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その頃こっちは。

ひと月ぶりだぁ………………

今回は裏話ぽい

保健室のドアをそっと閉めるのすらもどかしくて、ちょっと乱暴に力を入れてピシャっと閉めてみる。その音をかけっこのピストルの音にして、私は廊下を猛ダッシュ。慌てて飛び退く人、こらーと怒る先生、廊下は歩こうの張り紙も全部追い越して、私の教室も通り過ぎる。さっきからかっかして火照ってる身体を冷まそうと走って風を浴びてるけど、むしろ心臓がバクバクしてもっと暑くなってきて、息も絶え絶えにかけこんだのはおトイレで。

ダッシュでかけこんできた私に並んでた子が一瞬ぎょっとして、

「さ、先どうぞ……」

なんて後ずさるけど目もくれずに、洗面台の前に立ってじいっと鏡を覗き込む。…………まっかっか。そしてその中でもぷるんと存在感を示す唇に目線がいって……視線を外す。

………………熱い、ほっぺたが熱い、顔が熱い…………冷ましたい…………蛇口をひねってだばーっと水を出すと、両手ですくって顔にばちゃばちゃかける。……まだ熱い…………もっと、もっと…………冷まさなくちゃ、洗い流さなくっちゃ、私の、変な気持ちをっ…………

「はいストーップ」

いきなり後ろから腕を掴まれてハッとする。

「何があったのかは知らないけどさー、後ろにいる人達のことも少しは考えて、ねっ?」

「ほへ? 」

くるんと後ろを振り返ると、遠巻きに眺める人垣ができていて、

「おーい、もう通れるよー」

と一声かかると、

「うぃーやっと空いたかっ、ほらどいたどいたっ、ノリカさまのお通りだっ」

と真っ先に人をおしのけてズカズカと踏み込んでくる人がいて、サッと空いた個室に滑り込む。それを見て周りの子達も恐る恐る入ってきて、中には私のことを睨みつける子も。

…………え、わたし、なにかした?

「もー、こんな水びたしにして…………」

私を押さえつけた人が呆れ顔で言う。

「しかも袖までビショビショじゃん、腕まくりって知らないの?」

「…………そんなのっ、」

そんな余裕なんて、あるわけないじゃん。だって、私、すずちゃんと…………

「ナミ、そんなのに構ってないで並びなさい、遅れるわよ」

「あ、待ってよレイぃ」

ちょっと不満げな様子を残しつつ、その子は伸び始めた順番待ちの行列の最後尾に並びにいく。代わりにこっちにやってきたのは、

「どうしたのゆみりちゃん、こんなにビショビショにしちゃって」

「あ、ひかりちゃん…………」

不思議そうな顔で上から下までじーっと見つめるひかりちゃん。

「ちょっとね、悩んでることがあって」

「どうしたのー? またぷにぷにになったの?」

「違うよっ、ごはんのことじゃなくて…………」

その先は言えない、だってそれは…………おかしいこと、だもん。

「ねぇゆみりちゃん、よかったらわたしが悩み聞くよ、なぁに? 」

「…………ううん、言えない」

ひかりちゃんに知られたら、きっと軽蔑されちゃう。だってこれは、おかしいこと、なんだから………………

「うーん、そっかー。…………あ、もしかしてゆみりちゃん、誰かのこと好きになったの? 」

「えぇぇぇぇぇぇぇっ!? な、なんでそれをっ!?」

あわわ、まさか、保健室のこと、見られちゃってたんじゃ、、、、、、

「そっかー、ゆみりちゃんにも好きな人できたんだっ、よかったね!」

「…………………………へ? 」

「だって好きな人と一緒にいると、ほわほわーっとしていい気持ちになるもん。わたしもユカリおねーちゃんと一緒にいるとふわふわな気分になるから大好きだよっ」

「ふ、ふわふわな、きもち? 」

どんな気持ちなんだろう…………ふわふわ、ふわふわ…………

「……わたがし? それとも、ホットケーキ? 」

「もー、ゆみりちゃんったらなんでもおやつのことになっちゃうんだからー。そうじゃないよ、ふわふわって言うのは、」

その時、チャイムが鳴って話が途切れる。

「あっ、授業始まっちゃうっ」

「ほんとだ、早く行かないとっ」

と走り出そうとするけど、

「ダメだよゆみりちゃん、先に着替えないとっ。みんなビショビショだよ? 」

「あっ…………そっかぁ」

無我夢中だったから気づかなかったけど、上も下もビショビショだぁ…………

「次のノートとっておくから着替えてきたら? 」

「…………うん、そうする。でもジャージは教室だから」

連れ立って教室に帰ると、先生はまだ来てなかった。でも私の噂は伝わってたみたいで、

「どうしたのゆみりちゃん? なにか変なもの食べた?」

「ううん、そうじゃないのっ」

なんてやり取りを繰り返しながらジャージを用意して教室を出ようとすると、

「…………鳴瀬さん」

「ん? 」

手に持つジャージの上に、ぽすっとタオルが置かれる。顔を上げてみると、

「………………後で返して」

「あゆみちゃん……」

「……一ノ瀬」

「一ノ瀬、ちゃん? 」

あ、不機嫌になった。慌ててジャージごと引っ込めると、そのまま教室を出た。



(よいしょっと……)

誰もいないトイレの個室でスカートを脱ぐと、ジャージに足を通す。…………お腹周りがキツくなんかないもん…………

それから上を脱ぐと、ワイシャツも濡れてないかどうかまくって確かめてみる。…………うん、濡れてないや。

それにしても…………ぽよんぽよんなお腹をむにむにとつまんでみてため息をつく。…………すずちゃんとのお出かけでお昼ごはん食べすぎたかなぁ…………

いいなぁすずちゃんは。あんなにスリムで…………。そんなことを考えたからか、頭の中にほわーんと昨日のすずちゃんの姿が浮かんでくる。…………すずちゃんの身体、真っ白だったなぁ…………って、ふぇぇ!? なに思い出してるのぉっ!?

そんなモヤモヤを振り払おうと腰掛けて考える人のポーズ。…………うーん、寒いよぉ…………

すずちゃん、か。……最初はお残しの多い子だなぁって思ったけど、話してみるとおもしろくて、ありのまんまの私を見てくれて、でもちょっぴり子供扱いして。かわいいって言うと怒るけど、実際かわいい。

…………なんですずちゃんは、かわいいのが嫌なんだろう…………うーん…………

いつまでそうやって考えてたんだろう、鼻がムズムズしてくしゃみが出る。

…………寒いから教室戻ろう……そう思って廊下に出ると、

「あっ」

「おっ」

す、すずちゃんっ!? なんでここに…………

「ゆみり、こんなとこで何してるの?」

「そ、それはこっちのセリフだよぉっ」

あわわ…………まともにすずちゃんのことみれないよぉっ…………だって、だって…………

「ん、ちょうど良かった。この後って授業ある? 」

「う、うん、もう一個だけ……」

「そっか、ならそれ終わったらまた出かけない?」

「お、おおおおおでかけっ!?」

「ちょっ、なにをそんなに驚いてるのさぁ。ほんとにただのお散歩だよ」

「おさんぽ…………」

すずちゃんと、おさんぽ……

「あ、もうそろ授業終わるね。それじゃあこれで」

「あっ…………」

去りゆくすずちゃんの背中に手を伸ばす。

「ん? 」

振り返るすずちゃんの髪が揺れる。

「ううん、……終わったらだね、わかった」

それだけ言うと、すずちゃんを追い越して廊下を走っていく。

…………この先、すずちゃんの顔、まともに見られるのかなぁ…………

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