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4-4 掌上のハルキ

 セーラ=レイクサイドです。今日はアイオライ王子の奥様、ローザ=ヴァレンタイン様とお買い物の日です。基本的に私はお買いものは簡単に済ますのですが、これはある意味任務ですので断れませんね。ですが、ローザ様がご自分の立ち位置を良くお知りになるという意味でも重要かと思います。

「セーラ様、本当にこのように目立っててもよいのでしょうか?護衛の方が大変ではないかと?」

・・・この方は次世代の王の妃になる気があるのでしょうか?少し不安です。

「ローザ様、今、アイオライ王子がレイクサイド領と仲がよいという事をアピールするためにこのような場所に来ています。目立つ必要があるんですよ。もし、これを理解できないのであれば、私はアイオライ王子に新たな妃を娶るべきだと進言しなければならなくなりますので、ご注意ください。」

あら?あっという間に青い顔をされてしまいました。これはちょっと期待外れですね。ヴァレンタインの有力な貴族から嫁いで来られたとの事でしたが、ヴァレンタインも大した事はないのでしょうか。そう言えば、心当たりがありますね。


 王都ヴァレンタインは人口が多い割には活気に溢れておりません。レイクサイド領がどれだけ活発なのかが市場に出るとよく分かります。スラム街が大きいのが原因と思います。

「明日にはアイオライ王子が帰ってこられますよ。それまでにローザ様も着飾っておかねばなりません。」

本格的な戦いはすでに終わっています。我がレイクサイド領の意向を無視できる領地はありませんし、現王アレクセイ=ヴァレンタインといえども、ほとんどの大領地を味方につけた王子を後継者に指名しないわけにはいかないでしょう。あとは不祥事などの些細な問題を起こさないようにする細やかさが重要です。

「これが終わったら、ハルキ様とロージーとどこか静かな場所で暮らしたいですね。」

アイオライ王子が王太子となり、ジギル=シルフィード様が次期宰相となれば政権は安泰です。しばらくはレイクサイド領も平和になることでしょう。クロス=ヴァレンタインのような暴走はもうこりごりです。

 明日は久々にハルキ様に会えます。たまには甘えてもよろしいでしょうか。



「セーラさぁぁん!」

ヒノモト国首都ヒノモトでグルメツアー中だったハルキ様にアイオライ様、テツヤ様、それに護衛のフランさんが戻ってこられました。ヴァレンタインのアイオライ様の館は人が一杯です。ハルキ様のウインドドラゴンが館の前に降り立ちます。相変わらずすごい風です。

「1週間ぶりですね、ハルキ様。」

ハルキ様が走ってこられます。そんなに急がなくてもよろしいのに。あ、ウインドドラゴンが消えましたね。アイオライ王子とテツヤ様が地面に転がってますよ。さすがにフランさんはちゃんと着地してます。

「ヒノモトは如何でしたか?」

「うん、レイル諸島とまた違った感じで面白かった。お土産も沢山あるよ。」

「それは楽しみです。さあ、ハルキ様。ご報告がありますので館に入りましょう。その前にアイオライ王子からお願いがあるようですけどね。」

さて、この人の説得が最終関門ですね。



「・・・や、やだ。」

やっぱり、嫌といいますか。

「何故だ、ハルキ!?俺を支持してくれないのか!?レイクサイドの後ろ盾があれば俺は兄たちとも戦える。俺が王になれば、お前が宰相だ。二人で国を動かすんだ。」

アイオライ王子的には予想外だったようです。まあ、レイクサイド領の人間ならば、この時点でハルキ様が嫌というのは予想できるはずですけど、もう少し長く付き合うべきだったでしょうか。テツヤ様、横で爆笑するのやめてください。

「政治キライ、権力興味ナイ、宰相トカキライ。レイクサイド中立。」

ああ、すでに駄々っ子モードに入りました。こうなると少々やっかいですね。

「何故だ!?」

アイオライ王子。人は人それぞれの考え方がございます。ハルキ様のはちょっと特殊ですけどね。

「もともと、俺は次期当主の立場すら興味ない。まあ、優秀な部下がいろいろと世話を焼いてくれるからそれ自体は有難かったけど、レイクサイド領を発展させた事だって、あのままじゃお先真っ暗だったから仕方なくやってただけだし。今は、領地で静かに好きな事して過ごすのが一番だもん。」

「俺に・・・力を貸してくれないのか・・・?」

おっと、泣き落としてでしょうか。それは結構効果的ですよ!アイオライ王子!

