第84話
総司の療養所―
総司は、礼庵に無理やり食事をさせられた後、重くなった体を横たえていた。
無理やり…と言っても、さほど食べてはいない。ただ、消化のいいかゆを茶碗八分だけ食べただけである。
それだけでも、体が重くなるのだ。…いや、体というより、下腹部に重みを感じる…という方が近いだろうか。
消化がいいはずのかゆだが、総司には負担の大きいものだった。
…それは、総司の体が弱りきっていることを示していた。
総司自身も死期が近づいているのはわかっていた。
総司(…やはり…言った方がいいかな…)
総司は甲斐甲斐しく自分の世話をしてくれている礼庵を見て、そう思っていた。
昨日の夢で、土方に逢った時から考えていたことである。
土方は、礼庵を一目見た時から、女だと悟っていたらしかった。
それも、総司よりも早くに…である。
今考えてみれば、礼庵が男だと信じていた自分の方が、おかしいように思う。
しかし出会った時は、男だと信じて疑わなかった。
礼庵の顔は、はっきりとした顔立ちで、精悍な青年のように見える。しかし、にっこりと微笑んだその顔は、とたんに柔和な優しい菩薩のような表情になるのである。
総司が今悩んでいるのは、礼庵に「女であることを知っている」と告げるべきかどうかだった。
『女だと知っていることを言ってやれ。あの女医者、おめえに惚れてる。』
土方に、そんなことを言われた記憶がある。
しかし言ってしまえば、礼庵との友情が壊れてしまうような気がした総司は、首を振った。
今でも、それが壊れるのが恐い。
…が、もう死期が近づいている。それに、礼庵と自分の関係は、そんなことで壊れることはないようにも感じていた。
総司の額に乗せていた濡れ手ぬぐいを、礼庵がすっと取り去り、冷たい手ぬぐいを乗せてくれた。
ひんやりとした感触に、総司は気持ちよさを感じた。
総司「…礼庵殿…」
総司はおもむろに声をかけた。礼庵は「はい」と答えて、その柔和な微笑で総司を見下ろした。




