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1-7 故郷の衣を纏い、想いを馳せる

「お頭ぁ!帝国の船が見えましたぜ!」

「誰がお頭だぁ!いつも通りまずは逃げるぞ!それでも追っかけてくるなら沈めてやる!」

「アイアイサー!」

「それやめろぉ!子供が真似するだろうが!」

「あいあいたー。」

「・・・。」


 俺たちは村から出航して東の大陸を目指していた。東の大陸と言えばエレメント帝国の領土である。もちろん、追手の数は多い。そして数十人が3隻の船に分かれて乗っているとは言え、そのほとんどが女子供と老人である。純粋に船員として考えられる人数は少ない。追手がいくら帆船でこっちがエンジンを積んでいるとはいえ、追いつかれるときは追いつかれてしまう。

 できるだけ戦闘は避けるようにしていた。だが、そうもいかない。

「破壊魔法に注意しろぉ!いつも通り非戦闘員は向こうの船で待機だ!ライクバルト号だけでやるぞ!」

「テツ兄も結構ノリノリで海賊やってるよね。」

そう、最近俺たちは海賊と呼ばれている。エレメント帝国の船ばかり狙う義賊らしい。違う、向こうが追ってくるんだ。

「防御魔法は任せたぞ!」

男たちの部隊が船体と乗組員を防御する魔法を展開する。5人がかりで魔法を展開すればそうそう抜かれることはなかった。

「破壊魔法の迎撃は頼んだ!」

カイトやラミィたちは飛んでくる破壊魔法の迎撃だ。

「アイアイサー!いつも通りだな!」

「カイト!てめえまで悪乗りしてんじゃねえよ!」

「はっはっは、いいじゃねえか。」


 シンが操縦するライクバルト号が帝国の船を大きく迂回して後ろに付ける。

「小回りでこっちに勝てると思うなよ!」

帝国の船の戦闘員たちは慌てて船尾へと移動だ。いつもの光景にもうちょっとは学習しろよと言いたくなる。

「ヴェノム・エクスプロージョン!」

俺のスキルで船体の後ろにある舵を破壊、そしてできれば帆も損傷させておくのだ。このまま離脱しても構わないが、近くにいる味方に連絡されても困るし、同情の余地はない。

「沈めぇ!」

「待って!テツ兄!」

シンがとどめのヴェノム・エクスプロージョンを打とうとしている俺を止める。

「なんだ?シン。」

「物資が足りないんだ。奪っちゃおう。」

「・・・まじか・・・。」

「野郎ども!乗り込むよっ!!・・・テツ兄が。」

「・・・いや、・・・お前・・・。」


 仕方ないから跳躍してこっちに乗り込もうとしてくる帝国の魔人たちを丁寧に1人ずつ小さいヴェノム・エクスプロージョンで迎撃して海に叩き落とす。なんでこいつらは海で戦うのに鎧をきているんだろうか、軍人というのはどこでも融通が利かない人種なのだろう。ある程度人数が減ったところで向こうの船に乗り込んだ。数人が斬りかかってくるが俺の敵ではなかった。次元斬で斬り伏せる。

