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2-2 マデウの襲撃とセーラたちの安否不明

 フラット領の海岸に数人の魔人族がひっそりと上陸した。彼らはエレメント魔人国第1混成魔人部隊所属の特殊諜報部隊。今回の目的は人類の防衛の要であるハルキ=レイクサイド次期レイクサイド当主の暗殺である。

 今まで第4混成魔人部隊が主体となって攻略を計画してきた大陸ではあるが、数年まえに第2混成魔人部隊が大兵力を持って侵攻した土地でもある。結果はどちらも惨敗。第4混成魔人部隊は再編制を余儀なくされ、第2混成魔人部隊に至っては文字通り全滅した。

 これによりエレメント魔人国の兵力は大きくそがれることとなり、北での内乱を誘発することとなる。しかし、その内乱中を鎮圧にいった第3混成魔人部隊は空から降ってきた魔喰らいと言われる魔物にそのほとんどを食われ、反乱を起こした土地ごと消滅した。エレメント魔人国は帝国としての力を維持することができなくなりつつあると言っても過言ではない。その元凶がほぼすべてハルキ=レイクサイドにあると考えられていた。魔喰らいはウインドドラゴンが落としていった麻袋から生まれたと言う奴らすらいる。

  噂の真偽はともかく、ここまで帝国の兵士たちに恐れられている敵将も少なかった。実力がどうとかの段階を過ぎている。帝国中枢部はハルキ=レイクサイドの速やかな暗殺を求め、もっとも優秀とされる部隊を送り込むこととした。この部隊がヴァレンタイン大陸で朽ち果てようとも、ハルキ=レイクサイドを暗殺する必要性を帝国は感じていたのだ。


 上陸の翌日、この特殊部隊はレイクサイド領の諜報部隊と思われる集団と交戦に至る。レイクサイド領への侵入は果たすが、存在を暴かれてしまった焦りを部隊長は感じていた。彼の名前はマデウ。エレメント帝国きっての天才と呼ばれ、第2混成魔人部隊のジンと同様に魔王の覚えめでたき精鋭中の精鋭である。


 レイクサイド領主館、召喚騎士団長の部屋。

「フィリップ様!諜報部隊が領地に忍び込もうとしていた魔人族の部隊と交戦しました。」

「魔人族、エレメントか?」

「十中八九そうでしょう。こちらに被害は出ませんでしたが、奴らも逃がしてしまったようです。目的は分かりませんが、レイクサイド領までくるということは要人の暗殺の可能性も否定できません。」

「ウォルター、領主館周囲の警戒を。ハルキ様たちは大森林だ。連絡が入れられるならば急げ。でなければ今日にもお帰りになるだろうから、ウインドドラゴンが空にいる状態で降りずに他の場所へ移られる事も検討しよう。」

「分かりました。」


 しかしレイクサイド領主館周囲の森ではすでにマデウたちの潜入が完了していた。

「暗殺をしようにもレイクサイドの諜報機関はすでに感づいているはずだ。こうなれば生還を考えずに特攻する方がハルキ=レイクサイドを抹殺する可能性があがるのではないか?」

マデウはそう考えていた。

「お前たちはエレメントへ帰れ。ここからは俺一人で行う。結果を報告する奴が絶対に必要だ。それに成功したら俺も逃げるつもりでいるからな。」

部下は納得しなかった。

「そんな!マデウ隊長についていきます!この命使ってください!」

「お前たち・・・!気持ちは嬉しい、だが、先ほど言った事は決定事項だ。俺の命令が聞けんのか?」

「マデウ隊長!」

「無駄死にするつもりはない。ハルキ=レイクサイドを討ち取って帰ってくるつもりだ。逃げる俺を手伝ってくれよな。」

「・・・はい!分かりました!御武運を!」

3人の部下を森に残して、マデウは領主館への侵入を行う。人類側に協力者は皆無であるために情報が少ない。以前調べてもらった情報を頼りに次期当主の部屋を目指す。本日朝から見張っているが、ワイバーンが数騎出て行っただけで、ウインドドラゴンは見ていない。昨日からここにいなかったら場合を考えると不安が残るが、これ以上の潜入は露見する恐れが強すぎた。本日でケリをつけねばなるまい。



