第78話
総司の療養所―
昼、総司は久しぶりに黒猫を膝に抱いていた。
総司「黒猫殿…今までどこへ行ってたのです?」
総司は黒猫の体を撫でながら尋ねた。
しかし、黒猫はちらと総司を見ると、すぐに目を閉じて、総司の膝に丸まった。
総司「…あなたは、また声を聞かせてくれないんですね。」
総司はそう言いながら、黒猫の体を撫でる。
黒猫はじっと総司の膝に顔をうずめたままである。
総司「礼庵殿は…大丈夫かなぁ…」
総司は思わず呟いた。
礼庵は朝方、療養所を出て行った。いつも朝方出て行くのだが、その後、療養所でそのまま仕事をしていることを、総司は知っていた。
総司「…黒猫殿…私はそろそろ、この世から出た方がいいような気がします。」
黒猫はその総司の言葉がわかったのか、くいっと顔を上げた。
総司「生きていても…人に迷惑をかけているだけのような気がするし…。」
黒猫は体を伸ばして総司の頬をなめた。まるでなぐさめてくれているかのように。
何度も何度も総司の頬を舐めていた。
総司「…ありがとう…黒猫殿…。…礼庵殿が来られる前には、元気になっていなくちゃ。」
総司はそう言って、涙をぬぐった。黒猫が舐めてくれていたのは、この総司の涙だった。
黒猫はまだ、総司の頬を舐め続けている…。




