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02-03

 ―――昼食時、オカ研部室。



 平時であれば大月零と二人でくつろぐ事の多い昼休みであるが、どうにも彼女の姿が見えない。

 致し方無し。飛鳥は購買で買ってきたサンドイッチと片手にどうしたものかと思案していると、見慣れぬ二人組が入ってきた。


 「ありゃ、君ら二人のコンビって珍しいネ」

 「道すがら出会っただけだ。他意ははない」

 「そっスねー。嘉納先輩と特に接点ないですものねー」


 別に二人が仲良くするのは構わないのだが、嘉納は午前の授業にも顔を出さずに何処にいたのだろうか。

 彼が突然姿をくらますのは大方想像がつくからこそ、何があったか聞き出したい所であるが、烏丸の前でおっぴらにする話でもない。


 「そういや零ちゃん見なかった? 朝早くに出て行ったっきり見かけないノヨー」


 大月の所在も未だ判明していない。ここは当たり障りなく確認できる情報から整理を始めた。

 すると嘉納は首を横に振るのみであったが、烏丸が反応した。


 「大月センパイなら朝方タクシーに乗って出かけてましたよ。

 気になって教師に確認したら家庭の都合とか言ってましたね」


 上級生の担任相手に聞き込みを既に終わらせているとは、彼の行動力は何処から湧いてくるのか。

 男子が見せる女性への情熱というものなのかと飛鳥は純粋に感心している。

 が、家庭の都合……はて、ご家族に不幸でもあったのだろうか。現段階でこれ以上踏み込むのは失礼にあたるので、野暮な検索はここまでにした。

 それよりも、件の噂とやらを進展させなくては。飛鳥としても今後に関わる。


 「ねえ皆。クラスのゆう……いや、知り合いから頼み事を受けたんだけどネ。

 昨日起こった神隠しとか幽霊が出たとか噂になってるんだけど、何か知らないカシラ?」


 友人と言いかけて知り合いと訂正した。妥当な判断である。

 飛鳥の言葉に二人とも反応するが、口を開いたのは烏丸であった。


 「そうそう、今日はその為にやって来たんです。報道部でも朝から話題になってましてね。

 またオカ研との協力体制を敷くのが筋だと報道部の神宮寺部長も言ってる旨をお伝えに来たんスよ」

 「ありゃそうなの? それは助かるヨー。で、何かわかってる事ある?」


 烏丸から聞き出した情報は飛鳥が握っているそれとほぼ同一のものであったが、聞いたことのないワードが一つ混じっていた。


 「姉妹の……幽霊?」

 「飛鳥センパイとは別ルートの目撃者から聞き込みした所、姿形のよく似た女性の幽霊が二人いたようなんス。

 そいつらは囁くような声でお互いを“モエ”に“ナエ”と呼んでいたようですね。

 似ているからと言って姉妹と決めつけるのは軽率かも知れませんが、現状では何とも言えません。

 どうも神宮寺部長は心当たりがあるらしく調べ物してますが……」


 大月零が不在とはいえ神宮寺哲郎がサポートに回ってくれるのは心強い。

 彼の思慮深く洞察力に長けた様は、レポーターというより探偵業の方がお似合いである。

 そもそも、それが組織の長として在るべき姿なのかも知れないが、この場に居合わすオカ研部長とは対照的であった。

 だが、彼も我等も断定するにも情報が少なすぎる。被害者に直接話をうかがった方が話が早いだろう。


 「ウッス、それじゃ続きは放課後にしましょうか。女子寮でも飛鳥先輩の案内があれば調査できますしね」

 「変な事しちゃダメよ。あくまでもオカ研の部活動の一環として入るんだから」

 「やーだなー、そんなに心配しないで下さいよー」

 「キミの取り巻きやってる女子にも釘刺しておきなさいヨ?」

 「はいはーい、わかりましたー」


 烏丸はヘラヘラとしたニヤケ面で走り去って行った。

 ひらひらと陽気に手を振るも、飛鳥の言葉をきちんと聞き漏らさず相槌を打つ辺り、女性慣れしているというか遊び慣れてる感じを受ける。

 高校一年とは思えぬコミュニケーション能力は何処から湧いてくるのか。

 果たして彼がどの様な人生を歩んできたのかと飛鳥は頭を捻るも答えは出ない。理解の範疇を越えていた。


 「さて……少し良いか?」

 「嘉納君、何カナ?」

 「察しは付いているだろうが早朝の事だ。妙な魔力の昂りを察知したので調査していた。

 結論を言えば対象を補足する事は出来なかったのだが、何者かが学内をうごめいているのは間違いない」

 「学内を蠢く? まだこの中に潜んでるって事?」

 「左様さよう。異様に濃い残留魔力が尾を引いてこびりついている。

 ここまで強い負の想念となると只の地縛霊の類ではない。何かしら外的要因があると見て間違いない」


 嘉納の話と先程の幽霊話を鑑みるに同一存在である可能性が高まってきた。

 それにしても外的要因とは一体何なのか。恨みを買った・召喚された・狂化された……等々。

 列挙すればキリがないが、悪しき化物が獲物を探している状況を放置する訳にはいかない。

 ふと、飛鳥は以前フレイムが口走っていた事を思い出した。


 「そういや前にフレイムさんが言ってたんだけどサ、この学校自体魔法の素質を持つ人が多いんだって。

 そういう人は集まりやすいとかアルノ?」

 「ふむ……結果的に優秀な人材が生き残るケースは戦場ではよくある事だが、学校という閉鎖空間に自主的に入学した未成年者……という今回の状況には当てはまらない。

 となると……いや、まさかな……。これは憶測の域を抜け出ない。すまん、忘れてくれ」

 「そっかー。もしかしたら私と皆が巡り合ったのも理由があるのかなーと思ってネ。

 もしそうなら姉妹の幽霊ってのも必然だったのかなーとか思ったノ」

 「……考え過ぎだ」


 嘉納は口ではそう言ったものの、内心は穏やかではなかった。

 ただ、今はそれを疑う必要もないと判断し、眼前の障害排除に意識を傾けようとしていた。


 「しかし今回は厄介になるかも知れん。最悪フレイム氏の助力を受ける必要があるかもな」

 「え、それどういう事? 嘉納君でも勝てないって相当やばいんじゃナイカナー?」

 「相性の問題だ。相手が霊体だと物理攻撃が通らんからな。

 加護を得た聖剣や補助魔法でブーストしないと戦いにならん。

 俺が持つ呪符でも多少は効果はあるだろうが、対象の魔力が強いと押し切れん可能性が高い。

 退魔の専門家である永守がいれば解決は容易なのだがな……すまない」

 「RPGあるあるダヨネー。銀製の武器でしか傷つけられないモンスターとかイルヨネー」

 「よくわからんがそういう事だ」

 「けど安心して。過信でも慢心でもなくて……多分ダイジョウブだから」


 嘉納の話を聞いて飛鳥は内心ホッとした。多分なんとかなると踏んだからだ。

 フレイムから受けた魔術指導の中に、対霊戦闘の知識もいくつか含まれていた。

 知識だけではない。日を追うごとに自分の魔力が満ちて来ている。

 五色台の二の轍は踏まぬよう意識しているが、魔力自体は罪でも悪でもない。ぎょせぬ己が悪いのだ。



 キーンコーンカーンコーン



 「それでは教室に戻ろう」

 「そうね。訓練の成果を見せてあげるわよー!」


 予鈴のチャイムが鳴り響く。後五分で午後の授業の開始を意味する。

 二人は荷物をまとめると未だ見ぬ脅威に対し、身を構え、心を構えた。

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