第70話
総司の療養所―
夜中、総司は目を覚ました。傍には礼庵がいる。じっと心配げに自分を見ているが、何故か総司が目を覚ましていることに気づいていないらしい。
総司「礼庵殿…」
そう声をかけたが、礼庵はじっと見つめているばかりで動かない。やがて手がこちらへのびたと思ったら、総司の額にある濡れ手ぬぐいをそっと取り、横の桶に浸した。
総司(…おかしいな…)
総司はそう思い、ふと礼庵とは反対側を見た。
そして、目を見開いた。
土方がいる。
腕を組み、あぐらをかいて座っていた。
土方「やっと気づいたか、総司。」
土方がそう言うと、総司は体を起こそうとした。
が、動けない。ふと、礼庵に土方のことを聞こうとそちらを向いたとき、礼庵は何も気づかぬ風で、総司の額に新しい濡れ手ぬぐいを乗せた。
そして、自分の方をじっと見ている。
総司ははっとして、土方の方を向いた。
総司「土方さん…まさか、土方さんは…」
土方「俺ぁ、死んでねぇよ。」
総司「え?」
土方「お前に会いたいと思って念じているうちに、ここにいたんだ。」
総司はやっと笑った。
総司「…生霊ですか。土方さんなら、やりそうなことですね。」
土方「だろう?」
土方もそう言って、頬をいがませて笑った。
総司「近藤先生は?」
その総司の問いかけに土方の顔が暗くなった。
土方「…近藤さんも、近藤さんらしくやってるよ。今は一緒じゃないがね。」
総司「そうですか…。よかった…。」
総司は近藤が生きているものと思い、ほっとした表情をした。




