第8話
総司の療養所―
総司はぼんやり外を見ていた。
後ろでは、姉が総司の寝着の破れを縫っている。
総司「ねぇ、姉さん。」
みつ「なぁに?」
総司「…兄さんに怒られないの?毎日、私の面倒ばかり見に来て…」
みつは笑った。
みつ「怒らないわよ。そんなこと気にしないの。」
総司「…うん…」
家の用事などもあるだろうに、総司は申し訳ない気持ちだった。
もちろん、姉と一緒にいられるのは嬉しいが…。
総司はふと振り返って、美しい姉の顔を見つめた。
幼い頃、姉から離れるのが辛かったことを思い出した。
みつ「なぁに、総司…?」
みつが、そんな総司の視線に気づいた。
総司「…姉さん、年取ったね。」
みつ「あら、何を言い出すかと思ったら、ひどいわね。」
総司「綺麗なのは変わらないけれど。」
みつ「ふふふ。人をからかわないでちょうだい。」
みつは、まんざらでもない顔をした。
みつ自身も、総司と一緒にいられるのが嬉しかった。総司を、まだ幼いというのに家族から無理やりに離し、辛い思いをさせたという罪悪感もある。
みつ「ねぇ、総司。…眠くない?」
総司「え?」
突然の言葉に総司はとまどった。
総司「今起きたばっかりだよ。」
みつ「そう…そうね。」
みつは自分でもおかしくなって笑ってしまった。
総司「どうしたの?姉さん。」
みつ「あなたの小さいときのことを思い出したのよ。…よく、あなたに子守唄を唄ってあげたことをね。」
総司「…唄ってくれようとしたの?」
みつ「…どうしたのかしらね…私。」
みつはそう言ったとたん、急に涙をぽろぽろとこぼした。
総司「姉さん…泣かないでよ…ねぇ…」
総司が驚いて、みつの傍により、背に手を当てた。
みつは、ただ両手で顔を覆って泣いている…。




