第79話
総司の療養所―
総司は床の中で、礼庵のことを考えていた。
そのうち、眠気が襲い、総司は夢の中へ入っていった。
……
総司は礼庵の診療所へ向かっていた。
いつもなら婆が門の前にいるのに、その日は姿を見なかった。
総司「礼庵殿…?…」
そう、門から声をかけるが、返事もない。
そして、誰も出てくる様子はなかった。
総司は門へと入り、玄関を開いて、中へと入っていった。
礼庵も誰も出て来ようとはしなかった。
どの部屋へ入っても、人がいない。
総司「?…おかしいな…皆、どこへ行ったのかな…?」
総司がそう言って、庭へも回ってみるが、誰もいなかった。
総司「礼庵殿!!」
……
「総司殿!?」
その声に総司ははっと気づいた。
礼庵が心配そうな表情で自分を見ている。
総司「礼庵殿…?」
礼庵「どうしました?総司殿。…誰かを呼んでおられましたが…」
総司は、はっとしたが、「いえ…何も」と言葉を濁した。
総司「夢を見ていました。…誰も、いない夢を…」
礼庵「総司殿…」
礼庵が笑顔を見せて言った。
礼庵「総司殿には、必ずどなたかが守ってくださる方がいます。…何も心配なさることはありませんよ。」
礼庵のその言葉に、総司はうなずいた。
何よりも、心強い言葉だった。




