第65話
総司の療養所―
総司の容態が急変した。
その時は、まだ昼間であり、礼庵のいない時間であった。
最初は総司の咳が止まらず、老婆はただただ背をさすっていたのだが、やがて苦しげな声とともに、血が噴出したのである。
老婆「宗次郎様…気を確かに…」
吐いた血はかなりの量だった。なんとか喉につめずには済んだものの、総司は意識を失い、がっくりと血の上に横たわっている。
初めてのことに、老婆はおろおろしていたが、総司が息をしていることを確認すると、礼庵を呼んできてもらうよう、本宅へと駆け出していった。
……
総司は、目を覚ました。
何か周りが騒がしい。そして外は暗かった。
総司は、しばらくぼんやりとしていたが、やがてはっとして体を起こした。…が、そのとたん、目の前が真っ暗になり、再び体が沈んだ。
「沖田さん、大丈夫ですか?」
その声に横を見ると、藤堂が手ぬぐいで額を押さえている。
総司「藤堂さん…どうしたんです?かなり血が…」
総司が尋ねると、藤堂は自嘲気味に笑って、手ぬぐいを外して見せた。額には赤黒い傷がはっきりと見えた。
総司「!?」
藤堂「間抜けでしょう?こんなところをやられるなんて。」
藤堂はそう言いながら、苦しげな息をついて再び横たわった。
総司「…大丈夫ですかっ!?」
藤堂「沖田さんこそ…熱はどうですか?」
総司「!!…」
そうか…と総司はやっと思い出した。
総司は闘いの真っ最中に血を吐いたのだ。それもかなり大量の血だった。しかし、それを悟られまいと総司はその場を離れ、やっとの思いで部屋を這い出したのである。・・が、その後の記憶がなかった。
総司「!すぐに、戻らなきゃ!!」
総司はそう言って立ち上がろうとしたが、藤堂があわててその総司の手を取った。
藤堂「駄目ですよ。沖田さん…じっとして…。」
総司「しかし…!」
藤堂「もう、中は終わったようです。…大丈夫です。」
総司「…!…」
総司はその場に座り込んだ。
その時、近藤と土方が血だらけの姿になって、総司の傍へと駆け寄ってきた。
「総司!…総司大丈夫か?」
近藤が真っ先に総司のところへ走ってきた。




