レストラン。
だいぶ放置しちゃった
ファミレスのゲートをくぐると、いきなりむわっとした食べ物の匂いに包まれる。………………あ、ゆみりの目がキラキラしてる。
「わあっ………………ハンバーグに、ムニエルに、それにこれは………………ヒレカツの匂いだぁっ」
「いや、なんで分かるのさ………………」
………ゆみりには特殊能力でもあるのか?
「2名様ですねっ、それではこちらにどうぞっ」
外のフードコートとはうってかわって空席の目立つファミレスで、ぼくたちは待たされることなく席へと案内される。早速メニューを拡げたゆみりは、さほど悩む様子もなくぱっぱぱっぱとオーダーを決めていく。
「えっと、ハンバーグセットにポタージュスープ、あとクリームソーダで。あ、ソースはおろしとデミグラスソース………うーん、デミグラスにしようかなぁ。すずちゃんは?」
っと、いきなり振らないでくれよ。こっちはまだ何も考えてないんだから。
「そうだなぁ………………山盛りポテトとコーラでいっか」
「えー、それだけでいいの? 」
「うん、それだけで」
む、ゆみりが不満げな顔してる。………………しょうがないなぁ。あんまり食べたくないけど………………
「じゃあサラダも追加」
まだまだ不満げな様子のゆみりを放っておいて、店員を呼んでさっさとオーダーを伝える。
「あ、私野菜炒めも追加でお願いします」
え、ゆみり、ここにまだ足すの? ………………ほんとに底なし沼なんだなぁ、ゆみりのお腹は。
「あ、すずちゃん今失礼なこと考えなかった?」
「べ、別にぃ? 」
あ、顔に出てたか………………
「そ、それより、ゆみりは食べ物だと何が好きなんだ?」
とっさに話をすり替えると、ゆみりはやや不満げな顔のまま、
「うーんとね、私は基本嫌いなものないよー。あ、でもね、ハンバーグが一番好きっ。家でねっ、こうやってお肉をこねて丸くしてっ、焼いてケチャップで食べるのが一番好きっ」
お、ゆみりが一瞬でキラキラし始めたぞ? ごはんの話になると機嫌直るのかぁ、と頭の片隅にメモしておく。
「でねっ、かけるソースはー………………って、すずちゃん聞いてる?」
「うんうん聞いてるよ」
はいうそです。ほんとは全然聞いてませんでした。
「むぅぅ………………」
何か言いたげなゆみりだったけれど、それを遮ったのは熱々のお皿だった。
「お待たせしました、ハンバーグデミグラスソースです」
「わぁっ!!」
歓声を上げるゆみり。焼きあがったばっかりのハンバーグはまだジュージューと音を立てて食欲をそそるし、付け合わせの野菜もそこまで貧相じゃない。………………ちょっと欲しいかも。
そうこうしている内に残りのオーダーも運ばれてきて、テーブルの上は一気に狭くなる。2/3……いや3/4ぐらいはゆみりのオーダーだけど、こんなに食べ物を並べられるとなんだか胸焼けがしてくるし、どこかきゅうくつさを感じる。とりあえず手前にコーラを持ってきて、ぼくは山盛りのフライドポテトを一本づつ摘んではケチャップとマヨネーズの小鉢に潜らせては口へと運ぶ。うん、ジャンクフード最高。
「すずちゃん、そんだけじゃ足らないよ。野菜炒めも食べて」
ずいっと野菜炒めの皿をゆみりが押し付けてくる。………………なるほど、わざわざ追加で頼んだのに手をつけてないと思ったら、ぼくに食べさせる為だったか。
「いや要らないよ、ぼくはこれだけあれば充分。ゆみりが食べなよ」
と肘で押し返すと、
「ダメっ。すずちゃんはもっと食べないと倒れちゃうよぉっ」
負けじとお皿ごと押し付けてくる。
「いや要らないからっ」
テーブルから押し出されそうなポテトの皿を掴んで避けると、
「ダメっ、すずちゃんは食べてっ」
「いやいらないよっ!!」
そんな押し問答をしているうちに、ついにぼくも堪忍袋の緒が切れた。
「ああもうっ!! ゆみりはなんでぼくに無理強いするのっ!? ………………ぼくのことを分かってくれたと思ってたのに、それは間違いだったの!?」
「ふぇっ!?」
ゆみりがビクっと震えたかと思うと、その大きな目からぼろぼろと涙がこぼれ始める。
………………あっ、やっちゃった………………
「ゆ、ゆみり………………?」
「す、すすちゃんの、ばかっ………………」
やばいっ、これ大泣き来るやつだ!?
