3-3 蜂の巣退治
アイオライ王子のグルメツアー大森林編。
昨日の夜、キラーマンティスの煮込みなんて罰ゲームをさせられた俺たち一行は朝からテンションだだ下がりだ。
「ふむ、見た目はあれだが味はいける。」
とか何とか言ってた奴だけは元気だがな!
「ダガー!ハルキ!テト!今日は大森林の調査とプレジデント・キラービーの蜂蜜の採取だ!」
めっちゃ、元気なんですけど、この人。ダガーさんがすでに何も考えてない無心な感じになっている。死んだ魚のような目だ。
「なんだろう、ハルキ様が2人分いるようだよ。」
ちょっと待てテト、どういう事だ?俺とあれが同じと?
「さあ、今日はビューリングどの自ら案内してくれるそうですし、気合を入れて行きましょうか。」
全く気合の入った目をしてませんが・・・。
俺とテトでフェンリルを召喚してそれぞれ1人ずつ乗ることとした。
「これは、馬とは違って大変だが、すごいな。速い。」
アイオライ王子もダガーさんもなんなく乗りこなしている。何故だろうか、この納得いかない感情は。
「ハルキ、プレジデント・キラービーはおそらく西側にいると思う。ただ、巣の規模がでかければ蜂蜜採取できるかどうか分からんぞ、焼き払ってしまわないといけないからな。」
「なんと!ビューリングそれはいかん!絶対に持って帰るのだ!」
アイオライ慌てすぎ。
「大丈夫だアイオライ王子、テトならなんとかしてくれる。」
「待って!なんでぼくなのさ!」
「君には期待しているよ。」
半日ほど森の中を疾走していると、やや開けた場所に出た。目の前は崖が続いている。
「プレジデント・キラービーはこの崖に巣を作る事が多い。大きな横穴を見かけたらだいたい奴らの巣だ。」
土に穴ほって、中で巣を作るタイプね。よく見かける蜂の巣とは少し違うんだろうな。ほどなくそれらしい横穴を見つけることができた。10分ほど待っていたら中からキラービーがでてきたので間違いないだろう。
「では、テト。よろしく。」
「え?ホントに僕?」
「そうだ、レイクサイド召喚騎士団第4部隊隊長「深紅の後継者」テト殿よ。」
「ちょっと、さり気に二つ名を変えないでよ。それにどうすればいいのか分かんないんだけど。」
「それは自分で考えろ。」
「うう、分かりました。」
テトが頭を抱えている。しかし、世界樹の村に滞在中にフィリップから魔道具通信でテトが最近さぼり気味だから課題を与えてやってほしいと言われている。うふふふ。仕方がないなあ。
「フィリップがさ、テトにやらせろって。」
「えー!?フィリップ様!?やっぱりさぼってたのばれてたのか・・・。」
テトは横穴の入り口にアイアンドロイドを3体召喚した。これで出てくるキラービーをすべて討ち取る計画らしい。キラービーもアイアンドロイドの侵入に気付き、かなりの数が迎撃に出てきている。普通の蜂は小さいので飛び回られるとやっかいであるが、こいつら大きいからアイアンドロイドでもよけられずに戦う事ができているな。蜂なんて大きくない方がいいんじゃないかな?
ある程度キラービーの数が減ったところで、テトが中に入る。しばらくすると横穴をぶっ壊しながらアイアンゴーレムが巣を抱えて出てきた。
「おお!成功か!」
アイオライ王子のテンションが高い。どれだけハニーマスタードソースのロックグリルが食べたいんだろうか。そういえばエジンバラ産マスタードをレイクサイド領主館に取り寄せていたな。あれ?もしかして、また怪鳥ロックを取りにいかされるんじゃ・・・?
かなりでかい巣であったようで、蜂蜜の量も半端ない。
「ハチノコもかなりいるぞ!」
ビューリングが喜んでいる。・・・ハチノコねえ。
「むっ!これも食べれるのか!?」
「そうですよアイオライ王子。下手すると蜂蜜よりも甘いんです。キラービーのハチノコは巣を破壊せずに取り出さなければいけないので、なかなか手に入りにくいんですよ。子供たちが喜びます。」
ビューリングがいつもと違って饒舌だ。・・・しかしハチノコねえ。
「よし!さっそく帰って試してみよう!」
・・・やっぱり、こうなるよね。
そして帰りはおなじみウインドドラゴンで帰る。蜂の巣ごと移動するにはフェンリルじゃ無理だったもので。決して疲れたとか楽をしようとしたからではない。アイオライ王子が速く帰ろうとうるさかったからだ。しかし、このサイズのキラービーのハチノコはやっぱりこうなるよね。成体のキラービーが小学生くらいの大きさがあるんだ。ハチノコはさすがにそれよりは小さいとしても・・・。
「うむ!甘い!」
・・・まじかよー。マジカヨー。これは無理ですわ。獣人のようにかぶりつくなんて無理ですわ!
「あっ!ハルキ様が逃げた!・・・僕も!」
ダガーさんごめんよう!召喚士はワイバーンで空に逃げれるのさ!獣人の皆さんがおいしそうに食べてらっしゃるぞ。私どもの分もどうぞどうぞ。
次の日、村の人総出で蜂蜜の収集作業に移った。かなりの数の瓶を持ってきていたが、それだけでは全くたりず、蜂蜜のツボが何個もできた。村の中が甘ったるい臭いで充満している。
「これは、一つの産業にすらなるな。」
年に1回、プレジデント・キラービーの蜂蜜を採取すれば各領地に高値で売り付けられる。あまり取りすぎなければブランド価値もでてくるだろう。品質は最高級品だ。金持ちが買ってくれるはずだ。
「ほう、レイクサイド領ははちみつの生産も始めるのか。」
悪食王子は今日も元気だ。
「アイオライ様もこの蜂蜜が定期的にとれた方がよろしいでしょう。」
「当然だ!はやく怪鳥ロックのハニーマスタードグリルが食べてみたい。」
セーラさんおすすめは絶対旨い。
「しかし、他にもここにはモンスターマッシュルームの鍋だとか、怪魚ムヒョウのかば焼きだとかいろんな物があると聞いた。」
怪魚ムヒョウはでっかいウナギだ。かば焼きにして食ってみたら確かに旨かった。醤油もどきに蜂蜜いれてかば焼きのたれもどき作って炭火で焼いてみた。素人がやったものだから、あまり上手にはできなかったけど、ウナギ丼にしたら皆喜んでいたな。噂を聞いたセーラさんがわざわさビューリングに頼んで取り寄せてたっけ?
「モンスターマッシュルームは食べたことありませんが、怪魚ムヒョウはおいしかったですね。」
「何!?ハルキは食べたことがあるのか!?ぐぬぬ。」
何故?にらまれなければならない?
「よし!では、まずは一旦レイクサイド領主館へ戻ろう!」
は?一旦?オワリジャナイノ?
「そして怪鳥ロックのハニーマスタードグリルを食べて!もう一度ここに戻ってきて怪魚ムヒョウのかば焼きだ!ではハルキは怪鳥ロックの討伐へ、テトはわれらを領主館へと運び、そうだ。ビューリングもついてこい。他にも聞きたいことがある!」
そして収穫祭までの間、俺たちはアイオライ王子に振り回され続けて、テトなんてグルメツアーをしたにも関わらず痩せてしまった。毎日移動に討伐にあれだけ召喚させられ続けたらそうなるだろうよ。




