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第一五四話 稲葉山城の戦い

「美濃守護、土岐頼芸様の御命令を伝える!即刻武器を捨て稲葉山城の門を開き、正しい主に明け渡し臣下の礼を取れ!さすれば温情をもって応え命までは取らぬと約束しよう!」


朝からご丁寧に土岐頼芸と武田信玄の連名で物騒な降伏勧告的な書状を持ってきた使者がイキっている。

美濃守護とは言っているが実質武田の使いだ。それに対し稲葉山城の城主代行である明智光秀は反論した。


「馬鹿を申せ!土岐頼芸様は三〇年も前に出奔され以来誰も行方を知らぬ!万が一ご本人であっても今更美濃の国人衆は国を捨てお隠れになられていた御仁を主に頂こうとは思わぬわ!即刻兵を引き甲斐に戻られよ!」


光秀は自称土岐頼芸というのが武田が勝手に祀り上げたただの不審者であり本人ではないという体で話を進めた。

さてこの土岐頼芸という人物、龍興の爺さんである斎藤道三に追放された人らしいのだが三〇年も前なので実際にどのような人なのか?周りに聞き込みをしてみたが言葉を濁したりオブラートに包んだような微妙な噂ばかりだった。顔に至っては「隠居した父ならもしかしたら…」という者が数人いたが、聞き取りをした中で知っている者はいなかった。ちなみに光秀も会った事がないので分からないというどうにも本人確認ができない不審人物なのである。

そしてこの本物なのか偽物なのかわからない不審人物の自称土岐頼芸の美濃守護復帰を認めると美濃が武田の影響下に置かれることは間違いない。今川に臣従している身としてそれは困る。代理戦争をやらされている上に義元直々にこの戦には関わらないと明言されているトカゲの尻尾切りが確定している立場なのだが、ここは織田家復興の為にも気張りたい所だ。

何故俺自身そこまで織田の忠臣というワケでもないのに織田家復興にこだわっているのか…と考えると俺の周りには信長の実の息子である奇妙丸うしお、明智光秀、豊臣秀吉、徳川家康…戦国時代のピースが完全に揃っている。歴史を正し織田家が復興すればワンチャン本能寺の後に豊臣政権になり徳川幕府に繋がり千秋家おれは元康の靴を舐めて徳川幕府の下で明治維新まで安泰…というかそれこそが俺の知っている歴史に合流出来る道だ。

ちなみに俺自身が天下統一とかには興味が無い。一国一城だってまともに治められないのにどうして天下なんて治められようか?


「愚かな選択を…後悔する事になりますぞ!」


そんな俺の内心を見透かした…わけもなく、この交渉は最初から決裂すると想定していたのだろう、使者はそう言い捨てて武田軍へと戻っていった。


◇ ◇ ◇


そうして翌神無月の二〇日、武田軍はざっと一五〇〇〇…といったが隠れているのかそのつもりもないのか分からないが木々の間からも兵が覗いているのが見える。武田軍の全貌はわからない。歴史モノのシュミレーションゲームだともっと分かりやすく数や武将が表記されるものだが…全く不親切なものである。


「某が出ましょう」


ここのところ銃と鋤を持っているのが板についていた疋田が先ずは一当てとばかりに馬に乗り槍を担いで出てきた。


「殿、委細打ち合わせ通りに頼みますぞ」


「…作戦は理解しているが…本気で単騎であの中に突っ込むのか?」


約一五〇〇〇の武田軍、その中には有名な武田の騎馬隊も確認できる。無論一人で一五〇〇〇人を相手にしろという話ではない。昔の…未来の偉い人?は前後左右の四人を捌ければ全人類と殴り合っても勝てると言っていたが、ここはそんなグラップラーな世界ではない、戦国蛮族の跋扈する末法世界だ。


「競馬場にて馬の鍛錬もし今日この場ほどその全てを披露するに相応しい場もございますまい」


いつもは飄々…というかむしろ何事にも興味がなさそうな疋田が今日に限って饒舌だった。表情にはうっすら邪悪な笑みすら浮かんでいる。絶望的な数の敵を前に頭がおかしいとしか思えない。令和ボーイの俺には全く理解できない感性だがそんな戦国蛮族の見本のようなおとこを見て「コイツが味方で良かった」と心から思う。


「見事敵を撹乱してみせましょう」


そう言って疋田は馬に跨り確かめるように槍を振るった。


「…ふふ…剣聖の片鱗…とくと拝見させて貰おう…」


そしてここ本陣に何故か呼んでもいない上杉謙信が盃を片手に紛れ込んでいた。俺らの戦を肴に酒を飲むつもりである。だが都合文句も言えなかった。


先日上杉には越後に帰れと大口を叩いたが現実は厳しい、なにせこちらの戦力は熱田と元織田の兵で六〇〇、美濃の兵が三〇〇〇、先日金山から逃れてきた久々利の兵が二〇〇〇だ。そして誕生したのが纏まりのない五六〇〇の烏合の衆である。そんな数にも劣る集団が武田軍一五〇〇〇と正面対決をしたら鎧袖一触、美濃の兵と久々利の兵は潰走し自領へ、そして逃げる場所のない俺らは稲葉山城に籠城、数日ボコられて儚くなったことだろう。直接ぶつかるには数が足りず、籠城するには数が多いというなんとも微妙な集団だった。

だがここに軍を動かさないと明言している上杉のカカシ兵が九〇〇〇、そしてその頼れない兵も合わせるとなんと総勢一四六〇〇である。武田から見ればきっと数の上では拮抗してるような雰囲気を醸し出している事だろう。カカシとはいえ武田と浅からぬ因縁のある上杉の兵だ、何か策を弄していると勘違いすらしてくれるかもしれない。


そんなワケでこの仮初めの拮抗を成している上杉に対して「でてけ」とは口が裂けても言えないでいた。


「…とくと見せて貰おう…その方らの策とやらを」


とまぁ盃を傾け顔を赤らめ戦場武官さながら完全に他人事である。うーん追い出したいこのよっぱらい。

一応策らしきものを考えてはいる。先ずは決死隊を組んで武田軍に突っ込み陽動を…と考えていたのだが、それを疋田は一人でやるといって聞かないのだ。これはこれで想定していないハプニングであった。


「…本当に随伴の騎馬はいらないのか?」


疋田は馬上から俺を一瞥すると簡潔に応えた。


「足手纏いにございます」


そう言って疋田は酷薄な笑みを湛え一騎、武田に向かって駆けて行った。

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― 新着の感想 ―
疋田のお師匠さんと信玄は面識あったはずだけど、疋田本人と信玄の面識はあるのかなぁ… 名前ぐらいは知ってそうだけど…
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