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第97話

総司の死から7年後…明治7年―


東は34歳になっていた。ずっと亡父の建てた養生所を守っていたが、ある目的があって、京へとやってきたのだった。


東「年は取りたくないなぁ…。礼庵の診療所がどこだったのか…全くわからなくなっちまった!!」


東は、壬生寺の周辺をうろうろとしている。7年前とは、町の様相が変わってしまっていたのである。


東「おかしいなぁ…壬生には違いなかったんだが…。ええと…?」


坊城通りまで出てしまい、東は困惑した。


……礼庵からは、あれからずっと文が来なかった。京へ帰るうちに官軍につかまったとは思いたくない。…が、京に戻ったら必ず文を出すと言っていた礼庵が、自分との約束を忘れたとも思えない。東から文を出そうともしたのだが、官軍に礼庵の居場所を知られることを恐れ、「大赦免」後も東からは出せずにいた。


ずっと、京ヘ行かなければと思っていたのだが、父の死後、養生所の責任者になった東は、養生所から離れるわけには、いかなかったのだった。

そのため礼庵からの文を待ち続けたが、7年経った今も届かない。


昨年、江戸へ帰ってきた総司の姉みつからも、「礼庵先生にお礼がしたい」という文が来ていた。…が、向こうから文が届かないんじゃ、なんともできない。

やっと、養生所を任せる医者を雇った東は初めての休みを取り、礼庵を訪ねるため、京まで来たのだった。


東「あ、ちょっとすいません。」


東は、坊城通りを歩く老婆に声をかけた。


東「この近くに、礼庵って医者の診療所はありませんかね???」


老婆は微笑んで答えた。


老婆「ああ、礼庵先生かい?知ってるよ。」


東は、ほっとした。その老婆の言葉で、礼庵が生きているのだと確信できたからである。

老婆は親切にも、診療所の傍まで連れて行ってくれると言った。その老婆は、息子の都合で最近、壬生へ越してきたのだという。持病の腰痛にずっと悩んでいたのだが「礼庵」の評判を聞き、最近通いはじめたのだそうだ。


老婆「ほんに、ええ先生じゃ。わしの腰痛なんざ治らんのをわかっとるのに、毎日膏薬を作り変えてくれとるし、一生懸命に治療してくれはる…。それに年寄りや子どもはもとより…他の医者が嫌がるようなやくざもんにまで、優しゅうしはるんじゃ。なかなか、あんな先生はおらんわなぁ。」

東(そんなこと…7年以上も前から知ってるさ。)


東はそう思いながらも、老婆の言葉に逆らうことなく、相槌を打ちながらついていった。

老婆が続けた。


老婆「でもなぁ…礼庵先生…もうええ年頃なのに、まだ所帯を持とうとしまへんのや。」

東「????」


東は微笑みながらも、首を傾げた。もういい年頃…?礼庵は自分と同い年のはずである。


東(ああ…いい年こいて、結婚もせんという意味か。…あいつ、やっぱりまだ独り者なんだなぁ。)


東は、そうほくそ笑みながら、老婆の後ろについて歩いた。

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