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第86話

総司の療養所―


総司は言った。


総司「女らしさを捨てた…というのは、何故ですか?」


礼庵はうつむき、しばらく黙り込んだ。そして、意を決したように顔を上げて言った。


礼庵「…私は子が産めぬ体なのです。」

総司「!?」

礼庵「子どもの頃、毎日のように父から折檻を受けましてね。…とおの時、父に腹を蹴られた衝撃で、子宮が破裂してしまったのです。」


総司は言葉が出なかった。礼庵が続けた。


礼庵「…この時代に、子の産めぬ女は、女として生きていけない…そう自分で思った時から、男姿をするようになりました。」

総司「……」


総司は、礼庵の手を握り直しながら言った。


総司「そんなあなたの気持ちを知らずに…私は今まで、あなたを男扱いしていた…。…許してください。」


礼庵は、目を見開いて首を振った。総司は言葉を続けた。


総司「…今更、こんなことを言っても信じてもらえないかもしれませんが…あなたの優しい気遣いは、とても女らしいものでしたよ。」


礼庵の目からふいに涙がこぼれた。

総司は、しっかりと手を握ったまま、礼庵の涙を見つめていた。


礼庵は、しばらく涙を流したまま、黙っていた。

お互いの手は、つながれたままである。

総司はただ黙って、礼庵を見ていた。


礼庵「…お見苦しい顔を…見せてしまって…」


礼庵がそう言って、微笑んだ。

総司は首を振った。


礼庵「何か…気が楽になりました…。どうしてだろう…。」


礼庵はそう言いながら、空いた手で涙を払った。


総司「それを聞いて…私も楽になりました。…やはり、もっと早くに告げていたらよかった…」


総司は心底から後悔していた。何故もっと早く…そう…できれば、自分が元気なときに告げていれば…。

その総司の気持ちがわかるのか、礼庵は首を振った。


礼庵「今だからよかったのかもしれない。…私は変なところで意地を張るところがあるから…」


総司はそれを聞いて、小さく笑った。

二人は、再びお互いの手を握り直した。

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