2-1 アウトブレイク
1話3000文字程度を目標に書いてます。その方が読みやすいかなくらいの感覚なんですけど、物足りない人って多いですかね?
「はっはっは、先生は本当に面白いね。まさか、あれをなんとかするとは思ってなかったよ。」
黒目黒髪の男は狂気じみた笑いでシルフィードの町を歩いている。
「さて、意外なところで縁もあることだし、もうちょっと見ていてもいいかもね。」
そして誰がいるわけでもない場所で誰に話しかけるともなくつぶやく。
「次は、どうかな・・・。コンソール、変化。」
男はその容姿を変える。それはハルキとは奇妙な縁のある男だった。
「ふふふふふふふふ。おかしくなっちゃうな。だめだね。コンソール、精神安定。コンソール、転移。」
ふっと消えた後には何も残らない。
レイクサイド領レイクサイド領主館。リオンの修行が終了し、俺はレイクサイド領へと帰ってきていた。エレメント魔人国を撃退して不可侵条約を取り付けたために、現在ヴァレンタイン王国は非常に平和な時を迎えている。主な隣接する魔人国であるのはヒノモト国だけなので、こちらとはもちろん同盟が成立しているのだ。つまり、他の国に何かしらの事件でも起こらない限りは戦争が起こる可能性は極めて低い。フラット領やエルライト領にとって、このような防衛に労力をつぎ込まなくてもいい状況は歓迎するべき事なのであろう。
先日、帰り際に王都ヴァレンタインで1泊した際、アイオライ現王と宰相ジギル=シルフィードとの会食の場面での事だ。
「不可侵条約結んだんだろ?貿易だ!」
レイクサイド領は船が停泊できる港が極端に少ない。そのために主な貿易はエレメント魔人国とはフラット領が、ヒノモト国とはエルライト領が担う事となる。ただし、その扱う品の中にはもちろんレイクサイド領で大量に生産される農作物が含まれるのだ。
「だいたい、内需でどうにかしようと思っても利益は出づらいから、貿易をすればそれだけで国は潤うぞ。」
ここの所の説明が難しかったが、ジギルもアイオライも最終的には理解してくれた。それによって、ヴァレンタインからは食料を輸出し、魔大陸からは魔大陸でしか取れない物や魔物の製品や素材を輸入する事ができるようになる。せっかく、各領地に物流を改善させる目的で道路建設を行ったのだ。
だが、この前まで戦争をしていた相手だ。実現は難しいだろう。でも不可能じゃない。
改革と言えば、今ある技術で行えるのはこの程度であるが、技術なんてのはかなりのオーバーテクノロジーでもなければ浸透するわけないし、それは扱う者次第であり必要であるから進化するものである。これが精いっぱいの改革と思って間違いないだろう。あとは、放っておけば民が勝手に取捨選択してくれるはずだ。
「それに、当分戦争はなさそうだ。無駄な騎士団の増加も必要なければ民に娯楽を提供する必要があるぞ。」
そうなのである。戦争はいい意味でも悪い意味でもストレスだ。いままでそこにあった適度なストレスが急になくなったら、暴走を始めるに決まっている。殺し合いを避けるためにはそれの発散を考える必要がある。今まで生きるのが精いっぱいだった世界が、急に平和で仕事に溢れた飽食の時代となれば、それに見合った文化というのが必要だろう。領地対抗サッカーでもさせるか?
