一つのベッド、二つの夢。
途中で視点が変わります
「んっしょ、んっしょっと」
「ゆ、ゆみり? 」
ぼくのことを荷物かなんかと間違えてないかな..............? そりゃあ、肩貸してくれるのはありがたいけどさ...............
「とーちゃーく」
お、着いたね。ゆみりの肩から腕を外して、保健室の扉に手をかける。
「ありがとゆみり、ここから先は一人で大丈夫」
「えー、せっかくだからお昼休み終わるまで付き添うよっ」
「え、いや、いいって.......」
と断ったものの、最終的にゆみりの押しに負けてしぶしぶ付いててもらうことにする。
保健室のドアをカラカラと開けたその先には、いつもの見慣れた先生は居なくて、
「あれ? 」
キョロキョロと視線を彷徨わせるけれど、何処にもいない。その代わりと言ってはなんだけど、薬箱を勝手に開けてごそごそしてる人影を見つけた。
「あり? ここじゃないのかぁ? 」
「.....................何してんだ? 」
「おわぁっ!? .......なんだよ、びっくりさせんなよぉ..............まぁ丁度いい。なぁ、傷薬とバンソーコーどこにあるか知らねぇか? 」
「あ? そこの棚じゃねーの? 」
「んお? .......お、あんじゃん、サンキュ」
そいつは棚を雑に開けると、バンソーコーと消毒液を引っ掴んでカーテンブースの中に消えた。
「おーしワンちゃん、待たせてわりーな。今から手当てするからなー」
カーテンの隙間から覗き見ると、もう一人、長椅子にちょこんと座った姿があって、さっきのやつにおでこめがけて消毒液を振りかけられている。かと思えば、ガーゼで拭いてバンソーコーをべたりとくっつけて終わり。いやもうちょっと丁寧にしてやれよ.......向こうもなんか不満げな顔してるし.......
「あら? 扉が開いてると思ったら.......」
お、本物の保健医のお帰りだ。
「もう、勝手に開けちゃダメよ。あーもうほら、そんなテキトーに絆創膏したら.......」
案の定ダメだしされてるし。マンガじゃ無いんだからおでこにバッテンはどうかと思うぞ..............
「さて、と。で? 体重計なら勝手に使ってってもいいけど..............ってどうしたの? 顔色悪いじゃないの」
「あー、ちょっと寝れなくて.......ベッド使っていいですか? 」
「いいわよ。でも先客が居るから静かにね? 」
それだけ言うと、保健医はまた例のバッテンマークズ達にお説教を続けにかかる。それを横目にカーテンを開けると、
「うー..............」
「だ、大丈夫、明梨ちゃん..............? 」
隣のベッドで死にそうな声を上げる先客と、その付き添いが居た。あ、こいつらなら何度も見たことあるな。
「うー.......尊っちが三人.......尊っちが五人.......」
「そんなにいないよ!? しっかりしてっ!?」
.......なんか大変そうだな..............それを横目にベッドに潜り込むと、首元を緩めて布団を上までかける。さて、一眠り..............ん?
「ゆみり、もういいよ」
じっと見つめるゆみりの視線。ハッとして視線を戻すと、
「ううんっ、まだ時間あるから付き添うよっ」
「いや、いいって.......」
..............そうやってじっと見つめられてると、眠気も飛んじまうんだよ..............
「どうしたの? 眠くないの?」
「..............ゆみりがじーっと見てたら、寝れるものも寝れないっての..............そこに居てもいいから、見つめないで.......」
「わ、わかった..............」
そう言うと、ゆみりは壁の方に目線を向ける。けど、どう見ても注意はぼくの方に向いていて。
..............ま、仕方ないか。見るなって方が難しい注文だし。.......さて、一眠りするか。
ぽすっという音とともに重みがかかって、ウトウトしかけていたとこから引き戻される。薄目を開けると、ぼくの身体にゆみりの頭が乗っかっていて、
(..............ったく、付き添いの方まで寝ちゃってどうすんだよおい.......)