「くっ、これが海賊テツヤの実力か・・・我が第3混成魔人部隊がこうもあっさりやられるとはな。」

船長らしき魔人が言ってきた。だから違う、俺は海賊じゃないと言っているのに。

「さあ、命が惜しくば荷物を出すんだ!じゃないとテツ兄が船ごとぶった切るよ!」

「・・・シン、お前・・・。」

なんとたくましくなった事だろうか。兄はちょっと嬉しいぞ。・・・いや、違う。これはそのまんま海賊じゃないか。


 船長は降伏して物資を明け渡した。武器を海に捨てさせ、監視のもとにライクバルト号に積み込ませる。

「じゃあな。・・・シン、沈めろ。」

「アイアイサー。」

卑怯なようであるが、相手はこちらを殺そうと襲ってきた連中だ。今回見逃せば、次にやられるのはこちらかもしれない。物資の積み込みが終わり次第、船を破壊させた。

「くそぉ!海賊めが!」

船長の声が聞こえる。だが、お前も悪いんだ。俺は最初に逃げたじゃないか。

 エレメント帝国の船を沈めたライクバルト号は仲間の船へと戻る。経緯は何にしろ、補給ができたことと犠牲が出なかったことは喜ばしかった。

「はやく、こういう事をしなくても済むようになりたいものだな。」

新天地はまだか。まだ出航から2週間しか経っていなかった。皆に不安な顔を見せるわけにはいかない。

「よぉし!今日は宴だぁ!」

「「アイアイサー!」」

やっぱり海賊っぽいな、おい。


 さらに数日航海をしていると小さな島についた。何もない所だったが、少し休憩するにはうってつけだ。たまには地上で寝てもいいだろう。小さな入り江に入ることとした。

「テツヤ、ここは誰かが使っている島かもしれない。」

入り江には確かに船が止まった痕が残っていた。

「見張りは絶対に必要だな。交代でやってくれ。2日ほど滞在したらすぐにここは出ることとしよう。」

島の探索と、水などの補給も必要だ。各自に仕事を割り振りその日は早めに寝ることにした。

「しかし、ここは暑い。これから先はこんな気温なのか?」

西の大陸とは気候がまるで違う。上半身裸な男も多かった。俺もこの服では暑くて眠れそうもない。


「ラミィ、新しい服を作ってくれないか?」

ラミィは裁縫が上手だ。以前、いい婿がとれそうだと言ったら怒られた。なんでだ?

「こんな感じで、ここに紐がくっついていて、バッと脱げるのがいい。あとパンツは無理だからなぁ。ふんどしにすっか。」

細かい注文をして作ってもらう。要は浴衣だ。これなら暑くても大丈夫だろう。日本人の知恵を借りる。

「変なの。」

作ってるラミィは不思議な顔をしている。最近ようやく魔人族の表情の区別がつくようになってきた・・・ように感じる。


「おおっ!いいじゃねえか。」

浴衣ができた。やっぱり裁縫が早くて上手い。久々に袖を通す感触に、前世の日本を思い出す。ふんどしは初めてつけてみた。意外と悪くないじゃないか。

「へへっ。」

まあ、皆には笑われた。だが、俺はこれでいい。これがいいんだ。


 次の日、懸念していたこの入り江の主が帰ってきてしまった。

「勝手にここに泊まった事は詫びよう!こちらに敵意はない!」

大声で呼びかけると、向こうから数人がボートに乗って降りてきた。

「変ナ恰好ダナ。オ前ハ誰ダ?」

でかい、3mはある魔人が向こうのリーダーなのだろう。変とは失礼な。

「俺はテツヤという。東に向けて皆と旅をしている最中だ。ちょうどいい所に島があったので立ち寄らせてもらった。すぐに出ていくとしよう。」

「!?海賊テツヤか!?」

「海賊じゃねえ!・・が、そう呼ばれているのは事実だ。俺は追ってきたエレメント帝国の船しか沈めてねえよ。」


 この船の持ち主はジルと言った。このあたりで海賊をしていたらしい。最近はエレメント帝国の船がたくさん航行するようになってジルの仲間たちもなかりやられてしまったそうだ。そんな中、俺たちがエレメント帝国の船を次々に沈めているという尾ひれのついた噂を聞いていたらしい。


「東ニ行クノナラ、案内シテヤッテモイイ。」

この海域での海賊行為はもはや続けられないほどにやられてしまったとの事。数隻の船団だったみたいだが、今ではジルの乗る船だけになってしまったそうだ。ジルももともと船長だったわけではないらしい。

「ソノ代ワリ、付イテ行ッテモ良イカ?」

このままここにいてもエレメント帝国にやられてしまう。ならば俺たちについて東に行きたいとの事だった。皆と相談した結果、人でが多いのに越した事はない、という事で了承する事にした。少し、俺たちが村に受け入れられた時を思い出した。

「海賊とは言っても、弱者からの略奪とかの行為は認めないからな。」

「元々、コノ船ハ補給係リダッタ。乗組員モソウイウ連中ダ。」

戦闘をしない部隊だったからこそ生き残れたらしい。しかし、後日判明するジルの戦闘力は凄まじいものだった。


 新たな仲間も増えて、航海は継続される。この1週間後にジルの案内で俺たちはレイル島にたどり着いた。


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