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第五十六話 力無き権威

今川義元は元康と一緒に吉良義昭を引きずるようにして帰っていった。酔い潰してしまった元凶としては多少の後ろめたさはあったが、正直何の悶着も無く終わって運営としては彼らの姿が消えほっと胸を撫でおろした。


しかし日本酒は美味しいんだけど庶民の俺としてはもう少しジャンクな感じが欲しい。

そもそも日本酒は当然のように米を使う、この時代米イコールお金だ。もっと庶民用の安い酒を飲み…作りたい。

ようはビールだよビール、材料は大麦とホップ?ホップってなんだ?

あと作れそうなのは…ワイン?木苺で造れないか?

蒸留酒は…なんか温度管理とか面倒そうだけどやってやれない事はなさそうな気がする。

折を見て馴染みの酒造にでも頼んでみよう!


そんな景気の良い事を考えていると盃をこちらに寄越し、酒を強請る斯波義銀の腕が伸びてきた。

鳴海競馬場の貴賓室で斯波義銀が一人残って俺と一緒にだらだらと酒を呑んでいる。


「…それで千秋の、六月に伊勢の国主、北畠を迎えて競馬大会を開きたいのであったか?」


日は随分長くなったが既に影は長くなり少し肌寒くもなってきた。競馬の熱はとうに抜け、七輪で暖をとりつつ鯨のベーコンを炙りつまんでいる。


「は、北畠杯と銘打って町衆競馬を催そうと思っております」


武者競馬はできない、火力演習的な部分もあるから三河の武力を他国のお殿様に見せたくないのがある。

俺自身であれくらいの馬や騎手を揃えられれば良いんだけどな。


「それを儂に迎えよ…と」


…え?まさかおまえ出張ってくるつもりか?


「いえ、ご許可を頂ければそれで…」


今日の歓待とかめちゃくちゃ面倒だったんだぞ?わかってんのか?

正直フツーに邪魔なんだが?


「幕府内での序列では吉良には譲れぬ所もあるが、北畠の権中納言殿は正三位、儂は従四位ぞ…失礼があってはなるまい…」


え?あの首切りバカ殿そんな偉かったんか?

俺がなんか抜けた顔を義銀に向けていると呆れたように叱責が飛んできた。


「当然であろう!頭の値打ちを高く付ける事は必要じゃが下げるべき時を弁えぬのは莫迦の類であろう!」


酒の勢いもあるからか随分ぶっちゃけたな…しかしどっちが偉いかでマウント合戦するだけあって権威には弱いのが分かった。この男の価値基準が理解できて少し安心した。


「良い…それに伊勢と繋がりがあった方が一向宗も扱い易くなるかもしれん」


…え?なにその面倒そうな話?


「なんじゃそのアホ面は…何も知らんのか?」


「は、どうにも世情に疎くて…」


なんか俺は相当アホ顔を晒してしまっていたらしい。


「もう暫く猶予あるかとも思っておったが三河での一向宗との衝突は時間の問題であろう。長島にも不穏な気配がある…ワシは一向門徒は気に食わんが本願寺とも争いたくはない…」


深いため息を吐く義銀。


「事の発端である今川の法度の尊守を求められたらワシはどうしたら良いものか…」


酒が回っているのか随分弱音まで吐くな…


「どうしたら良いんでしょうなぁ…」


正直他人事だ。知らんがな。そういう決断は偉い人がするしかない。


「…おい千秋の…」

「ワシにお任せ下されば一向門徒共など鎧袖一触蹴散らしてご覧にいれますぞとか言えんのか!」

「こういう時に上総介のぶながは頼りになったというのにお前ときたら…」


酒が回ってるのもあってか随分な無茶振りをして更に深いため息を吐く義銀。いや俺と信長を比べるなよ…つーか信長もそんな事言わないだろ…

だが義銀は自分の世界に入ってしまったのか俺の迷惑そうな視線には全く気が付いていないようだ。


「しかし千秋よぅ…治部大輔いまがわ殿は未来でも見通す目でも持ってるのかのぅ…」


んーなんだ?もしかして全部買いのアレ信じてんのか?ピュアか?

まぁせっかく義元が金をかけてやった政治的なデモンストレーションだからな…次があるかどうかは分からないけどまた全部買いをやってもらえれば競馬場としてはウハウハなので種明かしは控えておこう。


「慧眼…というものが実在するかは分かりかねますが、あの力が治部大輔様の強さの一端なのでしょう」


まぁ金は力だ。


「此度の大会で治部大輔殿はワシとは役者が違うと痛感した…」

「この遠征に連れて来た面々…その中に吉良の奴までおった、将軍の跡がのうなったら継ぐのは吉良という家ぞ…」

「今川は吉良の奴の分家筋であるというのに…今川の権勢にワシも逆らえぬという事であろうか…」

「このまま尾張は今川に飲まれるのであろうか…」


もう大分酔っているのか随分とストレートに弱音が出てくる。

義元が吉良義昭を連れてきたのはそういうデモンストレーションもあったのだろうか?吉良の扱いが軽かった事を義銀は気にしているようだ。いや、俺が酔い潰してしまってそれどころではなかったのもあるんだが…

だが四国杯とか謳ってたわりにはスタートの合図の砲を撃ったのは二度とも義元だった。明確にあの場で誰が一番立場が上であるのかを示したのだろう。

権威だけで碌な武力を持たず、何事もままならぬ斯波義銀の様を見て少し我が身と重ねてしまった。


「ワシは…弱い人間じゃ…」

上総介のぶながは恐ろしい部分もあったがそれでもワシを主君と認めていてくれたのに…」


斯波義銀はそのまま酔い潰れてしまった。


◇ ◇ ◇


時代に抗う術を持たず流れに揉まれ酔い潰れる尾張守の斯波義銀を見ていて思う。俺はこの戦国の世で一体何をすべきなのか?

俺はしずかとたあを守れればあとは何もいらない、だがこの戦国時代の荒波から守るという事それ自体難易度が高い。

この戦国蛮族共はせっかく井戸掘っても井戸を守る力が無いとみたら井戸を襲撃してワイヤーや滑車をバラして売り捌く系の人種だ。

根本的な教育とモラルが欠如している。

目の前で伸びている尾張守を見ているとやはり力が必要なのだと痛感した。

だが力を得て何をする?天下統一?

この時代、足利幕府によって天下は統一されている。天下布武なんて言い出したら蛮族理論で周りからボコられるんじゃなかろうか?

…あれ?信長もボコられてたんだっけ?


令和の未来知識でチートでも出来ればとは思うのだがお恥ずかしながら俺は知識も技術も無い。

火薬が作れたら売るでも使うでも役に立ちそうだが、令和の一介のサラリーマンがそんな危険物の作り方なんて知るわけがない。

歴史の知識もほとんど無い。それどころか戦国時代の北極星ともいえる信長は死んでしまった。今後歴史は信長を抜きに流れ、大いに俺の知っている世界から変貌していく事だろう。


昔読んだ小説で戦国時代に自衛隊と一緒にタイムスリップする内容の話があった気がする。

自衛隊の戦車等の武力を持ち込んで無双したり、歴史知識無双出来る頭良いやつもいて戦国時代を謳歌していた。

今の俺の状況と比較すると本当にうらやましい限りである。

参考にしたいが参考に出来る部分…というか覚えている事が少ない。

ああそうだ、その小説で主人公は織田軍と野球をしていたな…だがその肝心な信長が死んでるのでは野球もできない。

…あの小説最後はどうなったんだっけか?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 戦国自衛隊ではなく戦国の長嶋巨人軍を読んでいる [一言] 毎日楽しみにしてます
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