第7話
総司の療養所―
朝、総司が目を覚ますと、縁側にすずめが来ていた。
総司「おや…?」
おかしいな…と総司は思った。
庭を見てみると、黒猫の姿がない。
総司は少し体を起こして、庭を見渡した。
やはりいない。
ふと、床の脇を見ると、米粒の入った小皿があった。
総司「…あ…ごめんよ。今あげるからね。」
総司は縁側へ出、あぐらをかいて座った。
そして、米粒を庭に撒いた。
総司(そう言えば、最近、黒猫殿を見ないなぁ。振られたかな。)
すずめが米粒をつついているのを見ながら、総司は思った。
何か寂しい気がする。
その時、聞きなれた声がして、ふすまが開いた。
みつである。もちろん、総司にはわかっていた。
みつ「おはよう、総司。」
総司は振り向かないまま「おはよう」と答えた。
みつ「?どうしたの?総司…」
総司「姉さん…黒猫を知らない?」
みつは驚いた表情をした。
みつ「…あの黒猫のこと?」
総司「うん…」
みつ「…庭に入らないようにしてもらったのよ…この家の人に…」
総司は「え?」と言って、姉に振り返った。
みつ「…だって…縁起が悪いんだもの…」
総司はふと眉を曇らせた。そして、もうすずめがいなくなった庭を見た。
総司「…そうだね…」
みつは、総司の何か寂しそうな背中に、よけいなことをしたのではないかと思った。
が、気を取り直すかのように、明るい声で言った。
みつ「さぁ、髪を直して上げるわ。それから、ひげもそらなきゃね。」
総司はふふっと笑った。
総司「そるほど生えてないよ。髪だって・・」
みつ「だめだめ。いつお客様が来るかわからないでしょう?いつもちゃんとしておかなきゃ。」
総司「うん。」
総司が明るい顔でみつに振り返った。
その顔を見て、みつは少しほっとした。




