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1-3 故郷を想い

 ビューリングの部落というのはそこそこ大きな集落だった。約三百世帯が暮らすという森の中の大集落は、木々の上に家をつくり猛獣や魔物の襲撃を避ける生活の知恵がそのまま継承されているのだそうだ。

「これだけの集落だから、魔物も襲ってこないけどな。それでも、Aランクくらいになるとたまに大騒ぎになる。一年に一回くらいはキラーマンティスあたりがやってくるよ」

 解体されたキラーマンティスの肉を器用に担いだビューリングはそう言う。ただ、あれは肉ではない。もっと内臓的な何かだ。食べるものではない。


「ビューリングでねえべか?」

 部落の門とでも言うべき部分にある大樹。その上で見張りをしていた猫型獣人が声をかけてきた。ここは猫型獣人の集落なのだろうか。他に犬型とかいればいいけど、今のところ見えないな。

「ああ、ただいま」

 空いた方の手を振り返すネコちゃんは意外にも優しい顔をしていた。

「そいつは何だ?」

 おっと、やはり歓迎されないようだ。

「俺の、……命の恩人だ」

 ……は? いつ俺がお前の命を助けた?

「そうか、ビューリングの命の恩人なら歓迎せにゃな」

 猫型獣人の警戒が解かれる。

「ああ、こいつはホープ。ホープ=ブックヤードだ」

「分かった、ホープさんとやら。ビューリングが世話になっただよ。何もないけんど、ゆっくりしてけ」

 大樹に空いた大穴をくぐる。

「ちょっと待って、いつ、どこで、誰が? ビューリングの命を? お前、死にかけたの?」

「それはあなただ、「紅竜」ハルキ=レイクサイド。あなたがいなかったら、俺だけでなく多くの防衛軍が戦場に散っている。今頃はエレメント軍がこのあたりにも来ていたはずだ」

「……いや、俺じゃなくても誰かがなんとかしたんじゃない?」

「誰が?ジギル=シルフィードか?無理だ。分かっているだろう」

 正直、面と向かって褒められると困る。


「ここが俺の家族の家だ」

 それなりの大樹。五~十メートルくらい上の枝の別れの部分にでかい家が作られている。どうやって作ったんだろうか。そして階段が見当たらない。裏手にあるのだろうか?

「行くぞ」

 ビューリングが片手のくせにあっという間に木登りをして家にたどり着く。そういう事か、それで魔物の襲撃を回避していると。……マジか。

「ただいま!」

「あ! ビューリング! いつ帰ってきたんだい?」

「生きとったかね、えがった」

「おう! 途中でキラーマンティスを狩った。みんなで食べてくれ」

「うわーい!」

 上から何人かの声がしてくる。見えないけれど、意外にも大家族みたいだな。

「おい、ホープ。上がってこい」

 ……どうやって? ワイバーン召喚したらばれるよね?



 打って変わってレイクサイド領。

「まだハルキ様の消息は分からんのか!?」

 筆頭召喚士フィリップ=オーケストラの苦悩は今日も続いている。

「はい、各地の冒険者ギルドに諜報員を派遣していますがどこにも現れていないそうです」

ウォルター自慢の諜報員もさすがに大森林の奥地にまでは派遣されていなかった。

「くそっ! 単純な思考回路しか持たない思っていたが、思っていたより頭が働くらしい」

「……フィリップ様……」

「こうなったら、ヒノモト国にも連絡を入れろ! 同じ思考回路のテツヤ様ならハルキ様の考えている事が分かるかもしれん」

「……まあ、一応、了解です」

 こうしてヒノモト国にハルキ=レイクサイドが遊びに行ってないかの連絡が入ることになる。ヒノモト国にはいなかったわけであるが、テツヤ=ヒノモトは次にハルキが遊びに行きたいと言ったらヒノモト国に招待してやってもよいと思ったとか。



 結局、家にはビューリングに担いで登ってもらって入ることとなった。ビューリングの家はそれなりの大家族で、両親と三人の兄弟、それぞれの妻と子供達とかなり人数が多い。ビューリングは戦士であるため結婚はしていないという。何故、戦士だと結婚しないかという話はよく理解できなかった。

「こいつはホープ=ブックヤード。純人だが、友達だ。命の恩人でもある」

 よせ! そんな風に言われる事には慣れていない! 顔が爆発したらどうするんだ!?


