第93話
会津―
土方の足はまだ癒えていなかった。いらいらする気持ちをこらえながら、土方は今日も部屋で不貞寝をしている。
「土方さん。」
何か呑気なその声に、土方は声の方を見た。
総司が、にこにことして座っている。
土方「おいおい。また出てきやがったか。」
土方はそう答えて、体を起こした。…が、ぎくりとした表情になり、総司の顔をまじまじと見た。
土方「…おまえ…まさか…!?」
総司「あれ?どうしてわかったんですか?」
総司は、なおも呑気に答える。
土方「…だって…おまえのその顔…」
総司は、京に来た時の頃のように若返っていた。生霊で出てきた時のように、やせこけていない。
土方「…死んじまったのかっ!?…おまえまで…とうとう…死んでしまったのかっ!?」
土方は、搾り出すような声で総司に言った。総司は、微笑んだままうなずいた。
総司「ごめんなさい。土方さん。…土方さんより、長生きできませんでした。」
土方「…総司…!!」
土方は、その場に伏せて号泣した。
総司は、そんな土方の傍に来て、そっと背中に手を乗せた。
総司「ずっと見守っています。…土方さんのこと…。」
そう言ったとき、総司はふと顔をあげた。
総司「ほら…土方さんが泣くから、市村君が来るじゃないですか。…私はもう行きます。…みんなが待っているから。」
土方「待てっ!!行くなっ!!」
土方がそう言って顔を上げた時は、総司の姿は消えていた。
土方は、総司が座っていたところに両手を置いた。何か、温かいような気がした。
土方「…総司…!…ばかやろう!!」
土方は再びその場に臥せった。そして、堪えることもなく号泣した。
号泣する声に驚いて入ってきた小姓の市村は、困惑したように土方の後ろで立ち尽くしていた。




