もう片方は。
制服で上から下までラッピングして、ココアも飲んで少しは寒さが薄らいだ。さて、今何時かな…………、お、丁度授業終わるとこか。さてさて、戻りますか。
扉を開けて廊下に出ると、部屋の中より更に厳しい寒さに襲われる。でもぽっかぽかなぼくの心には全然効かない。どんな風でも吹いてこい!
そう胸を張った途端、ピュウと強めの風が吹きつける。…………ほんとに吹くなよもう。やっぱ寒いじゃないかぁ…………
寮の玄関を出て高等部の校舎まで歩いていく。今度はネコ湯たんぽの姿は見当たらなくてちょっと残念。薄情なやつだなぁ、どうせなら帰りも付いてくればいいのに。
「…………あったかい、か」
早速冷え始めた両手を擦り合わせて温める。そういえば、ゆみりの手は温かかったなぁ…………なんて。
校舎の中に一歩足を踏み入れると、しぃんとした静けさに包まれる。時折漏れ聞こえるのは国語の授業か社会科か、人一倍でかい声の朗読はどこのクラスだこれ?
ギュッギュッとぼくの靴音だけが響く廊下、今はぼくだけの専用の道。突然そこにパタンパタンと別の音が混ざる。音を探って振り向くと、
「あっ」
「おっ」
あれ、ゆみりだ…………トイレから出てきたのかな?
「ゆみり、こんなとこで何してるの?」
「そ、それはこっちのセリフだよぉっ」
あれ、なんだか慌ててるな…………それに制服抱えてるし、何があったんだ? 墨汁でもこぼしたのかな? でも汚れて無さそうだし…………うーん、まあいっか。それに丁度いいや。
「ん、ちょうど良かった。この後って授業ある? 」
「う、うん、もう一個だけ……」
「そっか、ならそれ終わったらまた出かけない?」
「お、おおおおおでかけっ!?」
あっ、ゆみりが飛び上がった。面白いぐらいあわあわしてる…………
「ちょっ、なにをそんなに驚いてるのさぁ。ほんとにただのお散歩だよ」
「おさんぽ…………」
え、ほんとゆみりどうしたの? なんでそんな挙動不審なのさ…………とりあえず色々と気になるけれど、もうそろそろチャイム鳴るし、
「あ、もうそろ授業終わるね。それじゃあこれで」
と、話を打ち切って教室に戻ろうとすると、
「あっ…………」
「ん? 」
不意に呼び止められる。
「ううん、……終わったらだね、わかった」
それだけ言うと、ゆみりはぼくを追い越して廊下を走っていく。
…………なんなんだ、一体…………
チャイムが鳴るのを待って、人混みに紛れて教室に滑り込む。
「すずちゃんおかえりー」
あ、茉莉花に見つかった。
「どうよ、体調の方は? 」
「少し寝たらバッチリ」
ほんとに少しだけどね。それでも結構変わるもんだなぁ。チャイムに無理やり起こされたけど。
「ほい、今日のノート」
「さんきゅ、後でコピるわ」
何枚かパラパラめくって確かめる。
「おい待て、なんで全部筆跡違うんだよ。しかも『茉莉花へ♡』とか書いてあるぞおい」
「あ、バレた? 」
…………さてはこいつ、普段は自分の取り巻きにノート取らせて自分は寝てるな?
「いやぁ、凉ちゃんのノートも取ろうと思ったんだけどさ、ふたつ一気とか出来そうにないし他の子にダメ元で頼んだら自分のノートごとくれてさ」
「ケッ、モテる奴はいいねぇ」
こんの女ったらしが………………
「それより凉ちゃん、課題の方どうなのさ?」
「あっ………………」
やっべ、完全に忘れてた…………
「あー、うん、順調…………」
「その顔はウソだな? 」
「ぐっ………………」
や、やるよ…………忘れてただけだっつーの…………
「今日調整するとこだよ、それよりお前は?」
「んー、そりゃもうバッチシ…………と、言いたいとこだけどさ、…………汐音と揉めちゃってまだ進んでなーい…………」
「おめーも人のこと言えないじゃん」
「うっせ」
なんか生キズ増えてると思ったらそういう事か…………
「ま、お互い頑張ろうや…………」
「やめろよその同情……」
ますます凹んだ茉莉花を横に、ノートに目を通して要点をかいつまんで整理する。…………あんまし頭良くないんだけどなぁ…………なんでここ受かったんだろう…………
ま、ゆみりに出会えたからいいけどさ。




