第72話
会津―
土方は、療養している清水屋でぼんやりとしていた。
戦で負傷した足が治るまでここで療養するようにという、松本良順医師の薦めに従い、しばらくここにとどまるしかなかった。
土方「総司…」
部屋から見える空を見ながら、土方はつぶやいた。
土方「…おまえ…やせ細っちまったなぁ…」
夢の中で土方は総司に会った。
会いたいと思っているうちにいつの間にか寝入っていたのだが、その夢の中で、土方は確かに千駄ヶ谷へ行っていた。
総司の横には、礼庵が甲斐甲斐しく総司の面倒を見ている姿があった。
土方(あの、女医者…やっぱり、江戸まで来たんだなぁ。)
夢のこととはいえ、何か現でもあるような気がしてならない。
土方「礼庵とやら、総司を頼むぞ。…あいつ…案外、寂しがり屋だからな。」
そう言って、苦笑した。
土方は、組んだ手を頭の下にして、寝転んだ。
ふと試衛館の頃のことを思い出した。
……
「近藤先生…土方先生…いつもどちらに行っておられるのですか?」
試衛館に入ってまもない総司が、突然そう尋ねてきた。
土方「どちらにって…どういうことだい?」
土方がそう総司に尋ねると、総司は困ったような顔をした。
総司「その…よく、行っておられるではありませんか…。夕方になると…よく…」
土方は「ああ」と言って笑った。
土方「あれは、大人だけがいけるところだ。総司も大人になったら、連れて行ってやるからな。」
総司「…私は、まだ大人ではないのですか?」
土方「まだ、九つだろうが…。そんなガキが何を言ってやがる。」
土方はそう言って、総司の額を指ではじいた。
総司「いたっ!」
総司は額を両手で押さえた。
土方は笑った。
土方「焦らなくても、すぐに大人になれるよ。おまえがどんなに嫌がってもな。」
土方はそう言うと、総司に背を向けて部屋へと戻った。
土方(あいつ…どんな大人になるんだろうなぁ…)
…その時は想像もつかなかった。
……
…あれから、十数年…。総司はみるみるうちに大人になってしまった。
いつの間にか、近藤や土方の背も越えて、精悍な青年になっていた。
しかし、夢の中で見た総司は、まるで年寄りのように、やせこけていたように思う。
土方「…総司…。…一緒に京へ戻ろうな…戦に勝ったら、きっと迎えに行くからよ。」
土方は独りそう呟いた。




