第73話
江戸 東の療養所―
朝方、礼庵は療養所へ戻ってきた。
戸が開く音がしたのを聞いて、東は飛び起き、玄関へと飛び出していった。
東「おっおかえり、礼庵」
礼庵「…ただいま。東さん。」
礼庵はそう東に微笑むと、疲れた様子で、部屋へと戻っていった。
東は、心配なあまり、礼庵について部屋へと向かった。
東「沖田さんは、どうだ?…元気そうか?」
そう言って、閉じられたふすまの外から呼びかけたが、返事がない。
東「礼庵…おい…着替えてるのか?」
そう聞いてみたが、着替えている様子もないので、そっとふすまを開いてみた。
東「!!」
礼庵は、その場に倒れ込むようにして眠っていた。
もちろん、着替える間もない。袴をはいたまま、畳の上で眠っていた。
東「…おいおい…いくらなんでも、痛いだろう…?」
東はそう呟いて、床をひいてやった。
東「…嫌だろうが、ちょっと抱くぞ。」
東はそう言って、礼庵の体を抱き上げた。
礼庵は気づいているのかいないのか、抱き上げられた途端、東の首に両腕を巻きつけてきた。
東「…!(*--*)」
東は顔を真っ赤にした。
東「だっ大丈夫だよ。落としたりしないから…。…まぁ…そのままつかまってくれていても…いいけどよ…」
東はしどろもどろにそう言い、礼庵を床の上へゆっくりと下ろした。
礼庵はそのまま、ここちよい寝息を立てて眠っていた。
東「疲れてるんだな、礼庵…。ということは…沖田さんの具合、よくないんだな。」
東はそう呟いて、黙り込んだ。…総司の死が近づいていることを感じずにはいられなかった。
東「おやすみ、礼庵。」
東はそう言って、部屋を出、ふすまを閉じた。
その後、部屋には礼庵の寝息だけが残っていた。




