表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/101

第95話

総司の療養所―


総司の密葬は、その名の通り密やかに行われた。礼庵自身、総司を埋葬した寺の名前を聞かなかった。

たとえ死後でも官軍に見つかれば、総司はその首を切られて梟首きゅうしゅされてしまう…。これは、大げさな話ではない。

礼庵は密葬から、納屋の後片付けまで手伝った。

そこで総司が、隠れ生きていた…という痕跡をすべて消し去ったのである。


すべてを終えた礼庵は、明け方になって植木屋の門を出た。すると、あの黒猫が、耳をぴんと立てて行儀よく座っていた。

礼庵は、猫の傍にしゃがみ、黒猫の体を撫でてやった。


礼庵「…総司殿の最期を看取ったのは…そなただけだったね。…そして、約束どおり、よく伝えに来てくれたね。ありがとう。…」


黒猫は、気持ちよさそうに目を閉じている。


礼庵「私は、京ヘ帰らねばならない。…そなたはどうする?」


黒猫は目を見張って、礼庵を見上げた。そして、一つだけ「にゃあ」と泣いた。


礼庵「そう…ここにいるんだね。」


何故だか、礼庵には黒猫の気持ちがわかったような気がした。もしかしてついてくるのかとも思っていたが、黒猫の目を見ていると、そうでないような気がしたのだ。


礼庵「では、黒猫殿…お元気で。…また…会えるといいね。」


礼庵は黒猫の頭を撫でると、立ち去って行った。

黒猫は、座ったまま礼庵を見送っている。礼庵の姿が見えなくなっても、ずっとその場から動かなかった。

…この黒猫はその後、植木屋へ姿を現すことはなかった。


……


庄内 姉みつの家―


みつに文が届いた。


その文が、植木屋の主人からとわかった時から、中は予測できる。みつは、中を見る前であるにもかかわらず、先に涙があふれた。

が、とにかく文を開いた。

必死に涙を拭いながら読んでいたが、総司の死のことが書かれたところで、また字が見えなくなった。

みつは一度、手ぬぐいで涙をきれいに拭ってから、再び読み始めた。


みつの目に「礼庵」という名が飛び込んできた。

そして、土方からの手紙に書いてあった言葉を思い出した。

やはり「礼庵」は京から来て、最後まで総司の世話をし、密葬の際も、植木屋の主人達の手助けをしたという。


みつ「せめて…お礼を言いいたいけれど…」


みつはしばらく口元に手を当てて泣いていた。

すぐにでも、総司の墓に線香をあげてやりたい。…が、庄内からそう簡単に行ける距離ではない。


結局…みつ達が江戸に戻ってきたのは、明治六年になってからだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