第60話
総司の療養所―
総司は咳き込んでいた。横では、礼庵が必死に背をさすっている。
…やがて咳がおさまり、礼庵はなれた手つきで手ぬぐいを総司に差し出した。
総司はその手ぬぐいに、かっと痰を吐いた。
礼庵は、その痰に軽く血が混じっているのを見て、眉を曇らせた。
礼庵(…さほどひどくはないが…咳き込む体力でさえ、失われつつある…)
礼庵は総司を横にならせながら思っていた。
体力が落ちると、うまく痰も出せなくなるだろう。ましてや血を吐くと、かなりの体力が奪われる。そのために喉に血が詰まって死んでしまうこともあるのだ。
それが恐かった。
こうして、礼庵が傍にいる時はいいが、昼間は独りになることが多い。やはり養生所をやめて、ずっと傍にいた方がいいのではないだろうか…と礼庵は悩んでいた。
総司「礼庵殿…」
総司は床から礼庵を力ない目で見上げていた。
礼庵「…なんです?」
総司「…いや…いつも…申し訳ない…」
一瞬何かを言いたそうにしたようだったが、礼庵はそれを問い詰めるつもりはない。
礼庵「お疲れでしょう…。もうお休みください。」
総司「…今夜はいつまでいられますか?」
礼庵「そうですね。明け方までなら…」
総司「…そうですか…よかった…」
総司はそう呟くように言うと、眼を閉じた。
眠ると帰ってしまうのだと思っているらしい。
礼庵はふーっと息をついた。
礼庵「…がんばってください。総司殿…。元気になって…一緒に京ヘ帰りましょう。」
礼庵がそう呟くと、総司が目を閉じたままこくりとうなずいた。




