。

「これはハイ・ステータスをつかって召喚獣たちの魔力コストの平均を出してみた。召喚士や込める魔力によって消費量が変わってくるのは知っているか?だが、平均を出してみるとやはり召喚獣によって魔力の効率がどんなものかが分かってくる。今のところコスト面で最悪なのは堕天使リリスだな。かなり魔力を取られるし維持魔力も相当のものだ。そのかわり戦闘においては強力な魔法を連発するかなり頼りになる悪魔でもある。」

いつの間にテトにハイ・ステータスをかけていたのか、すでにリリスの情報まで手に入れている。

「そしてこれがノーム召喚。他とは桁が2つ以上違うのに気付いたことだろう。つまりはこのノーム召喚はごくわずかな消費魔力で召喚そして維持する事ができる。レイクサイド召喚騎士団への入団を果たしたものは、24時間いついかなる時もこのノーム召喚を行い、魔力の総量をあげる訓練を行う。レイクサイド領が農業が盛んなのはほかにノーム召喚でやれる事がなくて暇だからだな。」

冗談を言っても全員それを冗談とはとっていない顔だ。

「ノーム召喚は非常に低いコストにも関わらず、人間の子供程度であれば可能な労働を行うことができる。しかも維持魔力が少ないために長時間の召喚にもむいている。ノーム500体とクレイゴーレム1体の召喚コストが同じであるために、使い方によってはノーム召喚の方が大いに役立つ事も多い。」

そしてここからがハルキ=レイクサイドの計画だった。

「各論に行く前に、この夏の宣伝をしておこう。レイクサイド召喚騎士団ではこの夏に君たちレイクサイド騎士学校の生徒を対象としてノーム召喚の特別合宿をおこなう予定だそうだ。現役の召喚騎士団に会えるだけではなく、ノーム召喚を教えてもらい、なおかつ実践してみるというプランを計画している。」

物は言いようである。つまり、生徒を使ってノーム召喚による農作業の労働力を巻き上げようという計画だ。しかも合宿だとか恩着せがましく。労働の対価を払う気などさらさらない。むしろ参加費用をもらおうかと考えている。

「私の授業を聞いてみて、ノーム召喚に興味を持ち、なおかつひと夏で魔力の総量を上げたいと考えている前途有望な生徒がいればあとから応募の木札を配ってもらうので、担当の先生に提出すること。私も合宿の臨時講師として参加するかもしれないな。」

ハルキ=レイクサイドからの指導がもらえるかもしれない。学校は大騒ぎになるのであった。


「かもしれない、としか言ってないけどさ。」

もはや詐欺である。



 だが、この合宿は思いのほか魔力の総量があがる生徒が続出し、レイクサイド騎士学校の夏の伝統行事として定着していく事になるのであった。


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