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3-5 召喚魔法の奥の深さとフカフカのベッド

 まず、いきなり入り口の所にロックリザードがいるとは思わなかった。いきなりBランクの魔物が出現したわけだけど、とりえあえず入ってみたついでに目が合う。

「く、黒騎士召喚!」

2体の黒騎士がロックリザードに斬りかかり、数分後にロックリザードを倒すことができた。

「・・・石の塊に対して剣持った騎士を召喚してしまうなんて・・・。」

やばい、これかなりへこむ。特にハルキ様の前でいきなり失態だよ。

「あー、テト。一度召喚したら還さない方が効率いいぞ。まだまだ先長いんだし。」

しかもいつもの癖で黒騎士達は還ってしまっている。たしかに、今回は単独の討伐というわけじゃないんだ。魔力も節約しなきゃなんない。・・・修行だ!修行するよ!

「テト!がんばれ!」

「テトちゃん、落ち着いて!あなたならできるわ!」

ユーナもレイラも本当はありがたいけど、ちょっと黙ってて欲しかったな。気持ちの切り替えをしよう。これから「奈落」の探索が始まるんだ。


 アイアンドロイドを1体召喚する。片手に槍、もう片方のバックラーをつけた手にたいまつを持たせて先行させる。まずはそこそこの広場のような空間だ。これがギルドで話を聞いてた時に教わった第1階層の入り口広場なのだろう。「奈落」は確認されているだけでも第4階層まである。それ以上はまだ誰も到達した事がないみたいだ。階層と言っても別に階段があるわけではなくて、なんとなく雰囲気の変わる場所をそう呼んでいるらしい。第3階層なんてなぜか氷の世界みたいな場所らしいから魔力って不思議だ。

「楽しみだなー。」 

ハルキ様は完全にピクニック気分であるが、この「奈落」で僕は今ある契約召喚の制御力を鍛え上げるつもりでいる。

「宝箱とかないのかなー?」

まあ、あるわけが無いよ。こんな所に宝箱を置いていても取りに来れないじゃないか。ハルキ様はたまにおかしな事を言うよね。

 広場の先にはちょっとした池があった。中に水草が生えている。

「あれはレドン草だな。上等な魔力の回復薬の原料となる。大森林ではめったに生えていないが魔力の多いこの洞窟ならば群生しているんだな。」

ビューリングが教えてくれた。あれがいつも飲んでる青い汁になるなんて。かなり高価な薬なのは分かっていたけど、ここに来たら大儲けできるんじゃないかな?

「ちょっと取りに行きたくなるくらいの数が生えてるよ!水に濡れてもいい準備してくるんだったね!」

ユーナの言う通り、想定してきていなかったために水に入る装備はない。どうしようか?

「・・・テト、ユーナ。お前ら・・・召喚士なのに何で自分たちが入る話をしてるんだ?」

のぉぉぉむぅぅ!!ハルキ様に言われるまで気づかなかったよ!そうか!僕が行かなくてもいいんだよ!ノーム召喚だ!レイクサイド領で何度同じ事をしたと思ってるんだ?

「ハルキ様、僕はどんどん自信がなくなっていきます。」

「大丈夫だ、俺もだ。」

全然慰めになってないけど、まあいいや。レドン草を採取して次に進もう。手に入れたレドン草は水を切って袋に詰め、アイアンドロイドに持たせた。ハルキ様が4体も召喚する意味が理解できる。こいつ、めっちゃ便利だよ。

 召喚士は自分で何かをしなくても召喚させた召喚獣にしてもらえばいい。今のハルキ様は4人の従者がついているようなもので、従者は養っていくのが大変だし命令を聞かないかもしれないけど召喚獣ならそんな心配いらない。豊富な魔力さえあればなんだってできる。今まで、第4部隊の隊長をしていたけど、こんな簡単な事にも気づかなかったなんて・・・。

 

 広場を超えた先にある通路には周囲に軽く発光する苔が生えていた。これならば照明が少なくてもいいかもしれない。ところどころ地上につながる穴も見えるし、以外と光が入ってきている。行く方向からなにやら気配がした。大きな生物の足音みたいな音がする。おそらく魔物だろう。こんなに出現頻度が高いなんて、さっきからまだ30分も経ってないよ!