とはいえ、そのまま放っておけるわけもなく、反対側の空のベッドから掛け布団を引っこ抜く。先客の方は付き添い人も居なくなって眠ったみたいだ。
そしてゆみりに被せようと、上から覗き込んで思わず息を飲む。
(ゆ、ゆみりって..............こんな、可愛かったっけ..............)
くー、くー、と一定のリズムを刻む寝息と、ぷくっとしたほっぺた。赤みを帯びたほっぺが可愛らしい。
(..............って、ぼくは何考えてんだ.......)
バサッと布団をかけると、こっちも掛け布団を引っかぶって目を閉じた。
..............うぅん、シュークリームぅ.......
「..............あれ? 」
ここにあったシュークリームは..............? ゆめ.......?
身体を起こして伸びをひとつ。おまけにあくびもひとつ。
..............なにしてたんだっけ? えっと..............あそっか、すずちゃんを保健室に連れてきて、横で付き添ってたら..............寝ちゃったんだ、わたし。
「すず、ちゃん? 」
呼んでみるけれど、返事はなくて。手を伸ばしたら肩から布団がずり落ちる。........あ、この布団、もしかしてすずちゃんがかけてくれたのかな? あったかくて、いい気持ち。
「すずちゃん? 」
改めて呼んでみるけれど、帰ってくるのは寝息だけ。よかった、寝れてるみたい。
布団を直してあげようと立ち上がると、ボタンの開いたワイシャツから鎖骨が見えて、布団の上に置かれてるのは、ほっそりとしてるけれども柔らかそうなおてて。
(こんなに、女の子なのに.......)
どうしてすずちゃんは、女の子の自分が嫌いなんだろう? すずちゃんはわたしのことをよく「かわいい」って言うけれど、すずちゃんの方がもっとかわいいのに..............
そう思いながら何の気なしにすずちゃんの顔を覗き込むと、思わず息を飲んだ。
(す、すずちゃん.....................かわいい.......)
長いまつ毛と小さなお鼻、それにぷるんとした唇。..............起きてる時は分かんなかったのに、寝てる時だと.......こんなにも、きれいでかわいいんだ..............
「っ、ふぅ.....................ゆみ、り.......」
うわ言のように呟かれた名前に、背筋がゾクゾクする。..............わたし、もう..............
(寝てるん、だよね? )
ベッドに手をつくと、ぎしりと軋んですずちゃんの身体も沈み込む。近づいたすずちゃんのほっぺたに、わたしの顔を寄せる。
こんなことしちゃダメだって、分かってるのに。..............すずちゃんがみんな悪いんだよ、こんなにかわいい顔を隠してたんだから..............
数センチ、あと数センチ、寄せる顔はすずちゃんに近づいていって..............
チャイムが鳴った。
..............ん、ふぁ..............チャイム.......?
薄目を開けると知らない天井で。..............あ、ここ、保健室か..............
そっと身体を起こすと、軽く伸びをして息を吐く。..............うん、だるさはもう消えた。
「おはよ、すずちゃん」
「..............ん、おはよ、ゆみり。..............なんだ、結局最後まで付き添ってくれたんだ。............................ありがと」
「う、ううんっ、いいのいいのっ」
目の前で大袈裟に手を振ってみせるゆみり。
「あ、次の授業.......どうしようかな」
「あ、わたしは授業行くねっ。それじゃすずちゃん、おだいじにっ」
そう言うと、ゆみりは襟を整えて軽やかな足取りで走り出す。.......なんだよ、慌ただしいなぁ。しかもゆみりのやつ..............笑ってたよな? どうしたんだあいつ..............?
..............まぁいっか。寝汗もけっこうかいたっぽいし、着替えに行こう。
ベッドを元通りにすると、ぼくも襟を整えて保健室を後にした。
チャイムの音ってけっこう大きいですよね。