「ゆ、ゆみり落ち着いてっ!! ごめんっ、謝るからっ、」
………………ダメだ、治めきれそうにない………………そ、そうだっ、
「ほ、ほらゆみり、ぼくは野菜炒め食べるよっ」
ヤケクソで野菜炒めの皿を掴むと、一気に口の中へと押し込む。………うっぷ、なんか上がってきそう………………
「す、すず、ちゃ、んっ?」
ゆみりが呆気にとられてこっちを見てる。よし、もう一押し…………
「ほーら綺麗に食べちゃったよー………………」
うっぷ吐きそ………………コーラで流し込んだはいいけど逆効果だったかもしれない………………恐る恐るゆみりの様子をうかがうと、
「すずちゃん………………も、もうっ、お行儀悪いよっ、そんな食べかたしてっ」
「えー………………」
なんだよ、ゆみりを泣かせまいと無理やり食べたのに………………
「………………あぁそーかい、ぼくはお行儀悪いかい」
ぷいっとそっぽを向いてコーラを飲む………………………………なんだよ、せっかくゆみりの為に気を使ったのに………………あと、大嫌いなピーマンも混ざった野菜炒めを食べたのに………………なんでそんな態度なのさ………………
お皿に残ってたポテトをひとまとめにして口に押し込み、ぬるいコーラで押し流す。………………ちぇっ、やっぱしどれも同じ味しかしねぇや。
「………………あ、あの、すずちゃん……………………?」
「………………なに? 」
向こうも正気に戻ったのか、恐る恐るといったように話しかけてくる。
「………………怒ってる?」
「………………まぁね」
むしろこれで怒ってなかったらどれだけいい人なんだよ、ぼくはそこまで善人じゃないんだけど。
「その………………ごめん………………わたし………すずちゃんが心配で………」
「………心配してくれるのはありがたいけどさ。その………………押し付けられるのだけは、嫌だから」
「ご、ごめん………………」
………あ、このままいくとまたゆみりが泣きだしそうだな………………
「…………そのハンバーグひと切れくれたら許してあげる」
「ほ、ほんと? 」
ま、この辺が落としどころかな。
「はい、すずちゃん」
「お、さんきゅ………………って、ゆみりちょっと待て!?」
ゆみりから差し出されたのは、ハンバーグひと切れ。だけどそれは、未だにゆみりのフォークに刺さったままで。
「はい、すずちゃん」
「う、うん………………」
(なんで『あーん』なんだよっ!?)
恐る恐る口を開けて、ゆみりのフォークのその先を咥える。
「どお? おいしい?」
「う、うんっ、美味しいよ………………/////」
「そっか♪ なら良かった♪」
そう言うと、ゆみりはまたハンバーグを切り分け始める。そして切り取ったひと欠片を、さっきのフォークに突き刺してなんの躊躇いもなく自分の口に入れた。
(………………ぼくが、咥えたとこっ………………)
思わず自分の口に手を当てる。その間にも、ゆみりはハンバーグを切り分けてフォークを何回も口に運んでいく。その度になんだかぼくの背中がむずむずしてきて、
(………………ゆみりのバカ………………)
気の抜けかけたコーラのストローに口をつけて、いつの間にか熱を持っていたほっぺたを膨らませてぶくぶくするのだった………………




