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2-8 殲滅戦

 さて、この大量の魔物たちを討伐するにあたって、俺自身の能力は使えないわけであるが、ここには鍛えに鍛え上げたレイクサイド召喚騎士団の精鋭たちがいる。シルキット率いる破壊魔法の達人たちも一緒だ。別に俺1人いなくたって問題なんてない。レベルダウンはかなりへこんだが、作戦に影響などしない。


 これから行われるのは戦争ではない。殲滅だ。


「神を愚弄するか!!」

ハゲ神官が何を言ってもどうでもいい。すでに殲滅は決めたことだ。あいつも神楽にそそのかされて可哀想な奴なんだけどな。名前くらい聞いてやってもいいけど、すでに逆上してしまって会話が成り立ちそうもない。逆上させたのは俺だけど。


「フィリップ、ワイバーンを縦列で飛行させてあいつらの周囲を円周に回れ。余った魔力で召喚獣を地上にも召喚してその円から1匹も逃がすな。お前らのウインドドラゴンは主だった魔物をフライアウェイだ。中心地帯に第1部隊でアイアンゴーレムを10体ほど壊れないように召喚しろ、ティアマトの相手に10体あれば十分すぎるだろう。包囲したワイバーンから中心に向かって破壊魔法だ。少しずつ輪を狭めて行けば最後は全部倒せる。」

「はっ!了解しました!続け!者ども!」

フィリップがワイバーン竜撃隊を率いて魔物たちをぐるっと囲むように飛び始める。


「このヨシヒロ神に授かった力を見るがいい!」

神官が魔法を唱えると、地面に穴が開き、中から光があふれだしてきた。すぐに光の柱が立つ。なんて神々しい風景なんだろうかとも思うが、中から魔物が出てきた。最初に出てきたのはワータイガーだ。そして神官がもうひとつ魔法を唱えるとワータイガーは大人しく神官に従った。それにしてもでかい魔物だ。

「どうだ!この力があればお前たちを滅ぼすことなど造作も・・・。」


「関係ないな!アイアンゴーレムズ!!」

神官の声を遮ってウインドドラゴンに乗ったフィリップがアイアンゴーレムを高度から2体召喚する。その内の1体が着地と同時にワータイガーを踏みつぶすと、もう1体が光の穴に着地し、一瞬で砂埃とクレーターを作成した。

「なっ!私の「大地の井戸」が!?」

「大地の井戸」が光の穴の正式名称なのだろう。全く意に介さないフィリップが続けて号令を出す。

「続け!第1部隊!その他は周囲の召喚だ!こいつらを1匹も逃がすんじゃないぞ!」

第1部隊の精鋭たちがアイアンゴーレムを投下してく。その召喚は高度であはあるが、着地後に強制送還されることなく戦闘に加わることのできる高さをあらかじめ訓練で習得されているのだ。

「ティアマトを囲め!破壊魔法部隊は攻撃開始だ!」

残りの8体のアイアンゴーレムの投下によってかなりの被害を被った魔物の群れに、ワイバーンから破壊魔法が連射される。上から下に撃たれているために完全包囲していても破壊魔法によるフレンドリーファイアはほぼない。皆、投下されたアイアンゴーレムを避けて魔法を撃っている。こちらもワイバーンからの攻撃を想定したシルキットの訓練のたまものである。リオンとフィリップを乗せたウインドドラゴンも乱戦の中の魔物に背後から襲いかかり、超高度からの投擲で他の魔物にぶつけている。


「リリス!頼んだよ!」

「はい、ご主人様。」

リリスが氷魔法で魔物の逃げ道に壁を形成して逃亡を防いでいる。壁を越えても他の召喚獣が待ち受けているために逃げることのできる魔物はいない。


「おのれぇぇぇぇええええ!!」

神官が叫んでいるが、周囲に数体のアイアンゴーレムが取りつき、ティアマトも余裕があるわけではなかった。特にフィリップのアイアンゴーレム2体は魔力が違う。そして、ティアマトは飛行能力をもたないタイプのドラゴンだった。しかし、すでに他のアイアンゴーレム3体を強制送還させているあたり、この魔物が尋常でない事は明白である。エジンバラ防衛戦の折、あのワータイガーですら1体も強制送還させる事はできなかったと言うからだ。

