2-3 マイペースユーナ
「奥方様、本日はどこまで行きましょうか。」
レイクサイド領、レイクサイド領主館。レイクサイド召喚騎士団第5部隊所属ユーナは本日もセーラ様専属のワイバーン飛行士です!今日も散歩がてらに空を飛びますよ!
「そうですね。ロージーにも空を経験させてあげたいし、ハルキ様たちも大森林へ行っちゃったし、できれば数日ゆっくりと過ごしたいですね。」
ロージー=レイクサイドの初飛行!これは光栄です!将来の大召喚士様が最初に空を飛んだのが私のワイバーンなんですから!ハルキ様のじゃなくていいんですかね?
「あ!そういえば、北の湖の近くに小屋があるって言ってましたよね。」
「そうそう!それでは、今日はそこで過ごしましょうか。」
「了解です!」
「じゃあ、フランさんもいないし。皆、朝は忙しそうだから置手紙でもして、と・・・。」
「奥方様ー!お弁当持って行きましょうよ!」
奥方様の選択するお弁当はどれもおいしいのです!
「そうね、厨房にお願いしてきますか。」
「それとも、町で買います?」
お買いものも楽しいです!
「・・・それはいいですね。そうしましょう。」
「では!町まで行きます!」
「できればカワベの町のあの店がいいわ。」
「了解です!」
それでは奥方様とロージー様を乗せての初飛行、頑張りましょう!
「なんて綺麗な所でしょう!奥方様!ロージー様!来て良かったですね。」
すごい!素敵な所です!さすがは奥方様!こんな所を知ってるなんて憧れます!
「そうですね。これなら天気もいいし、数日滞在してもいいかもしれません。どうせ、ハルキ様がお帰りになられたら迎えがきますよね。おの人は私がいないとすぐ拗ねるから。」
「ふふふっ、そうですね!」
ハルキ様は奥方様と大変仲がよろしくいらっしゃいます。
「セーラとロージーが?攫われた?」
大森林から帰った俺を襲ったのはこの世の終わりにも近い知らせだった。留守中にエレメント帝国の特殊部隊が襲ってきたらしい。目的は俺の暗殺だったそうだ。部屋にいるものと勘違いして、部屋ごと吹き飛ばす大魔法を命がけで放っていったらしい。目の前には原型をとどめていない部屋があった。その後、その魔人族たちは魔法を放った奴を抱えて煙幕を張って逃げて行ったとの事。残された部屋を探してもセーラさんもロージーも見つからなかったらしい。つまりは暗殺に失敗したためにせめて人質を取ろうという作戦だったのだろう。魔法で吹き飛ばされ気でもうしなっていたのだろうか、セーラさんまで連れ去られていた。
「・・・エレメント帝国か?」
「数日前にフラット領に上陸した部隊と諜報隊が交戦になりました。レイクサイド領への侵入を試みていたそうです。おそらくは、そいつらが・・・。」
「テトの容体は?」
「命に別状はありません。すぐに現場復帰できます。」
「・・・。アイオライ、テツヤ、ちょっと待っててくれ。数日だと思う。もうちょっとかかるかもしれないけど。」
「ああ、分かった。」
「俺も手伝おうか?」
「いや、テツヤありがとう。だが、これは俺たちで解決させたい。」
「そうか、何かあったら何でも言えよ。」
「ああ。」
「奥方様!あそこ!魚が跳ねましたよ!」
「あ!本当だ!かなりおっきいですね。焼いたらおいしいかしら?」
「ちょっと行ってきます!出でよフェンリル!雷でなんとかあいつを気絶させてぇ!」
今夜の夕飯はあいつで決まりです!私も料理を頑張りますよ!
