第82話
会津―
土方はしばらく黙り込んでいた。
生霊の総司は黙って、土方の言葉を待っている。
土方「…俺にもわからねえんだ…。本当のところ…。」
総司「…え?」
土方はそう嘘をついた。
土方にも、近藤が流山で晒し首になっていることは知っている。
だが、総司には言えなかった。
総司「ご存じないんですか?」
土方「ああ…。流山で近藤さんと別れた。…その後のことは知らん。」
総司は、土方と近藤が別れた理由を聞きたかったが、聞けば土方に怒られるような気がして黙り込んだ。
総司「そうですか…。土方さんも知らないんだ。」
土方はだまったままである。
ただぼんやりと、組んだ手を枕代わりにして寝転び、天井を睨んでいた。
総司「…近藤先生…夢の中に出てきたんです。」
総司がそう呟くと、土方が飛び起きて総司を見た。
土方「近藤さんがっ!?…どんな様子だった…!?」
総司はその土方の様子に驚いたが、再び視線を落として答えた。
総司「…たぶん、あの時も私は生霊だったんだと思います。京の川辺で子供達が遊んでいるのをぼんやり見ていたら、中條君が来て「江戸に帰れ」って言うんです。」
土方「…それで?」
総司「私が「嫌だ」と言うと、中條君が近藤先生を呼んだんです。そして近藤先生が、私の背を優しく叩いて何かをおっしゃったんですが…」
土方「何て言った!?」
総司は首を振った。
総司「わかりませんでした。何を言われたのか聞こえませんでした。…その時、体が急にふわりと浮いて、近藤先生と離されてしまいました。それで夢から目覚めてしまったんです。」
土方「……」
土方は黙り込んだ。そしてため息をついた。




