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第89話

総司の療養所―


総司は、唇を離した礼庵に、やっとの思いで言った。


総司「…あなたに…病気が…」


礼庵は、手ぬぐいで総司の口を優しく拭いながら


礼庵「今は自分のことだけを考えなさい。」


とたしなめた。そして総司を寝かそうとした。


総司「このままで…いてほしい」


総司は思わずつぶやいていた。礼庵の体のぬくもりをずっと感じていたかったのだ。礼庵は微笑んでうなずいてくれた。そして総司の頭を胸元に引き寄せた。


総司(…私はどうかしている…まるで、子供じゃないか…)


総司は礼庵の胸の中でそう思ったが、寝るように言われ目を閉じた。


……


総司は夢を見た。


川では子供たちが遊んでいる。そして、川原に座っている自分の横には恋した人がいた。

何かお互いに笑いながら話している。何を話しているのかわからないのだが、何か楽しくて仕方がない。


総司(ああ、このまま時が止まればいいのに…)


総司は子ども達を見ながらそう思った。その時ふと振りかえると、遠く離れた所に礼庵が微笑んで立っていた。

優しい目でこちらを見ている。総司は手招きするが礼庵は首を振った。そして優しい微笑を残し、背を向けて歩き出した。


総司「待ってください!どこへ行くのです!」


あわてて呼びかけて、立ちあがった。だが礼庵の背が小さくなっていく。


総司「行かないで下さい!」


……


はっと目を覚ました。すると礼庵の顔が見えた。ずっと自分の体を抱いていてくれたのだった。夢の中と同じように優しい目で自分を見ている。


総司(そういえば、いつもこの人はそうだった。いつも遠くから自分を見守っているような…そんな人だった)


総司は自分の体をおろすよう、礼庵に言った。しかし礼庵は首を振って、抱きつづけてくれた。

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