3-2 明かされる秘密
ちょい長め
結局、大森林には10日ほど滞在した。領主があまり不在にしすぎるのもいけないと思ったのと、やっぱり家に帰りたいと思う気持ちが強かったためだ。
「セーラ様によろしくな。」
「うん、ありがとうビューリング。世話になった。」
「気にするな。また来い。」
ヨーレンのワイバーンに乗ってレイクサイド領まで戻る。ウインドドラゴンだとあっという間なのに、こいつのワイバーンは遅いな。仕方ないか。
「ハルキ様、おかえりなさい。」
「ただいま、セーラさん。」
セーラさんが出迎えてくれる。この前の事怒ってないかな?
「騎士団の方々も帰って来られましたよ。どうやら、この前の事件が王都では結構な問題になってるらしくて・・・。」
・・・問題?
「ハルキ様!お戻りになられましたか!」
幹部連中が集まっている。ビューリングが魔道具通信で連絡を入れておいてくれたのだろう。フィリップが議長を務めているようだ。
「さっそくですが、この前の魔物発生とヨシヒロ神に関して、レイクサイド領でも対策を講じねばなりません。」
対策?何かあったの?
「ヨース・フィーロ教がヨシヒロ神を邪神と認定しました。神官長がシグヴァルディのような神官が出てしまった事に対してアイオライ王に謝罪をしたようです。アイオライ王は今後のヨシヒロ神の行動に注意を払うべく各領地との情報の交換を求めています。」
明らかにヨース・フィーロ神は神楽なんだけどな。ふむ、それで?
「また、同じような魔物の発生がある可能性と、他の人類に対する攻撃行為がないとも限りません。むしろ、ヨシヒロ神自体は傷ついていませんから、またあると考えるのが妥当でしょう。ただ、民衆をはじめとしてほとんどの人間が神というものを信じていません。」
そうなのである。普通はこんなに戦争に明け暮れている世界ならば救いを求めて宗教に走るやつが多いと思うんだけど、意外とこの世界の住人はドライなんだよね。そこんとこ、日本に近いものがある。
「ですので、神としてではなく、犯罪者としてヨシヒロ神を探そうという動きがあります。我らはこれが危険だと反対したのですが・・・。」
たしかに、一般人どころか誰であったとしても神楽が本気を出せば勝てるわけがないだろう。あの力は・・・反則だ。神楽自身もそうとう強いというか、別次元の存在なのだろう。
「なんとなく、状況は分かった。レイクサイド領としては、そのヨシヒロ神を犯罪者として調査に乗り出すというのは反対で構わない。というよりも、そんな事をしても無駄だ。」
「そうそう、無駄ですよ。」
急に後ろから声をかけられてビビる。この前と同じだ。
「なっ!?神楽!」
「やだなあ、僕はヨシヒロ神と名乗ってると言ったじゃないですか。おっと、コンソール・絶対防御。」
ヨシヒロ神という言葉を聞いて、皆が身構える。しかし、その中で身構えるのではなく切りかかったのは「勇者」フラン=オーケストラだった。魔王を討ち取ってから二つ名が変わっている。
「ギィィン!!」
爺の剣は宝剣ペンドラゴンではないが、ドワーフ製のミスリルだ。爺の補助魔法で魔力がもっとも乗りやすい仕様であり、テツヤの次元斬ですら弾き返す。今までこいつで斬れなかったものは見たことがない。・・・なかった。
「はじいた!?」
「手で!?」
右手を掲げた神楽が生身の手で爺の剣を弾き返した。
「無駄ですよ。」
「ふん!」
負けじと爺が何度も斬りつける。その度にギィン!という音が鳴り響く。
「だから・・うわっぷ、ちょ、ちょっと!話を・・聞いて!?」
顔から足から胴体から何度も何度も斬りつけるが、全く刃が通らない。なんて強度だ?いや、あれは強度の問題じゃあないんじゃないか?
「ええっと、もう!うっとうしいな!コンソール・パラライズ!」
「ぐっ!」
一瞬で爺の体が硬直し、そのまま床に倒れ込んだ。
「じいっ!」
「アイアンゴーレム!」
フィリップがアイアンゴーレムを召喚しようとするが、神楽はまたしても手を掲げた。
「コンソール・マジックディスオーダー。ちょっと落ち着こうよ。」
「なっ!?召喚ができない!」
「フレイムレイン!」
「リリス!」
他の者もそれぞれ魔法を唱えようとするが、どうしてもできない。
「魔法が、使えない!?」
「そういうように設定し直したんだよ。ちょっと話を聞こうか。」
物理攻撃最強のフランが防がれた、魔法は使えない。これでは何もできない!?その間にウォルターとヘテロが斬りかかっているが、先ほどの爺と同じ結果になっている。
「あ~、もうちゃんと話を聞いてくれそうにないよ?先生。ちょっと他の場所に移ろうか。」
「誰が!?貴様のせいでこっちは甚大な被害を被ってだな!?」
「はいはい、後で聞くから。コンソール・転移。」
一瞬にして景色が変わった。どこだ?ここは?
「霊峰アダムスの頂上だよ。ちょっと寒いけど、ここなら誰も来ない。コンソール・エアーコンディション。よし、気温もばっちりだ。」
霊峰アダムス?頂上?あの一瞬で移動したってのか?どんな力だ?
「先生には感謝してるんだよ。あ、ちょっと待ってね・・・コンソール・精神安定。ふう。あ、そうだ。この前はごめんね。コンソール・レベルアドジャスト。これでレベルはもと通りだよ。」
なんだこいつ?理解ができない。
「たぶん、これで間に合うんだ。先生のおかげで心が壊れずに済んだ。」
「間に合う?」
「そう、もうすぐ僕がここに来て1万年になる。僕はこれでようやく任務完了。終わる事ができるんだ。」
「任務?終わる?」
何言ってんだ?