「うぐっ!いや、手を貸さないとは言ってないけど・・・宰相とかやだ。政治争いキライ。」

なかなか手ごわいですね。

「だいたい、アレクセイ=ヴァレンタイン王はまだまだご健勝と言うじゃないか。なんで今後継者争いとかしてんの!?」


「ハルキ様、それはあなたがクロス=ヴァレンタイン様を失脚させた事が原因です。」

さすがにアイオライ王子はここまでのようですね。まあ、私の中では想定内です。そろそろ助け舟を出すといたしましょう。

「いままで政治をクロス=ヴァレンタイン様が掌握されていましたから、後継者に関してもクロス=ヴァレンタイン様のご意向がなかり影響すると思われていました。ですが、あの事があったためにクロス=ヴァレンタイン様は現在エジンバラ領で監き・・・ご療養中です。もう政治の場には出てこれないでしょう。そこで、いままでクロス派だった人間が2人の王子の元に走りました。後継者と目されていたのは宮中に勢力を持っていたルクセイン様とフォーセイン様のお二人でしたので。」

今のヴァレンタイン宮中はかなりの混乱状態です。

「ところが、こちらのアイオライ王子には宮中での味方はほとんどおらず、護衛としてついていたダガー=ローレンス様の一党がおられただけでした。しかし、そんなアイオライ王子にもなんと後継者争いに影響力のある味方ができた、と世間では思われています。」

「・・・まさか、その、影響力のあるのって・・・。」

「そうですよ、レイクサイド領次期当主ハルキ=レイクサイド様が最近常にアイオライ王子と行動を共にしてらっしゃいます。それどころか、護衛までされて・・・。」

一瞬だけ、沈黙が。ハルキ様の顔が真っ赤っかです。


「アイオライ、てめぇ!はめやがったな!」

「何をいまさら!だいたい俺は王子だ!口のきき方が悪いわ!それにお前の部下は最初からお前以外全員気付いとったわ!」

「なっ!?」

泣きそうな顔でこちらを見るハルキ様。この顔はキライじゃないです。

「・・・そうなの?」

「そうですね。皆頑張りましたよ。将来のレイクサイド領のために。」

地面に手をついてうなだれる私のハルキ様。


「ハルキ様、ちょっといいですか?」

ハルキ様の扱いは下げて、上げるが基本です。

「今までの事を全部考慮して私たちレイクサイド領から提案があります。まず、レイクサイド領はアイオライ王子を支持いたしましょう。その上でハルキ様の希望を考慮した条件があります。」

「うむ、聞こうか。」

「では、アイオライ王子が王位に就かれましたら宰相はジギル=シルフィード様でお願いします。ハルキ様はやりたくないでしょう?」

うんうんと泣きそうな目でこちらを見てくるハルキ様。さすがにもう少ししっかりしていて欲しいですね。

「そのことはジギル様にはすでにご了承済みです。それによってシルフィード領もこちらの味方となりました。」

「まことかっ!?シルフィード領も俺を推してくれるというのか!?」

「その程度で驚かれていては王位は望めませんよ。」

うぐっ、とのけぞるアイオライ王子。ハルキ様、あなたも人の事は言えませんからどや顔はおやめください。

「ジンビー=エルライト様も私の提案にのって下さいましたよ。そのかわりレイクサイド領からヒノモト国への食糧輸送の件でエルライト領を必ず通るという事をお約束しました。アイオライ王子が即位されてからもエルライト領はアイオライ派であったという事である程度優遇する必要もありますね。」

「エルライト領もか!?」

「それにルイス=スカイウォーカー様はハルキ様とは仲がよろしいですし、我がレイクサイド領とは切っても切れない間柄。こちらも説得は容易でしょう。すでに手配は終わっています。」

「スカイウォーカー領も!?」

「あと、エジンバラ領には敵にまわってある程度戦ってもらう必要がありますが、裏で優遇するように提携した方がいいでしょうね。現在部下が説得という名の脅迫中です。クロス=ヴァレンタイン様が暴走した時に実力の違いは見せつけたので、こちらも問題ありません。」

「・・・エジンバラ領までもか。」

「以上の4領主とテツヤ様も招いてパーティーでも開きましょう。それでこの後継者争いは終了です。シルフィード、エルライト、スカイウォーカー、レイクサイドに逆らってまで戦おうとする領地はいませんし、やる気のないエジンバラは実はこちら側になる予定です。ハルキ様は宰相にならずに済みますし、他の領地も大量に巻き込んでおきましたので面倒臭い仕事も回ってきませんよ。ただ、アイオライ王子、この同盟を組む事ができたのはハルキ様の力ですので、そこのところはお忘れなく。」

「・・・セーラさん。ありがとう。」

ほら、泣かないの。しゃきっとして下さい。

「セーラ殿。正直おどろきすぎて何とも言えないが、・・・恩に着る。」

「ダガーさんは政治に向いてないので親衛隊隊長でお願いします。」

「分かった。そうするとしよう。」


 これで、王の後継者争いは終了ですね。アイオライ王子が領主たちを呼ぶパーティーが楽しみです。どんな料理がでてくるんでしょうか。



第2部終了しました。これでアイオライ王子は正式に王太子にクラスチェンジです。第3部は全く違うお話を・・・。

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