第83話
会津―
土方はいつの間にか眠っていたことに気づいた。
はっと目をさますと、さっきまでいたと思っていた総司がいない。
土方は体を起こして、しばらくぼんやりとした。
土方「…夢だったのかな…?」
さっきまで、夢の中で目を覚ましていたにすぎなかったのではないかと土方は思った。
しかし、土方の傍には総司のぬくもりのようなものが残っているような気がした。
土方「…来ていたんだろうな…。」
土方は寝転んで小さく笑った。
土方「また生霊になって、総司のところへ行くか。」
そう呟いた。
……
総司が目を覚ますと、夕方になっていた。
黒猫はいつの間にかいなくなっている。
総司「…礼庵殿が来る頃か…」
総司は黒猫がいつも礼庵を出迎えていることを知っていた。
動物の感というものは鋭いようで、黒猫がいなくなってからすぐに礼庵が来るのである。
いつも決まった時間に来ると言っても、養生所での仕事で、かなり遅れることもある。
その時はその時で、黒猫はずっと総司の傍におり、くいっと顔を上げていなくなったかと思うと、しばらくして礼庵が来るのである。
総司「動物の感…か。」
総司も京にいた頃は、後ろの人間に殺気があるかないかくらいは、感じることができた。
背中をすっと冷たい手で触られたような不思議な感覚があった。
…しかし今は、もう鈍感になってしまっているような気がした。目を閉じていて、礼庵がいつの間にか横に座っていたことがある。
そして…今も…。
総司は目を開いた。やはり、礼庵が傍に座っていた。




