表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/101

第99話

京 礼庵の診療所―


みさの驚いた顔に、東はふと眉を寄せた。


東「…どうした…?」

みさ「…東先生も…ご存じないんですね。」

東「…なんだ?なんのことだ!?」


東は何か悪い予感がして、みさの両腕を掴んだ。


東「あいつに何があったんだっ!?」


みさの目から涙が溢れ、ぼろぼろとこぼれた。


東「みさっ!!」


みさは、そのまま東の胸にしがみつくようにして泣いた。


……


東は、礼庵の部屋で、みさと向かい合わせに座っていた。

ただ、呆然としている。


東「結局…京ヘ…帰ってこないのか…。あれから…ずっと…」


そう呟いた。

礼庵は東と別れた時、確かに京ヘ帰ると言っていた。鳥羽伏見で死んだ中條の墓を作るんだとも言っていた。そんな強い意志で帰っていった礼庵が、京ヘ戻らない理由などない。…やはり、あの頃の官軍につかまってしまったとしか考えられなかった。

しかし男姿をしているとはいえ、女だということは、いずればれたはずである。たとえ当時の官軍でも、女性の…それも医者として関わっていただけの礼庵を拷問したり、殺したりすることは考えられなかった。

その上、明治2年には「大赦令」が出て官軍に抗したものが赦されている。そして、土方のような戦没者にしても、今年になって赦免され、自由にその霊を弔うこともできるようになったのである。仮に礼庵が官軍につかまったとして、監禁等を余儀なくされたとしても、少なくとも明治2年には解放されたはずである。

それなのに戻らなかった…ということは…。


東「…みさちゃん…礼庵が、官軍につかまったのだとしたら…あいつは、死を選んだような気がする…。」

みさ「……」

東「官軍につかまって、沖田さんの居場所とか、新選組のこととか、なんらかの取り調べを受けた時か…あるいはつかまった時点で、自害したんだと思う…。…それ以外に…京に帰ってこない理由は考えられない…。」


みさは、泣きながらうなずいている。みさも同じことを考えていたのだった。


東「…あの…ばかやろうが…。…やっぱり、止めるべきだった…。」


東は、うめくように呟いた。そして、みさの前でひれ伏した。


東「みさちゃん…すまんっ!…俺のせいだっ!俺がどんなことをしてでも、あいつを止めるべきだった!!謝ってもすむ話じゃないが…どうか赦してくれ!!」

みさ「東先生…!」


みさが、東の両手を取り上げさせた。


みさ「ええんどす…。先生は…誰が何を言ったって…ここに帰ろうとしはったと思います。」


東はなおも首を振って、その場に伏せた。…必死に冷静を保とうとしていたのだが、やはり無理だった。溢れる涙が止まらず、ただただ、その場に伏して泣き続けていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