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第91話

総司の療養所―


総司は目を覚ました。だがもう、ぼんやりとしか周りが見えない。


総司(…朝…だろうか?…それとも…夕暮れ…?)


総司は体を起こすどころか、腕を上げる気力もなくなっていた。

外へ顔を向けると、黒猫が縁側に座っていた。

総司は、そちらに顔を向けることはできたが、もう声を発することができない。

そして、黒猫を手招きすることもできなかった。


しかし、黒猫は総司に近寄ってきた。今までは、総司が呼ばなければ傍へ来ることもなかった。

黒猫は、何かを悟ったのだろう。総司の顔へと鼻を近づけてきていた。


総司「…あり…がとう…黒猫殿…」


総司はかすれた声で、黒猫に言った。黒猫は目を見開いて座り、じっと総司を見ている。


総司「…ずっと…いてくれて…ありがとう…」


総司の目から涙が流れ落ちたのを見て、黒猫は一層目を見開いて腰をあげた。そして、総司の頬を涙とともに舐め始めた。


総司「…たぶん…私はもう駄目でしょう…。二度と目を覚ますことはできない…」


黒猫は、総司の頬を舐めることをやめない。


総司「…ありがとう…黒猫殿。…もう寝ます…。なんだか…眠いんです…。とても…眠い…。」


総司はそう言うと、目を閉じた。そして寝息を立てて眠り始めた。


「にゃぁん」


黒猫は鳴いた。そして、鼻で総司の頬をつついてみた。…が、総司の寝息は止まらなかった。


「にゃぁん…にゃあん…」


黒猫は何度も鳴いた。…が、総司が目を開くことはなかった。

黒猫は、総司の枕元をうろうろと歩き始めた。何かを迷っているようだった。


「にゃあん…」


黒猫はもう1度、総司の顔元で鳴いた。そして、また総司の口元に顔を近づけた。

…その時、黒猫の動きが止まった。…寝息が止まっていたのだ。

黒猫は何度も総司の頬を鼻でつついた。が、総司は動かない。


黒猫は一度、大きく目を見開くと、総司に背を向けて駆け出し、縁側を飛び降りた。


礼庵『…そなたにお願いがあります。総司殿の様子がおかしくなったら、私を呼びに来てくれませんか?そなたが匂いをつけたこの袴を、今日履いたままでいますから。』


黒猫は、礼庵の元へと必死に走った。

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