「説明が足りないと思ってるだろうね。そうなんだけど、その前に・・・。」
神楽は一つ深い息をついた。
「感謝の印に選ばせてあげる。この話を聞いた後に記憶を消すかどうかを。」
「記憶を?そんなこともできるのか?」
「そうだよ。記憶を消す事なんて造作もない。僕はこの世界の管理者兼ウィルス駆除プログラムだからね。」
想定外の事柄とはこの事だった。神楽が語った内容はどうしても信じられなかったが、理屈は通る。
「僕の分子スキャンは完璧なんだ。このデータを持って、工学部のスーパーコンピューターで世界を構築したんだよ。」
世界の構築だと?
「オリジナルの僕はこのデータで世界を構築することで、未来がどんな風になって行くかを予想しようとした。実際の時間の数十万倍から数千万倍のスピードで流れるこの世界は、1万年経ったとしても、オリジナルの世界では夕方から次の日の朝か昼前くらいの計算さ。」
なっ!?もしかして・・・。
「僕も君も単なるプログラムだ。でもなんでこんな周りくどい事をしてるかと言うとね、最初の世界は失敗したんだ。なぜか、文明が全く発達しない。ある程度、中世ヨーロッパ程度の文明からそれ以上は全くね。」
それで・・・、エルライトの町を見たときの違和感はこれか!
「何回か世界を構築した。それでも結果は同じだったんだ。もととなったモニターが悪かったのかもしれないと考えた僕は、優秀なモニターを探すことにした。それが先生であり、後輩の哲也だったんだよ。他の連中はまるでダメだったけど。」
やはり、こっちの世界に飛ばされたのはこいつのせいか?いや、待てよ。こいつはプログラムだと言った。ということは・・・。
「オリジナルの先生は、今頃ご家庭で就寝中ってわけさ。ご家族はどんな人たちなんだい?きっと先生にはかけがえのない人たちなんだろうね。あなたには申し訳ない事をしたけど、ちゃんとオリジナルの先生がいるから心配は無用だよ。」
この!なんて言えばいいんだ!?どこに怒りをぶつけていいか分からない。
「この世界は、優秀じゃなかったモニターたちを元にした世界なんだ。彼らが祖先として繁栄した人間は、これ以上の文明を構築する事ができなかった。つまりは、可能性のない人間だ。でもね、オリジナルの僕が管理者として自分をこの世界に送り込んだ。そしたら何が起こったと思う?あ、ちなみにオリジナルはこのプログラムが終わらない限りこの世界のデータを見ることはない。それにデータが多すぎて、僕らの言動の一つ一つなんて記憶する気すらないよ。」
・・・まずいな。あまりにも衝撃的過ぎて思考が追い付かなくなってる。
「僕がこの世界に来た時にね・・・バグが起こったんだ。そう、魔力と魔物だよ。そのあとも亜人やら魔人やら、モニターが何人かこっちに投下されるたびにバグが起こった。最近は起きてないけどね。そしてそのモニター連中は、何年も生きられずにすぐ死んじゃうか、歴史に何も残さないで死んでしまうかだった。僕のこの力も無限じゃない。たんなるコンソール、つまりは世界を制御しているだけだ。いつオリジナルがモニターを投下するかなんてわからないし、検索も不十分だ。だから、テツヤがヒノモトを名乗ったときはすぐに分かったし、そのテツヤと先生が正体を明かし合うとは好都合だった。」
魔力が、こいつのせいだとは。しかし、1万年か。ぞっとする。
「この数千年は、あまり生活に不自由しない奴の体を乗っ取ってたんだ。何せ、コンソールができるだけの純人設定だ。飯もいるし、生活しなきゃ生きていけない。まあ、コンソールあれば生きていけるんだけど。最初は先生がモニターだとは思わなかったよ。こいつ知ってるでしょ?コンソール・変化。」
そういうと神楽は知ってる男に変化した。
「サイセミア=シルフィード!!?」
「そうだよ。セーラを君に取られた哀れな貴族さ。さすがにコンソールでぶっ殺してやろうかと思ったけど、まあ、純人1人くらいでいまさらね。1万年もいろんな奴に化けてきたから、あんまり執着はなかった。むしろ後から考えると先生が幸せそうで良かったよ。あ、セーラにはコンソールかけた事ないから安心して。コンソール・変化。コンソール・精神安定。」
神楽は元の姿にもどる。
「何が目的で、こんな事を!?」
「言ったでしょ?優秀なモニターとそうでない奴って。僕は、僕のオリジナルは未来を知りたいんだ。つまりね、それはこれからの未来に役に立つ人間を選ぶことでもある。今までのモニターは全くこの世界の発展には寄与しなかった。でも、今回のことで先生や哲也には可能性があることが分かったよ。バグがあるから、この世界のデータは参考程度にしかなんないけどね。」
選民思想か?時代遅れだな。
「さっき、計算したんだ。もうすぐでオリジナルがコンピューターのチェックに入る時間なんだよ。バグがあるこの世界はこれで終わりなんだ!僕は任務終了なんだよ!でもね、なんで僕がこんなに心を壊しながらやってるのに、その恩恵すらなく消滅しなきゃならないんだ!?ふはは、ははは。」
そう言うと、神楽はそれこそ邪神という呼び名がふさわしい顔で笑った。
「やっぱり記憶の消去はなしだ!先生は僕がやる事を見ててもらわなきゃ!!僕は!!」
「この世界をめちゃくちゃにしてやる!!」
ネタバレ回でした。あーすっきり。