「いってらっしゃい!・・・あ、ロージー。おしめ代えましょうね。」
「ウォルター、逃げた奴らがどこにいるか把握しろ。セーラとロージーの生存確認が最優先だ。分かってるな?」
「はい!ハルキ様!」
「今回は失敗は許されない。」
「・・・分かっております。」
「フィリップ、ヒルダ。第1、第3部隊を連れて北の大陸へ飛べ。以前捨ててきた魔喰らいがいるはずだ。魔力の多い土地に惹かれているなら更に北に移動しているだろう。見つけて捕獲しろ。帰り際にエレメントの首都に放ってこい。なめた真似をしてくれた代償を払わせてやる。」
「了解しました。すぐに出発します。」
「テト、ヘテロ。第4、第5部隊は騎士団の主力を後ろに乗せてワイバーンで海上に展開しているエレメント軍を叩け。どうせ、そんなに数はおらん。だが、ここを襲った奴らを収容しょうとする部隊の船が展開しているはずだ。帰る場所をなくしてやれ。ゴーレム空爆も許可する。余力があればエレメント帝国の南側の港もつぶしてこい。」
「はい!」
「了解ッス。」
「2度としくじるなよ。」
「・・・分かりました。」
「肝に命じるッス・・・ます。」
しかし、その頃北の湖ではユーナが炎の破壊魔法を放っていた。
「どうですか!?このくらいの火加減ならちょうどいいかと!」
「いいですよ!ユーナ!このままの火力で煮込みましょう!絶対おいしくなりますよ!炊き込みご飯って川魚入るといいんですよね。しかも新鮮だし。」
「米と鍋と調味料を持ってきて正解でしたね。あ、薪が足りなくなりそうです。ノーム召喚して拾ってきてもらいますね!出でよ、のーむぅ!」
「ハルキ様。逃げたと思われる特殊部隊を発見したそうです。セーラ様とロージー様に関してはまだ何も・・・。」
「場所は?」
「まだレイクサイド領内です。フラット領方面へと逃走中だとか。」
「分かった。出るぞ、爺、ビューリング、護衛してくれ。ウォルター、先導しろ。全速力でな。」
「マデウ様!ここまでのようです!」
「お前たちだけでも逃げろ。俺は置いていけ。」
「できません!」
雲一つない空に何故か吹き荒れる暴風。一瞬だけ空が暗くなった後に現れた恐怖の風竜。乗っているのは帝国の仇敵だった。
「貴様が、貴様がハルキ=レイクサイドか。」
すでに力が入らない。俺は任務を失敗したのだ。
「うわぁぁぁ!!」
錯乱した部下が召喚された黒騎士に斬り伏せられる。あれは昨日戦った奴の部下の黒騎士とは比べ物にならないほど強い。魔力が違うのがよく分かる。
ウインドドラゴンを召喚したままにもかかわらず、10体近くの黒騎士を召喚する相手を見て命を諦める。せめて一太刀入れたかったが、体の自由は効かない。部下がすべて斬り伏せられた。もう終わりだろう。
「ウォルター、あとは任せるぞ。必ず吐かせろ。」
そいつはそう言った。何かを我慢している表情だった。俺は、これでもう終わりだ。
「ただいま帰りました!・・・ってあれ?どうしたんですか?みんなびっくりな顔して。」
数秒間の沈黙の後に、皆叫びだします。どうしたんだろ?それに領主館のリフォームでもしてるのかな?工事がはじまってますね。ゴーレムいっぱい!
「うぉぉぉぉぉ!!!良かったッスぅ~~!!」
あ!ヘテロ隊長だ!いつもは冷静で恰好いいのになんで泣きそうなんだろう?
「みなさん、どうされたんでしょうかね?」
奥方様も分からないようです。誰か説明してほしいですよ!
「セーラ様!奥方様ぁ!よかった!」
テト隊長までなんで泣いてるんですか?そんなキャラじゃないでしょうに。
「だって、だって、ハルキ様が、ハルキ様がめっちゃ怖くて!」
ハルキ様が?怖くて?そんなわけないじゃないですか。あのハルキ様ですよ。ねえ、奥方様。