 剣を抜いて進行方向を睨む。何を召喚するかを選択するためには相手を見極めねばならない。だが、召喚するまでの時間が命取りになる事もあるから、すでに無難な召喚獣を召喚しておくべき?悩む。

「ぐるぅるるるぅ。」

魔物の声が聞こえた。先は暗くてよく見えない。だけど意外と距離が近い!

「黒騎士召喚!」

黒騎士を1体召喚して前衛として守らせる。次の1体は完全に正体が分かってからだ。

 闇の中からでてきたそいつはオオカミの魔物だった。

「あれ?シルバーファングだ。なんでここにいるんだろう。」

ハルキ様がつぶやく!こいつか!こいつの毛皮は絶対手にいれるんだ!

「出てこい、インセクトキラービー!」

でっかい蜂を召喚する。ワイバーン召喚ができる前に飛行用に乗ってたやつだ。ヒルダがめっちゃ嫌がってたっけな。オオカミの皮だったらコイツの針を刺して毒をいれてやれば一発だ。

 黒騎士がシルバーファングの動きを盾で押さえる。鎧に牙は通らないようだ。隙をみてインセクトキラービーが後ろからブスっと刺した。すぐに離脱する。シルバーファングはふらふらしてたけど、そのうち動かなくなった。黒騎士がとどめを刺した。

「やった!」

これでシルバーファングの皮が手に入ったよ!レイラが手早く皮をはいでくれた。水魔法で綺麗にしてクルクルと巻いてアイアンドロイドに持たせる。ハルキ様が持ってた予備のリュックがあるからかなりの量の荷物を担いでくれるよ。なんて便利なんだ、この子。

「これで刺されたら肉が食えそうにないな。」

ビューリングがインセクトキラービーの針をつついている。最近、皆そうだけど魔物を食料として見てるよね。針、危ないよ。

「しかしヴァレンタイン大陸にシルバーファングはいなかったはずだけど・・・。」

ハルキ様はその事が気になる様子。

「もしかして、「奈落」は向こうの大陸とつながっていたりしてな。」

もし、そうだったら向こうに行くまでに1年以上かかっちゃうよ。でも、ありえるから何とも言えない。

 さらに進むとレッドボア3体の群れがいた。これは黒騎士が1体とアイアンゴーレムでなんとかなった。インセクトキラービーは刺されると毒が回るからという理由で刺したのは1体のみだった。レイラとユーナがインセクトキラービーに刺されていない個体の肉を解体している。あれは絶対今夜の御飯なんだろうな・・・。

「セーラさんの作るポークチャップはもともとエルライト領の宿の人が作ってたやつでさ。分厚くて旨いんだよね。あの時はホワイトボアだったけど。」

「ハルキ様!それ私、奥方様に教えてもらいました!」

「まじか!でかした!今日の夕飯は決まりだな!ビューリング、コメを炊くぞ!」

やっぱりか・・・そして洞窟の中で米炊くんだ。準備してきてたんだ。


 それからも数体の魔物が出現してきた。中には見たこともない奴もいて、それなりに苦戦したけどSランクを超えるようなのは出てこなかったから、まだ余裕はあるんじゃないかな?

 今日は第1階層内のこじんまりした所でキャンプとなったけど、ハルキ様の用意した調理道具が本格的で、ユーナの料理の腕もかなりの物だったから、下手すると町で食べるものよりもおいしい御飯を食べることができた。セーラ様やアイオライ王太子の影響でハルキ様もかなりの食道楽になってるよ。


「こういう時はフェンリル召喚だ。」

ベッド兼見張りにフェンリルを召喚するなんて発想したことがなかったよ。フカフカで暖かくて、くせになりそう。魔力の少ないユーナと召喚できないビューリングの分はハルキ様が召喚した。レイラはなんとか頑張ってる。総魔力が増えれば増えるほど、召喚は奥が深い。めちゃくちゃ勉強になった1日だった。


 そして次の日、フカフカのベッドのせいで全員寝坊した。


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