「取り逃がすな!」

周囲に召喚されたアイアンドロイドや黒騎士、フェンリルなども破壊魔法を潜り抜けて逃げてきた魔物を攻撃する。


「ヨシヒロ。所詮は浅知恵だ。いくら優秀と言われていても、もう思考が停止してるんだな。」

 ヨーレンにも聞こえないような声で独り言を言ってみる。いくら、俺のレベルを下げたところで、すでにレイクサイド騎士団はこれほどの成長を遂げた。この程度の嫌がらせで結果が覆るわけがない。だが、あの力は恐ろしい。次は何を仕掛けてくる事やら・・・。



「貴様らぁ!神を恐れぬか!」

神官が叫ぶ。しかし、その声は俺たちには響かない。

「地上戦のみを想定した場合はそうやって大量の魔物を固めておけばいいんだろうが、相手が悪かったな。お前の頼みのヨシヒロ神とやらは、助けには来ないみたいだ。」

 魔王アルキメデス=オクタビアヌスの時も助けには来なかった。おそらくは今回も同じであろう。


 エジンバラ騎士団は城壁もない地上で迎え撃ったためにかなりの被害を出してしまった。城壁で防衛しているスカイウォーカー騎士団とシルフィード騎士団の被害は少ない。戦い方というものがある。こいつはそれを分かっていなかった。エジンバラ騎士団に勝ってしまったのが駄目だったのだろう。調子に乗らなければ、潜伏しながら「大地の井戸」を作り続けるだけでこちらは消耗し続け、いつかは敗北したであろうに。それを考えるとやっかいな力を授けたものだ。紙一重の勝利だと思っても間違いないだろう。今回も相手がバカで助かった。


「くそぉぉぉ!!」

 ついにティアマトが墜ちた。投げ出される神官。新たに「大地の井戸」を作り上げるが、フィリップがアイアンゴーレムをもう1体召喚してこれを塞ぐ。

「おのれぇぇぇ!!」

最後の最期まで、神官はこちらを罵るのをやめなかった。



「お、終わりましたね。」

神と髪に見放されし男ヨーレンが言った。こいつ、俺を乗せてただけで何もしてないな。

「こいつは可哀想な男だったな。帰ったらヨース・フィーロ教の神官に聞いて名前だけでも調べてもらおう。」



 その後、残った「大地の井戸」を塞いで、この事件は収束した。ヨース・フィーロ教の神官の名前はシグヴァルディと言い、ヨース・フィーロ教の集団の中でも変わった人物であったという。友のできなかったシグヴァルディは世の中の不満をこぼし続けていたらしい。


 ハルキ=レイクサイドがヨシヒロ神にかけられた呪いに関しては他領地に漏れないように戒厳令が発せられたが、先の魔物の殲滅戦の内容を知るものはハルキ=レイクサイドが呪いにかけられたかどうかなど気にするものはいなかった。

「むしろ、後ろでドンと構えてもらっていてほうが効率がいいんじゃないの?」

「テトの言うとおりッス!突っ込んでいくハルキ様の後をおっかけるのはしんどいッスから!」

「皆の意見は分かった。ではハルキ様にはこのまま後方にいてもらうという方針で問題ないと伝えよう。あと、テトに代わってヨーレンがハルキ様の係という事でいいな?」

「うん!僕もそのほうがいいと思う。」

「第5部隊としても問題ないッス。」


 こうして「神と髪に見放されし男」ヨーレンがハルキ係となるのであった。



「ちょっと待って!それホントに俺の二つ名になるの!!??」

「諦めるッス。」


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