三つの個室と仔猫たち。ー結論
「ぼくの場合は、上に兄貴が居てお転婆だったのもあるし、それに..............なんつーのかな、親への反発もあったな」
「お? 茉莉花ちゃんも親のこと嫌い? 」
「まーそこまででも無いですけど..............とにかく理想の女の子に仕立てあげようとしてくるんですよ、上がずっと男ばっかりだったから余計ですかね」
「ふぅん。ってことは、ボクっ娘のきっかけも」
「あ、まぁそんなとこです。ほんの些細な反抗というか..............意地でも思い通りになってやるもんかーっていうワガママっすね、これも含めて」
と、茉莉花は自分の胸を潰してみせる。
「でもねー、やっぱ変化だけは止められないですよ。身長も伸びてくるし、声だって変わってく。周りもそれは当たり前だと割り切ってるけど、ぼくはどうしても割り切れなくて.......」
「あるある。ボクの場合は現実から目を逸らそうと色々やったなぁ.......」
二人して遠い目で天井を見つめてる。.......なんだろう、この二人に比べたら、ぼくなんてすごくちっぽけに感じられる。
「..............それに、ね。今更止められないんすよ、この態度も、この一人称も。こうして振舞ってれば、上辺だけでも誰かしら寄ってきてくれるし。中にはもっと踏み込んで身体のお誘いしてくるのも居るけど..............」
思わず身震いする。そ、そんなのがこの星花に居るのか、恐ろしいな..............ってあれ、望乃夏さん? なぜ壁の方見てるんですかね.......
「流石に身体までは求めたくないですよ、ぼくは隣に居てくれるだけで充分。それも――なんにも『演じなくて』いいような、まっさらなぼくを受け入れてくれる人であれば、ね」
「..............寂しがり、なんだな」
ふと口をついた言葉。茉莉花の肩が震える。
「はっきり言わないでくれるかな、それ。傷つくなぁ」
「へぇ、お前でも傷つくことあるんだ」
「うっせ。さぁぼくが話したんだから、最後は凉、お前が話す番だぞ」
「えっぼく? 」
考えないようにしてたのに..............
「ねぇ、まさか『話せません』なんて逃げたりしないよねぇ? 」
望乃夏さんがずいっと身体を寄せてくる。慌てて下がると、今度は茉莉花の方からも身体を寄せてきて挟まれる。
「ぼくらにだけ恥ずかしい話させといてそれはないんじゃないのぉ? 」
「お、お前らが勝手に話し始めただけだろっ」
ち、近い近い近いっ、しかも二人のシャンプーの匂いが混ざってっ!?
「わ、わかった、話すからっ!?」
両脇から挟まれて熱される身体をぬるいコーヒーで冷まして、ぽつぽつと語り出す。
「.......とまぁ、こんなやりとりがあって、それからですね。ぼくが『女』であることを思い知らされて、同時に世界を呪ったのは」
「うわぁ..............」
「なるほどねぇ.......」
小学生の時の話をまず先に出すと、二人の反応はそれぞれ違っていた。望乃夏さんは興味深そうに聞いて、茉莉花のやつはそっぽ向いてやがる。
「そっかぁ。確かに、自分の当たり前がいきなりひっくり返されたら、そうなるよね。しかも周りから拒絶されたとなると.......」
「えぇ、あの時はほんとに荒れました..............メシを拒んでみたり、頑なにズボンで通そうとしたり。中学上がる段階になっても、スカートなんで穿きたくなかったから制服の採寸拒んだし。.......でもやっぱし時間は止められなくて、小学卒業する少し前に、身体の方から強制的に『お前は女だ』って告げられました」
いつの間にかお腹に置いていた片手のひら。その時に泣き叫んだことは、いつまでも鮮明に焼き付いて忘れさせてもらえない。
「..............あー、確かになぁ..............周りは『通過儀礼』とか言うけど、ぼくらにしてみれば『死刑宣告』みたいなもんだしな.......」
「変わらざるを得ない、って思い知らされるんだよね」
両脇の声も沈んでいって、三人とも自然と前のめりになる。
「..............生きづらいよね、ボクらって」
ぽつりと呟いた望乃夏さんの言葉。それだけ、たったそれだけの言葉に、ぼくらの十六年が集約されている。
「自分は変わりたくないのに、周りは変われ変われと言い続けて、遂には自分の内側からも変われと促される。その過程で折れちゃった子も、この星花だけでも両手の指じゃ足らないと思う」
「.......結局、その中で生き残れたぼくらは、恵まれてたんすかね.......」
恵まれてる、か。茉莉花の言葉にひっかかりを覚える。..............本当に、そうなのかな。
「.......凉ちゃん、改めて聞くけれど..............自分を、受け入れられる? 」
その問いに無言で首を横に振る。
「だよね、受け入れられないよね。でも..............いつかは受け入れるしかないんだ。この仕組みは変えようがないし、歯向かい続けても擦り切れてく。そんな中でも、ね。自分を保つ方法、凉ちゃんならもう知ってるでしょ? 」
「.....................『ぼく』、ですね」
「そう、それ。自分を飾るアクセサリーだけは、簡単に捨てちゃダメだよ、覚えといて。あとは.......」
「あー、茉莉花こんなところに!!」
「げぇっ!? しおーん!?」
せっかくいいとこなのに闖入者。なんなんだこいつ。
「イテテ、しおーん、なんだよぉ」
「一緒に朝ごはん食べる約束でしょ、部屋に行っても全然居ないんだから、もー」
「だからって耳ひっぱんなよっ、とれるっ、もげるぅ、」
なんてケンカをしながら茉莉花が赤毛の女に引っ張ってかれる。..............思わず望乃夏さんに視線を向けると苦笑してて、
「..............あー、続けようか.......」
「ですね.....................ん? 」
向こうからまた誰か歩いてくるし.......あ、今度は望乃夏さんの様子が、
「ゆ、ゆき.......の.......」
「あら望乃夏、こんなとこで何してるのかしら? 」
「ちょ、ちょっとお風呂に..............」
「なによ、なら私も誘ってくれればいいのに..............私だって望乃夏に..............」
と、その先を言いかけて口ごもる。一体ナニをしたんだろう..............
「と、とにかく望乃夏、練習終わったからご飯食べに行きましょ」
「あ、もうそんな時間か。..............ごめんね凉ちゃん、今日はこれで」
「あ、はい、ありがとうございました」
望乃夏さんも居なくなって、ぼくはソファーの真ん中に一人取り残される。
..............自分を飾るアクセサリー、か。
ぼふんと寝転んで天井を眺める。
結局ぼくの答えは出ないまんま。
とりあえずここまで