 最初に気付いたのはテトだった。

「なんか、変な感じがするよ!」

1体のフェンリルを召喚する。すぐにそのフェンリルは異変のある場所へとテトを導いた。

「誰だ!」

テトのフェンリルが遠吠えをする。これで周囲の召喚騎士団が集まるはずだ。同時に黒騎士が6体召喚された。次期当主の部屋に向かう1人の黒ローブを見つける。はっと振り返ったその顔は魔人族だった。マデウである。

「ちぃ!見つかったか!」

その魔人族の破壊魔法は今までに見たことのないほどの破壊力を持っていた。1体につき2発ほどでテトの黒騎士が強制召喚されていく。

「その部屋はだめだ!」

次期当主の部屋にはセーラとロージーがいるはずだった。やらせるわけにはいかない。「深紅の後継者」が見せたことのない本気の表情で相手を威嚇する。

「レッドドラゴン!!」

テトの後ろにレッドドラゴンが現れる。同時にファイアブレスがマデウを襲った。

「全てを受け流せ!」

マデウの周囲に張られた結界がファイアブレスを斜め後方へと受け流す。

「吹き飛べ!」

炎系の破壊魔法の連弾がテトへと繰り出された。必死で回避するが、それ以上の対処はできない。一つ一つが黒騎士を屠る威力を持つ魔法だ。

「くそぉ!」

その隙にマデウはテトまでの距離を詰める。レッドドラゴンは狭い廊下で対応が困難だった。マデウの刀がテトを斬り裂くべく横に振るわれた。なんとか剣で受けるが衝撃で廊下の反対側まで吹き飛ばされる。剣がへし折られて曲がっていた。

「大丈夫ッスか!」

5匹のフェンリルとともにヘテロ=オーケストラがマデウを襲った。だが、フェンリルの攻撃をすべて受けかわし、3体のフェンリルはすれ違いざまに斬られたために強制送還されている。

「なんて・・・奴なんだ・・・。」

吹き飛ばされた衝撃でテトはまだ起き上がることができなかった。

「アイアンゴーレム!」

そこへフィリップのアイアンゴーレムが召喚された。次期当主の部屋をふさぐように召喚されたアイアンゴーレムは文字通りの鉄の壁となってマデウの前に立ちふさがった。

「くっ、ならば仕方がない。」

マデウは数秒力をためる。今までの俊敏な身のこなしがあるためにヘテロもフィリップも攻撃するのをためらってしまった。

「ハルキ=レイクサイドはそこにいると見た。部屋ごと消滅するがいい。」

マデウの全力を込めた特殊魔法「オーバーレイ」が放たれた。アイアンゴーレムごと、部屋が吹き飛ぶ。フィリップも余波でかなり遠くまで飛ばされたようだ。

「あぁ!セーラ様ぁ!ロージー様ぁ!」


テトの絶叫もむなしく、残ったのは半壊した領主館だけだった。

「・・・こ、これで、我がエレメント帝国が・・・。」

力尽きたマデウは倒れこんだ。しかし、そこにマデウの部下が駆け寄る。

「この方はやらせない。」

数人の魔人族がマデウを担いで離脱を試みようとした。ヘテロたちがそれを阻もうとするが、破壊魔法に長けた特殊部隊が煙幕を張り、傷ついたテトを狙う。フィリップもヘテロもそれをかばうあまりにマデウたちの撤退を許してしまった。

「あいつらよりも奥方様とロージー様の安否確認だ!!」

駆け付けた騎士団たちに怒鳴りつけるフィリップ。撤退するマデウたち。そしてセーラとロージーはいつまでたっても見つけられなかった。


 数時間後、ハルキ=レイクサイドが帰還した。


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