第9話
京 新選組屯所―
「総司…総司…」
総司は驚いて目を開いた。座ったままで眠っていたらしい。
そんな総司を起こしたのは、山南だった。
横に立って、総司を見下ろしている。
山南「器用な奴だなぁ。出動前だと言うのに、よく寝られるもんだ。」
総司「出動?」
総司はふと、自分の体を見た。まだ隊服すら着ていない。
総司「!すいません!…どこへ行くんでしたっけ?」
総司はあわてて立ち上がり、山南に並んだ。山南が笑った。
山南「全く、どうしたんだい?出動前ってのはうそだよ。ついさっき帰ってきたところじゃないか。」
総司「え?」
総司はあわててあたりを見渡した。すると、平隊士達が皆、それぞれ平服でくつろいでいるのが目に入った。
中には中條と畑野がいる。楽しそうに談笑していた。
総司は何か懐かしさに胸が熱くなった。
総司「中條君、畑野君…君たち、ここにいたんだ…」
思わずそう言って近づくと、中條がふと総司に向いた。
そしてにっこりと笑って言った。
中條「先生が来るには、まだ早いですよ。」
総司「え?」
総司は思わず立ち止まった。山南もうなずいて、総司から背を向けて離れた。そして、皆、同じように総司に背を向けて離れていった。
総司「山南さんっ!…中條君…待って!」
皆、その総司の呼びかけには気づかないように去っていく。
突然、総司は一人暗がりの中に取り残されたようになった。
その時、遠くから自分を呼ぶ声がした。
女性の声である。
総司はあわててあたりを見渡した。




