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変わるのって。

「そんじゃ戻りますねー」

布団を丁寧に畳んでから、一声かけて保健室を後にする。みんなは今頃授業を受けてる頃だろうなぁ、と通り過ぎる他クラスの教室を横目に見ながら、ぼくの足は自然と自分の教室を通り過ぎて下足箱へと向かっていた。…………あ、荷物教室に置きっぱだわ。

外さずにはめっぱなしだった腕時計を覗くと、授業が終わるまでまだ時間は有り余ってた。…………部屋の鍵は、……うん、ポケットに持ってきた。寮までそんなに時間かからないし、着替えて次の時間からまた授業戻るとすっか。

下駄箱から朝に慌てて突っ込んだローファーを引っこ抜いて、代わりに上履きを差し込む。そういえばこっちも少し窮屈になったな、冬休み明けたら買い換えよっと。

…………入学した時に買ったものが、今は窮屈になる。それはつまり、ぼくが大きくなったってこと。半年、たった半年なのに、ぼくはどんどん大人になる。止めようと抗っても止められない歯車がギリギリとぼくを絞めあげて、気力の油を搾り取って残りっカスだけ押し付けてくる。…………なんでこんな目に…………。

「…………気持ちわりぃし、寒みぃ」

一歩昇降口から踏み出すと、吹きつける北風が汗で張りついた服を冷やして体温を奪ってく。うーふ、早いとこ着替えないと…………いつの間にか小走りになる足取りで寮までの道を走ると、不意に目の前を白い影が横切る。

「ととっ、」

慌てて足を止めると、ぼくの前にちょこんと座っていたのは猫……それも白多めの三毛猫で、

「なんだよ脅かすなよ…………」

と足早に通り過ぎようとすると、僕の足元をちょろちょろと駆け回って危なっかしいったらありゃしない。

「なんだよ、お前に構ってる暇は無いんだって…………」

わざわざしゃがんで目線を合わせてやると、ひょいと飛び上がってぼくの膝の上にちょこんと座ってくる。…………あ、なんか暖かい。

「こらこら、遊んでるヒマは無いんだって…………」

と膝から下ろしてもすぐに戻ってきて、

「…………ったく、しょうがないなぁ」

そのままひょいと抱き抱えてカイロ代わりに抱っこして、そのまんま連れていく。不思議と暴れることなくじっとしてて、ネコってけっこう暖かいんだな……なんて思いながら寮までの道をゆっくり歩いていく。……お、着いた。

「じゃあな、ここまでカイロありがとな」

そっと地面に下ろすと、こちらをちょっとだけ振り返ったあと、ニャアと一声ないてどこかに駆けていった。……うう、寒い。早く部屋行きたい…………


とっとこと部屋に戻ると、服を着替えるよりも先に電気ポットのコンセントを差し込んでお湯を沸かす。着替えても芯までは暖まれないしね。

さて着替え着替えっと…………制服を適当に脱ぎ散らかしてから、クローゼットを漁って下着の換えを取り出す。そしていざ着替えようと手をかけたところではたと気づいた。

(…………あちゃー……せっかくのオニューが…………)

勇気をだして買ったのに、こんなに汗だらけにしちゃって…………ゆみりとの次のデートの時に着ようと思ってたのに………………って、デートぉっ!?

(な、ナニ考えてんだぼくはっ!? )

変な考えを振り払おうと慌てて脱ごうとして、姿見に写った自分に目線が釘付けになる。

(これ…………ほんとに、ぼく…………か? )

キュッと引き締まったお尻と、持ち上げられて存在感を主張する二つの胸。包むのは味気ないグレーの無地なんかじゃなくて、フリルに縁取られたオレンジの可愛いの。それも、違和感なくぼくの身体にフィットしてて、まるでそれが本来の姿であったかのようで。

(…………えへへっ、なんかいいなこれっ♪)

意味もなく姿見の前でくるんと一回転。そしてくしゃみをして身震いひとつ。…………ちょっと調子に乗りすぎた…………

名残惜しいけれど、汗ばんだ下着を脱いで新しいのに着替え、制服を纏おうと床に手を伸ばしてふと止める。…………流れでいつも通りの味気ないやつ選んだけど、あの姿を見たあとだとなんかしっくり来ない。何着か買ったわけだしもうひとセット下ろしても…………あーでもすぐお風呂だしなぁ…………でも…………

少し迷った末に、やっぱりクローゼットを開けて新しいのを取り出す。今度はタグも丁寧に切り取って解くと、そそくさと今のを脱ぎ捨てて姿見の前に立つ。

(…………いつぶりだろう、自分の身体ちゃんと映してみたのは)

鏡にそっと触れて、それから自分の身体のあちこちに触れていく。…………今までは向き合おうとしなかったけど、改めてこうやって見てみると、随分とぼくの身体は変わってしまったんだなって。

(でも、変わるのって悪いことばっかりじゃないんだなって)

そっと下着に両の足を通して引き上げて、上もちゃんと胸の前で留める。今度のは落ち着いたライムグリーンのフリル。

(変わろうとしなかったら、こんなのも手を出さなかったし)

また意味もなくくるりと一回転すると、制服で更にラッピングしていく。

(変わろうとしたから、ゆみりとも知り合えた)

電気ポットの戻る音に思い出して、マグカップでココアを作って自分のベッドにぽすんと腰かける。

(変わるのって、案外いいことなのかもね)

熱すぎるココアに顔をしかめながら、ふとそんなことを考えていた。

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