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第一四二話 不穏な報せ

ぱちり…ぱちり…

熱田の屋敷に鋏で細い枝を切る音が響く。


目の前には美濃の姫、帰蝶殿が茶を前に長旅の疲れを癒し、くつろいでいる。報告に上がっていた現在鋭意要塞化しているという鷺山の主、何を考えてるのかわからんがお供を二人付けただけで鷺山から熱田まで歩いて来たのだ。

ありのまま今起こった事を話すぜ。『出陣しようと思ったら敵の本拠地の主がやってきた』何を言っているのかわからねーと思うが俺も何を言ってるのかわからん。関所破りのコツでもあるのだろうか?

そんな彼女を当然放っておくわけにもいかずどうするべきか先ずは話を聞くことにしたのだ。


…ばつん ばさり

力を込めて太い枝を切り落としたような音が屋敷に響いた。

こわい。


「…それで、YOUはどうしてここに?」


「?」

「そりゃ戦に巻き込まれたくないじゃない」


…まぁ令和的感覚なら分らんでもない。だがこの時代それをやって大丈夫だろうか?戦火から逃れる為に女子供を疎開させる事はある気がするし戦国武将でもないし女だからセーフか?


「まぁね、私も池田ちゃんに恩を感じてないワケじゃないのよ?」


桶狭間の後、池田が尾張で彼女を匿ってくれていた事には恩義を感じているようで池田以下旧織田家臣を鷺山に匿う事自体はやぶさかでもないようだ。


「でも私の故郷をいくさ場にしようなんてもう!何考えてるのかしら!」


恩義を感じていても故郷が戦場になる事は容認できないらしい。彼女の許容できる範囲を超えてしまったという事か。


「稲葉山城に使いは出したのか?」


「出したけど池田ちゃんの兵に止められちゃったわ」


そうして池田を除く事もできず近隣の助けも望めない。稲葉山城に伝えようにも池田がそれを阻む。そしてこのまま無為に時間を浪費すればいつのまにか御輿に担がれ逃げる事も叶わなくなると踏んで鷺山を出たようだ。


「だから即身支度をして出てきたのよ」


なんというか勢いがあるというか判断が早いというか…今頃池田も頭が痛いだろうな。ちなみに俺も頭が痛い、敵ながら心中お察しする。


「それでどうして熱田に?」


「最初は稲葉山城に向かったけど追手が前後左右上下からくるわくるわ、諦めて熱田に来たのよ!」


どういう事かとお付きの者からも聞き取りをした結果、話を総合するとどうやら鷺山の池田だけでなく稲葉山城の者からも追われていたようだ。稲葉山城側からしても今話題沸騰の鷺山の主が単身やってきたなんて話が通ってなければ保護なのか捕縛か悩ましい所である。彼女からしても追手には細心の注意を払っていたようで、どちらの手の者かも分からぬ者との接近を避けた結果動くことが難しくなりとりあえず国を越えて熱田に落ち延びて来たようだ。

滅茶苦茶である。


「殿も姫の安否は気にしておったじゃろ、良かったと素直に喜べばええんじゃないか?」


「…そうだな」

「正直貴方を案じていた身として顔を見られて安心した、よくご無事で参られた」


そんな俺の言葉を聞いて帰蝶殿は微笑んだ。

鷺山の主がこちらにいるという事で『鷺山を不当に占拠する賊を討伐する』という大義名分が出来た。

まぁそれはありがたいのだがその賊が鉄砲を四百丁も持って良く訓練された武装組織である事に変わりはない。世は戦国時代、末法の世、力はパワーなのだ。なんなら何処かの城を落としてワンチャン下克上狙いも出来る戦力だ。

やはり頭が痛い。


ばつんっ ばつんっ


そして目下の俺の耳にやけに響く太めの枝を切り落とす音…身から出た錆とはいえこれも頭が痛い問題であった。そんな彼女を良い鋏の音がする熱田に置いておくわけにもいかないので共に美濃に向かう事と相成った。


そして視界の端で青い顔をして部下から報告を受けている滝川のおっさんの顔が印象に残った。


◇ ◇ ◇


「殿…お耳に入れたき儀が」


美濃への道すがら馬上で滝川のおっさんから報告を受けた。おっさんの声は固い。熱田で青い顔をしていたからロクな話じゃないだろう。正直聞きたくないが聞かないわけにもいかない。


「…お手柔らかに頼むぞ」


俺は諦めて話を促すが滝川のおっさんは少し悩む仕草をしたが意を決して俺の耳元で囁いた。


「武田配下の香坂殿ですが」


香坂…誰だったか…三国同盟杯で信玄と妙な関係でもありそうな疑惑のあったイケおじだったか?


「競馬大会の責を取ると昨年の終わりに腹を切り果てたようにございます」


俺はお手柔らかに…と言ったんだ。クソ最悪の事態になっていて俺は馬の上だというのに気が遠くなりかけた。


「武田殿は大層お怒りになられ信濃の国人衆を中心に戦の準備をしているようにございます」


「えええ…」


武田信玄とは三国同盟競馬大会で一度会っただけだ。腹を切ったという香坂というイケおじも顔が良いだけで横柄な態度から良い印象はない、そして嫌な予感しかしない。

信濃の国人衆に声を掛けているというならそっち方向を攻めるのだろう。

この時代の地図は滅茶苦茶アバウトなものしかない。一応令和チートを試みようとこっそり地図を作ろうとした…が、諦めた。なんかもう紙と筆も使いにくいし消しゴムもない、それにせっかく書いた地図はバカ日本地図みたいになったのでもう全然ダメだったのだ。だがまぁその時にこの時代の地図を見てなんとなく地理を把握した。確か尾張は信濃と甲斐…武田とは隣接していない…と思う。だから比較的安全…だと思う。そして駿河、遠江、三河は同盟である今川の領土だからそこを攻めるなんて事もないだろう。信濃に隣接しているのは…越後…越中…えーと飛騨…?それと…美濃。


「美濃を攻めるつもりか?」


「それは…分かりかねます」


因縁の競馬大会で武田の騎馬隊を抑えて一等を攫ったのは美濃の一色式部大輔、斎藤龍興だ。『武田の騎馬隊』というブランドを粉々にされた信玄の心境たるや如何なものだろうか…そして側近の切腹だ。怒りの矛先が美濃に向いてもおかしくはない。

いやしかしそんな事で軍を動かすか?大義名分も無いだろう、だがそんな事関係なく謎の戦国蛮族性を発揮する可能性もある。


そして俺は武田の家臣にボコられただけだ。なので恨みを買うような事はあんまりない…と思いたい。


「…もしかして俺もちょっと恨まれてたりする?」


「ちょっとどころじゃなかろうて…」


俺は不安を払拭しようと軽口を叩いたつもりだったが意外にガチトーンで秀さんから厳しいツッコミが入った。

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