「レイクサイド領だけであれば、いろいろと考えることもできるんだけどな。」
逆に、王国全土を巻き込んだ何かは無理だ。だが、それが最もストレス発散にはいいに違いない。
「言いたい事はよく分かった。検討しよう。」
こいつ、娯楽とか言って料理大会開いたりしなきゃいいが・・・。
そしてレイクサイド領。
「ようやく道路工事がほとんど終わったな。」
驚異的な速さで王都ヴァレンタインと各領地の領主館をつなぐ道路をつくったレイクサイド召喚騎士団。すでに平和になったであろうこの世の中だ。レイクサイド建築(株)とかに改名してもいいかもしれない。
「とりあえず、落ち着きましたね。」
「そうだね、セーラさん。本当に最近は忙しかったよ。」
「ハルキ様にしかできない事ばっかりでしたから。」
「ほんと、誰か他の人が頑張ってくれるといいんだけどねぇ。」
特にエレメント魔人国が数年おきに攻めてくるというのが本当に辛かった。よく考えれば、これまではヴァレンタイン大陸に攻めてくる事もほとんどなかったらしいけど、この大陸の魔力がもっと強かったんなら今頃は人類は魔人族の奴隷として生き残っているだけで王国なんて持ってないに違いない。個人の強さも、人口を含めた国としての国力もかなりの差があった。たまたまこちらに地の利があって、たまたまヒノモト国にテツヤがいて、たまたま召喚獣がうまいこと機能してくれたからこそ、勝ち抜く事ができたのだと思う。現に、こちらから攻め入る余力はない。
「これからは、戦争をしなくてもいい国造りが必要だな。」
しかし戦争をしなくてもいいとは簡単に言えるけど、本当はどうすればいいか分からない。だけど、ロージーを見ていて思った。そんな事はこれから皆で考えればいい。
「だーだー。」
「おっ!ロージー!お腹すいたか?」
しかし、なんで平和ってのは続かないんだろうか。別にずっと続いても誰も困らないと思うんだけど、退屈する神様でもいるのか?
数か月後、大陸の南部に大量の魔物が発生したらしい。エジンバラ南方の小領地郡は壊滅したらしいとの報告を受ける。現王アイオライ=ヴァレンタインは各領地に騎士団の派遣を要請、すでに魔物の駆逐に向かっているエルライト領とエジンバラ領を除く領地の騎士団で構成された討伐隊が結成され、エジンバラ領とエルライト領の境界付近を目指し出発した。
「ハルキ、すまんがレイクサイド召喚騎士団は先に向かってくれ。向こうの情報がきわめて少ない。」
「うちの諜報部隊からの連絡も途絶えている。あいつらが連絡して来れないのは初めてだ。エレメント大陸からですら定時連絡を欠かせなかった奴らがだ。」
「なにかおかしい。手遅れになる前に動いてくれるか?」
「ああ、アイオライも他の地域動向にも注意を払っていてくれ。」
「任せろ。」
先発部隊としてレイクサイド召喚騎士団から領主ハルキ=レイクサイドと第4部隊テト班が飛んだ。他の部隊はワイバーンでエジンバラの町で合流する予定だ。それまでに周囲の状況など、できる限りの情報を仕入れておきたい。
後発した騎士団は主にスカイウォーカー騎士団にシルフィード騎士団だ。ルイス=スカイウォーカーが総指揮をとり、進軍を開始する。
「エジンバラ、エルライト連合軍は魔物の大群を前に敗走、現在は大峡谷エクイナラバ付近まで後退したとのことです。」
「魔物の数がはっきりしません。それどころか、Sランクが多数存在しまるでひとつの意思を持っているかのように軍に襲いかかってきます。それも昼夜問わず。すでにエジンバラ、エルライト両軍には疲れが見え始めています。」
「シルフィード、スカイウォーカー騎士団の派遣を急がせろ。ハルキ殿たちが情報を持って帰り次第、反撃をする!すでにジギル宰相もこちらに向かっているようだ。援軍の規模の拡大要請をしろ。この数では太刀打ちできんかもしれん。」
しかし、彼らのウインドドラゴンによる最速行動で、南方の情報を整理する王都のもくろみは潰えることとなる。
「ハルキたちが消えた!?」
ハルキ=レイクサイドおよび第4部隊テト班が消息を絶ったのは翌日の事だった。
奇妙な縁って誰やねん!