「そうか、ビューリングが世話になっただよ。ゆっくりしてけ」

 ビューリングの両親も兄弟も猫型獣人だ。獣化するとみんな虎になるらしい。恐ろしい。

「ホープは今行くところがないんだ。しばらく置いてやってもいいか?」

「ええよ。好きなだけおればええ」

 そして優しい。なんていい人達なんだ。こうしてはおれん。恩には恩で報いるべし、働かざる者食うべからずだ。


「タダで置いてもらうのも何か悪いし、できることがあれば手伝おう。こう見えてもAランク冒険者なんだ。怪鳥ロックとかグレートデビルブルくらいなら狩ってこれる。あいつら旨いし量も多いから皆で食おう」

 ……あれ? 何か反応がおかしいぞ?

「……ホープ、それは完全にSランクだ。しかも、かなり上の方のSだ。まあ、狩れるんだろうけども」

「うおおお! すっげえべ! もしかしてキラーマンティスもホープが狩ったんか? 戦に出る前はビューリングだけじゃ無理だったってえのに!」

 ちびっこが後ろから叩いてくる。そこはケツだ。やめろ。

「今晩は一緒にキラーマンティス食おうな!」

 絶対断る。


 こうして俺は獣人の部落での共同生活を始めることになった。ビューリングは村では戦士だが、戦士は狩人も兼用している。それを手伝う事にした。村をある程度離れたら召喚が使えるようになる。

「うむ、いい村だな」

「さりげなく虫型の魔物を消し炭にするのはやめろ。レッドドラゴンの無駄使いをよせ」

「だって、あれは食べ物じゃないし。昨日は怪鳥ロック狩ったんだからいいだろ。俺の破壊魔法がさく裂したわけだが。あれのから揚げが旨いんだ。今日はそれにしようぜ」

「お前の破壊魔法は全く役に立ってなかったよ。結局移動に使ったウインドドラゴンが仕留めてたじゃないか。ドラゴンのため息なんて初めて聞いたよ」

「むむむ」

「それにドラゴンなんてばれるから、いくら運搬が必要でも大型の魔物はやめとこうな」



 そんな生活が三日ほど続いた。が、しかし。

「……ぐすっ……セーラさん、ロージー……」

「お前、……もう帰れ。しかし早いな。ホームシック。まだ五日経ってないぞ」

「やだ、いまさらどの面下げて帰ればいいか分からん」

「だあ、もう。ほら、付いてってやるから」

「……うん」


 そして俺はレイクサイド領へと帰る事にした。




ホープ=ブックヤード 21歳 男性

Lv 111

HP 1380/1380   MP 4360/4360

破壊 8  回復 3  補助 14  召喚 250  幻惑 4  特殊 0

スキル:逃避行・改(現実から目を背けて逃避行しても心が痛まない、改良版)

眷属:ノーム(召喚3、維持1)

   ウィンディーネ(召喚100、維持10)

   サラマンダー(召喚100、維持10)

   ファイアドレイク(召喚200、維持15)

   アイアンドロイド(召喚150、維持15)

   フェンリル(召喚300、維持15)

   黒騎士(召喚300、維持15)

   アークエンジェル(召喚700、維持40)

   クレイゴーレム(召喚1000、維持50)

   アイアンゴーレム(召喚1200、維持60)

   ワイバーン(召喚800、維持30)

   レッドドラゴン(召喚2000、維持100)

   ウインドドラゴン(召喚1900、維持120)

   コキュートス(召喚2500、維持150)


ビューリング 33歳 男性

Lv 42

HP 1310/1330   MP 82/82

破壊 13  回復 8  補助 6  召喚 1  幻惑 3  特殊 0

スキル:獣化(外見的により獣の要素が多くなるが、力や俊敏性が増える)

    剣豪(戦闘において剣の使い方が上手くなる)

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